第六十二話 人間の仕業
ヴェルティカが騎士達に話をする。
まず騎士達からの情報では、国内全土、特に王都にパルダーシュの情報が伝わっているようなので、じきに何らかの動きがあるだろうという事。そして、現状は皆の家族を探しに行く事は出来ず、今やれることは都市の警護をしつつ人が帰るのを待つという事。
その上で問うている。
「あなた達は、このまま当家の騎士でいる事も出来るし、今すぐやめて家族を探しに行く事もできるわ。それは自由に決めていいです」
「そ、それは…」
すると魔導書のマージが言う。
「本来は許されない事だけどね、状況が状況だ。今はこの家に拘束力はないしねえ」
既にしゃべる魔導書の事も皆は理解していた。そしてビルスタークも言う。
「ってわけだ。どうする? お前達の力は欲しいが、家族の方が大切だろう?」
だが騎士達が言った。
「団長。ここに人が戻ってきた時、誰が守ってやると言うんです?」
「家族の帰る所を作るのは俺達、騎士の仕事です。手伝わせてください」
「役に立ちますよ」
「そうですよ。人手がいるでしょ」
するとビルスタークが口角を上げて言う。
「お前達…忙しくなるぞ!」
「「「「はい!」」」」
そして騎士達は、怪我をした体に鞭打って動き始める。まずはこの屋敷の破壊されていない場所を治し、皆の居住区を整える事から始めるようだ。
「さあ。それじゃあ、結界石の様子でも見に行くとするよ」
マージに言われ、俺達は背負子を背負って屋敷を出る。
都市を歩きながら、改めてアランが言った。
「こうしてみると、意外に無事な建物も多いですね」
「良かったわ。人々が戻っても、暮らす場所がある」
「はい」
そうして俺達は都市を抜け、市壁の外側に出る。
「最初の祠にいこうかね」
マージに言われ、ヴェルティカが街道を歩き始めた。俺達がそれについて行くと、都市から少し離れた所で脇道が見えて来る。そこに何らかの目印のような石碑があり、ヴェルティカがその小道へと入っていった。するとその奥に祠のような石の建物が見えて来た。
それを見たヴェルティカが言う。
「ここの建物は無事みたい」
「中の石を確認しておくれ」
「はい」
ヴェルティカが、格子にランプを近づけて中を覗く。
「石は無事みたい」
「なるほどね。じゃあ次行こうかね」
「はい」
ヴェルティカがまた街道に戻っていくので、俺達もそれについて行く。更に先に進んでいくと、また石碑があり小道が現れた。そこを折れて、先ほどと同じように奥に入り祠を見る。それを確認したヴェルティカがマージ魔導書に伝えた。
「ここも大丈夫」
「じゃあ次行こうかね」
「はい」
都市を回り込んで三つ目の小道に入る。そこにも石の祠があり、どうやらその祠は崩れているように見えた。
「祠が壊れてる!」
「そうかい…」
そしてヴェルティカが、壊れた穴から中を覗いて言った。
「砕かれてるわ」
「三つ目が砕かれてると」
「うん」
「分かった。それじゃあ次に行くよ」
「はい」
同じように俺達は次々と祠を確認していった。途中で食事休憩を挟み、またその先を調べていく。全て確認して都市を一周した結果、壊されている祠は三つあった。それが原因で、結界が破綻し巨大な魔獣を引き入れてしまったのだという。
俺がマージに聞いた。
「魔獣がやったのか?」
「いいや。魔物には手が出せない代物さ」
「という事は…」
「やったのは人間だろうねえ」
「何のために…」
「さあてねえ…」
するとビルスタークが言った。
「修復が大変ですね」
「金を出すしかないさ。じきに周辺から人が集まって来るだろうからね」
「一体誰がこんなことをやったのでしょう?」
「さあてね、パルダーシュに恨みのある者の仕業か、別の理由か」
そこでビルスタークが言う。
「先に壊滅した、フォマルハウト領はお館様との親交も深い都市でしたね…」
「そうだねえ…。まあ詮索は帰ってからにしようかね、帰ったら陽が沈むだろうから、そろそろ鐘を鳴らして夜の準備をしないとねえ」
「わかりました」
そして俺達は都市に入り、途中で教会に立ち寄って鐘を鳴らした。俺達が屋敷に向かっていると、道の先から風来燕の四人が歩いて来た。
四人にヴェルティカが言う。
「今宵も、よろしくおねがいします」
「任せてください。結界石とやらはどうだったんです?」
「三つほど壊されていたわ。間違いなく人間の仕業」
「本当ですか!?」
「ええ」
「なんてことだ…」
「ひとまず私達は屋敷に戻ります。夜警も大変ですがよろしくお願いします」
「わかりました」
ビルスタークが風来燕に告げる。
「万が一、手に負えない奴が出た時は撤退して戻ってきてくれ。態勢を立て直して俺達も行く」
「その時はお願いします。まずは体を休めてください」
「わかった」
そしてガロロが言う。
「お嬢様。料理ありがとうございます」
「作り置きですけど」
「充分ですじゃ」
「ではよろしくお願いします」
「はい」
風来燕たちが立ち去って行き、俺達が屋敷に入る。すると四人の騎士達が出迎えてくれた。
「戻られましたか!」
「ああ」
「飯、作っときましたよ!」
「おお、それはありがたい!」
そうして俺達は食堂に連れていかれ、そこに待っていた騎士達が料理を並べていた。
「男料理で申し訳ないっす」
「いい匂いですよ」
「お嬢様のお口に合うかどうか、自信はないです」
「あなた達の料理は、旅の途中で何度も食べてます。大丈夫よ」
「へへへ」
そして俺達は騎士が用意してくれた飯を食った。全体的に塩分が強めだが、味がしっかりしていて美味かった。焼きの料理が多いが、腹ペコの俺達には丁度いい。
そしてビルスタークが騎士に言う。
「飯を食い終わったら、結界の事で話がある」
「わかりました!」
俺達は食事を終えると、皆が手伝って食器を片付けた。今日の結果を共有する為に、騎士を集めて報告をするのだった。結界石の破壊が人の仕業だと知った騎士達が、驚愕の表情を浮かべている。
騎士の一人が言う。
「人が…」
「まあ誰の仕業かは分からんがな」
「だとしたら…許せんです」
「ああ。必ず突き止めて報いを受けさせる」
「はい」
話を終えると、騎士達が俺達に言った。
「部屋を片付けて使えるようにしてあります。交代で見張りを立てますので、皆さんはゆっくり休んでください」
「すまんな」
そして俺達はそれぞれの部屋に案内された。だがメルナが言う。
「コハクと一緒がいい」
ヴェルティカがしゃがんでメルナに言う。
「でも女の子だし」
「いい! コハクと一緒!」
「わかったわ。コハク、いいかしら?」
「昨日までと変わらんし、問題ない」
「じゃあ、よろしくね」
そして俺はメルナを連れて部屋に入る。すると立派なベッドがあった。俺はメルナに言う。
「俺はトレーニングをしてから寝る。先に寝てくれ」
「わたしもやる!」
俺が筋トレを始めると、メルナも見よう見まねで始めるのだった。