第六十話 冒険者を雇い入れる
それからは、ビルスタークが冒険者達に事の経緯を説明した。
都市に巨大魔獣が大量に出現し壊滅させた事、辺境伯が死にヴェルティカが代理になった事、命がけで自分達を守ってくれた賢者の魂が本に宿った事、都市に巣くった魔獣を全てコハクが討伐した事。
ボルト達はそれを聞いて、目を丸くして驚きながらも、事の真相を知っていくのだった。
「信じられんが、そう言う事なのだろう…」
「まあ、嘘は言っていない」
そして冒険者達は顔を見合わせる。そしてボルトが言った。
「俺達は風来燕っていう、自由を売りにした冒険者パーティだ。一応冒険者パーティーだから、対価を貰って仕事をしている。だがあんたらの役に立ちたいと思っているのも正直なところだ」
するといたずらな笑みを浮かべてフィラミウスが言う。
「あら、みんなのじゃなくて”お嬢様”の役に立ちたいでしょ?」
「ば、馬鹿言え! 困った人を放っておけないだろう」
「まあ、そうね」
それを聞いてヴェルティカが答えた。
「もし要求される報酬が、金銭と言うのならお支払いする事はできるわ。魔獣は盗賊と違って、人の命以外の物に全く興味を示していないようだったから。ただ、物や人などの助けは…見ての通り出せない。お金ならば、それ相応の報酬はお約束できます」
それを聞いて風来燕の四人はまた話をする。もちろんどうするかの相談だが、俺達にも聞こえるように話しているので、特に隠し立てする事は何もなさそうだ。
ボルトがこちらを振り向いて言う。
「お嬢さん。俺達は自由な冒険者稼業をやってはいるが、商人の護衛や細々とした魔獣の駆除や、時には他のパーティー何組かと一緒に、大型の魔獣を狩りに行く事があるんです。もちろんそれも分配制なので、それほど大きな額じゃないですが、それでも四人が何不自由なく食って装備を整えるくらいの余裕はあるんです。もちろん人助けの気持ちは大きいが、ある程度の稼ぎが無いとやってはいられないんですよ」
それを聞いたヴェルティカが言う。
「月に金貨三十枚ではどうかしら?」
それを聞いた冒険者達がざわついた。
「は? そんなに?」
「更に危険な魔獣などが出た時や、命がけで戦うような事が起きたら、その分上乗せしてお支払いするわ」
「いいんですか? いくらなんでも一日にして、金貨一枚なんて仕事が出来るかどうか」
「これから都市を再建しようと言うのです。最初に名乗りを上げてくださった方達に、安い賃金で働いてもらう訳にはいかないわ」
冒険者三人がボルトに言う。
「断る理由ないんじゃない?」
「だな。そんな稼ぎはなかなかない」
「俺も、良いと思うぜ」
風来燕が満場一致で依頼を受ける事にしたようだ。
「それと、今は都市に誰もいないの。良ければ、来賓の部屋をつかって。あそこは破壊されていないから、普通に寝泊まり出来るわ」
「えっ? いいんですか?」
「どうせ誰も居なくなっちゃったし。屋敷に居てもらった方が心強いわ」
「分かりました!」
するとフィラミウスが言う。
「あら? ボルト。夜に部屋を抜け出してはダメよ」
「どう言う意味だ?」
「不敬を働くんじゃないかと思ってねえ」
「そ、そんな事する訳ないだろ! それに、そんなことしたら、そこの騎士さんに斬られちまう。お前らも分かるだろ? この人の力量!」
どうやらビルスタークの事を言っているようだ。目が見えないのにもかかわらず、彼らはビルスタークに一目置いているらしい。
それを聞いたビルスタークが言う。
「お嬢様の雇った人を斬る事はない。だがお嬢様はこの地にとって、とても大切な存在だ。下手な気を起こさないようにしてくれると助かるがな」
「も、もちろんだ。約束する!」
「ふふっ。嘘は言ってないな。あんた、いい奴だな」
ビルスタークの言葉を聞いてフィラミウスが笑う。
「良いんだか悪いんだか、この人それだけが取り柄なんですよ。おかげで私達までこんなところに来ちまいました」
「助かる。是非力を貸してくれ」
そう言ってビルスタークが頭を下げた。
「リーダーが決めたんだし、あたしらはそれに従うまでですわね」
そう言いながらフィラミウスは、スッとメルナの持っているマージ魔導書に目をおとす。
「それに、話をする魔導書なんて滅多にお目にかかれない。こんな御伽噺のような事、面白いじゃないですか」
ずんぐりむっくりのガロロも、太鼓腹をさすりながら言う。
「人に頼られるってのは、悪い気はしない」
ベントゥラが頷いた。
「安定した収入があるってのは良い事だ」
結果冒険者達は、住み込みで協力してくれるらしい。するとヴェルティカが言う。
「ちょっと待っていて」
ヴェルティカが一階の奥へと歩いて行った。
そこでボルトが言う。
「まあ、やる事は山積みのようだが、まずは何をすればいいんだろうか?」
すると魔導書のマージが言う。
「恐らく昼夜逆になると思うんだがね、まずは夜間に魔獣が入り込まないように見回りをお願いするよ。ゴブリンか灰狼が巣くうみたいでね、コハクが一通り掃除したから都市内にはいないんだけど、また入ってくると厄介だからねえ」
「本当に本がしゃべるんだ…賢者様ともなると、そうなっても賢いんだなあ」
「なんてことはない。記憶がそう言わせているだけさね。で、どうだろうね? 見回りは」
「お安い御用だ。ゴブリンや灰狼なら敵じゃない」
「よろしく頼むよ」
そこにヴェルティカが降りて来た。
「ごめんなさい。ギルドを通さないで手渡しだからよくわからないけど、まずは前金で半分で良いかしら?」
そこで初めてボルトが訝しい顔をして言う。
「お嬢様。あんたあ、人を信用しすぎですぜ。どこの馬とも知れない俺達に、いきなり金貨十五枚を渡すなんて、今日トンズラしたらどうするつもりですか」
「近くまで送ってもらったお礼もしていなかったわ。だからそれも含めて、前金でお渡ししておきます。あと、どうやらビルスタークが信用しているみたいだし、私はビルスタークを信用しているから、あなた達も信用するわ」
「ははは。随分と器の大きなお嬢様だな。なら、さっそく今夜から仕事に入らせてもらいます」
するとヴェルティカが言う。
「あ、それならこれから夜まで休む前に、ランドボアのシチューでもいかが? 大きなのがとれたから」
「ああ、さっきの!」
「ええ。新鮮なうちに」
冒険者四人は顔を見合わせて言う。
「ありがたい!」
「ただ…捌くのに人手がいるのよ」
「もちろん手伝わせてもらいますよ! 美味いもんなら大歓迎です」
そうして風来燕と俺達は軒先に置いてあるランドボアを捌くため、包丁や鍋や桶をもって庭に出るのだった。