表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/303

第六十二話 人間の仕業

 ヴェルティカが騎士達に話をする。


 まず騎士達からの情報では、国内全土、特に王都にパルダーシュの情報が伝わっているようなので、じきに何らかの動きがあるだろうという事。そして、現状は皆の家族を探しに行く事は出来ず、今やれることは都市の警護をしつつ人が帰るのを待つという事。


 その上で問うている。


「あなた達は、このまま当家の騎士でいる事も出来るし、今すぐやめて家族を探しに行く事もできるわ。それは自由に決めていいです」


「そ、それは…」


 すると魔導書のマージが言う。


「本来は許されない事だけどね、状況が状況だ。今はこの家に拘束力はないしねえ」


 既にしゃべる魔導書の事も皆は理解していた。そしてビルスタークも言う。


「ってわけだ。どうする? お前達の力は欲しいが、家族の方が大切だろう?」


 だが騎士達が言った。


「団長。ここに人が戻ってきた時、誰が守ってやると言うんです?」

「家族の帰る所を作るのは俺達、騎士の仕事です。手伝わせてください」

「役に立ちますよ」

「そうですよ。人手がいるでしょ」


 するとビルスタークが口角を上げて言う。


「お前達…忙しくなるぞ!」


「「「「はい!」」」」


 そして騎士達は、怪我をした体に鞭打って動き始める。まずはこの屋敷の破壊されていない場所を治し、皆の居住区を整える事から始めるようだ。


「さあ。それじゃあ、結界石の様子でも見に行くとするよ」


 マージに言われ、俺達は背負子を背負って屋敷を出る。


 都市を歩きながら、改めてアランが言った。


「こうしてみると、意外に無事な建物も多いですね」


「良かったわ。人々が戻っても、暮らす場所がある」


「はい」


 そうして俺達は都市を抜け、市壁の外側に出る。


「最初の祠にいこうかね」


 マージに言われ、ヴェルティカが街道を歩き始めた。俺達がそれについて行くと、都市から少し離れた所で脇道が見えて来る。そこに何らかの目印のような石碑があり、ヴェルティカがその小道へと入っていった。するとその奥に祠のような石の建物が見えて来た。


 それを見たヴェルティカが言う。


「ここの建物は無事みたい」


「中の石を確認しておくれ」


「はい」


 ヴェルティカが、格子にランプを近づけて中を覗く。


「石は無事みたい」


「なるほどね。じゃあ次行こうかね」


「はい」


 ヴェルティカがまた街道に戻っていくので、俺達もそれについて行く。更に先に進んでいくと、また石碑があり小道が現れた。そこを折れて、先ほどと同じように奥に入り祠を見る。それを確認したヴェルティカがマージ魔導書に伝えた。


「ここも大丈夫」


「じゃあ次行こうかね」


「はい」


 都市を回り込んで三つ目の小道に入る。そこにも石の祠があり、どうやらその祠は崩れているように見えた。


「祠が壊れてる!」


「そうかい…」


 そしてヴェルティカが、壊れた穴から中を覗いて言った。


「砕かれてるわ」


「三つ目が砕かれてると」


「うん」


「分かった。それじゃあ次に行くよ」


「はい」


 同じように俺達は次々と祠を確認していった。途中で食事休憩を挟み、またその先を調べていく。全て確認して都市を一周した結果、壊されている祠は三つあった。それが原因で、結界が破綻し巨大な魔獣を引き入れてしまったのだという。


 俺がマージに聞いた。


「魔獣がやったのか?」


「いいや。魔物には手が出せない代物さ」


「という事は…」


「やったのは人間だろうねえ」


「何のために…」


「さあてねえ…」


 するとビルスタークが言った。


「修復が大変ですね」


「金を出すしかないさ。じきに周辺から人が集まって来るだろうからね」


「一体誰がこんなことをやったのでしょう?」


「さあてね、パルダーシュに恨みのある者の仕業か、別の理由か」


 そこでビルスタークが言う。


「先に壊滅した、フォマルハウト領はお館様との親交も深い都市でしたね…」


「そうだねえ…。まあ詮索は帰ってからにしようかね、帰ったら陽が沈むだろうから、そろそろ鐘を鳴らして夜の準備をしないとねえ」


「わかりました」


 そして俺達は都市に入り、途中で教会に立ち寄って鐘を鳴らした。俺達が屋敷に向かっていると、道の先から風来燕の四人が歩いて来た。


 四人にヴェルティカが言う。


「今宵も、よろしくおねがいします」


「任せてください。結界石とやらはどうだったんです?」


「三つほど壊されていたわ。間違いなく人間の仕業」


「本当ですか!?」


「ええ」


「なんてことだ…」


「ひとまず私達は屋敷に戻ります。夜警も大変ですがよろしくお願いします」


「わかりました」


 ビルスタークが風来燕に告げる。


「万が一、手に負えない奴が出た時は撤退して戻ってきてくれ。態勢を立て直して俺達も行く」


「その時はお願いします。まずは体を休めてください」


「わかった」


 そしてガロロが言う。


「お嬢様。料理ありがとうございます」


「作り置きですけど」


「充分ですじゃ」


「ではよろしくお願いします」


「はい」


 風来燕たちが立ち去って行き、俺達が屋敷に入る。すると四人の騎士達が出迎えてくれた。


「戻られましたか!」


「ああ」


「飯、作っときましたよ!」


「おお、それはありがたい!」


 そうして俺達は食堂に連れていかれ、そこに待っていた騎士達が料理を並べていた。


「男料理で申し訳ないっす」


「いい匂いですよ」


「お嬢様のお口に合うかどうか、自信はないです」


「あなた達の料理は、旅の途中で何度も食べてます。大丈夫よ」


「へへへ」


 そして俺達は騎士が用意してくれた飯を食った。全体的に塩分が強めだが、味がしっかりしていて美味かった。焼きの料理が多いが、腹ペコの俺達には丁度いい。


 そしてビルスタークが騎士に言う。


「飯を食い終わったら、結界の事で話がある」


「わかりました!」


 俺達は食事を終えると、皆が手伝って食器を片付けた。今日の結果を共有する為に、騎士を集めて報告をするのだった。結界石の破壊が人の仕業だと知った騎士達が、驚愕の表情を浮かべている。


 騎士の一人が言う。


「人が…」


「まあ誰の仕業かは分からんがな」


「だとしたら…許せんです」


「ああ。必ず突き止めて報いを受けさせる」


「はい」


 話を終えると、騎士達が俺達に言った。


「部屋を片付けて使えるようにしてあります。交代で見張りを立てますので、皆さんはゆっくり休んでください」


「すまんな」


 そして俺達はそれぞれの部屋に案内された。だがメルナが言う。


「コハクと一緒がいい」


 ヴェルティカがしゃがんでメルナに言う。


「でも女の子だし」


「いい! コハクと一緒!」


「わかったわ。コハク、いいかしら?」


「昨日までと変わらんし、問題ない」


「じゃあ、よろしくね」


 そして俺はメルナを連れて部屋に入る。すると立派なベッドがあった。俺はメルナに言う。


「俺はトレーニングをしてから寝る。先に寝てくれ」


「わたしもやる!」


 俺が筋トレを始めると、メルナも見よう見まねで始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ