五十八話 魔獣討伐と食料確保
俺達はしっかりと装備を整え、都市の外に出る事にした。ひとつの目的は魔獣を駆除して、一般市民が都市に戻れるようにすること。もうひとつは、現状保存食のような食べ物はあるものの、新鮮な野菜が無いため摘みに行くという目的だ。
メルナとヴェルティカが背負子を背負い、それを守るように俺とビルスタークとアランが囲む。メルナの手には魔導書のマージが抱えられており、ブラッディガイアウッドの魔法の杖はヴェルティカが持っていた。
「コハクとアランが、前をいけ。俺がお嬢様とメルナの後ろを行って守る」
「わかった」
「は!」
「森や草原では、日中でも魔獣が出るからな。充分注意していくぞ」
そして俺達は街道をはずれ、森に向かって腰まである草原を歩いて行く。
「いるな」
ビルスタークが言う。
ビルスタークが顔を向けている方角に目を向けると、サーモセンサーに灰狼が映し出された。
俺がアランに聞く。
「どうして、ビルスタークはそんなに早く分かったんだ」
「団長の耳だ。むしろ目が見えていない分、耳に神経が集中しているんだろう」
「なるほど」
俺がアイドナに言う。
耳を強化してみてくれ。
《はい》
ガガ! ザアアアアア! バタバタバタ!
うお!
俺はつい耳を抑えた。あまりのも大音量に、頭がかき回されているようだった。俺の反応を感じ取ってアイドナは強化を切った。
アランが言う。
「どうした!」
「いや。何か音がしたような気がした」
「何もないぞ」
「気のせいだ」
今の強化は慣れがいる。草がすれる音までが大きくなり、雑音が入りすぎる。
俺達が灰狼を警戒していると、俺達に気が付いたのか警戒してウロウロし始める。だがこちらに近づいて来る気配は無く、様子見をしているように思える。
「あれは何をしている?」
「俺達が何者かを探っているんだ。弱い人間ならばすぐにかかって来るだろうが、こちらが手練れかどうかを見てるんだよ」
「なるほど、ならどうする?」
「堂々と向かって行けばいい」
そして俺達は、灰色狼がいる方向に向かって真っすぐに進んでいく。すると俺達との距離を縮めないように、魔獣達が下がっていく。
魔導書マージが言う。
「石を例のスクロールで包みな」
「わかった」
メルナの背負子からスクロールを出して、拾った石ころをそれで包み込む。
「ヴェルが杖を構えて、メルナはコハクが持っているそれに集中するんだよ」
三人が真っすぐになるように並んだ。
「メルナは投げる瞬間に詠唱をするんだ、じゃあいくよ!」
三人がコクリと頷いた。
「三、二、一今だ!」
「火よ燃え盛れ!」
投げる俺の手を離れる瞬間に、スクロールに包まれた石ころは火の玉になって飛んでいく。それが灰狼の手前に落ちると、灰狼達は一気に散らばった。
するとアランが言う。
「今です!」
俺とビルスタークとアランが、剣を手にして灰狼めがけて詰め寄った。バラバラになっているために、一匹一匹相手に出来そうだ。
最初の一匹を仕留めたのはアランだった。ビュンと振られた剣で、灰狼は真っ二つになる。直ぐにビルスタークが灰狼を斬り始めた。俺もアイドナが記したガイドに乗せて、剣を振ると灰狼が口から二つになった。
最初の俺達の攻撃で、残りの灰狼達は一目散に駆けだして散らばって行く。
俺達はそこに留まり様子を見た。
「逃げたな。格の違いを察知したんだ」
「なるほど」
二人は魔獣討伐に慣れているようだ。深追いする事も無く、様子を見ながら次の判断をつけるようだ。
「しかし。都市の近くにまで来ているのは本当のようだな」
「都市に入り込んだ魔獣達から、餌の情報が入ったのさね。それで魔獣の群れが動きつつあって、それにつられてやってきているんだよ」
「警戒して進むべきですね」
「それがいいだろうね」
そして俺達は森に入る。するとマージがパラパラと開いた。
「こんな形の葉っぱが食べられる。あとはこんな木の実があればとるんだよ」
それを見てメルナが言う。
「私! わかるよ! いろんな食べ物!」
「おや、メルナは頼もしいねえ。じゃあメルナにも聞いて食べ物を集めるんだ」
アイドナが魔導書をインプットしているので、俺の視界には一気に食べられる野草が浮かび上がる。あちこちにアイドナの光の線で縁取られた、木の実や野草が揺れていた。
ヴェルティカが背負子から袋を取り出し、俺とアランに渡してくる。
ビルスタークが申し訳なさそうに言う。
「すまん。流石に目が見えないから、野草は取れん」
「問題ないわ。見えている私達でやるから」
「申し訳ございません」
ビルスタークは剣を構えあたりを警戒する。それから俺達が野草を詰み始めると、アランが感心したようにう。
「コハクは早いな。まるでどこに何があるかが分かっているようだ」
「そうか?」
それを見ていたメルナも言った。
「すごいよコハク! 森に住んでいた私より速いみたい」
「そんなことはない」
だが明らかに、俺の袋が一番膨らんでいるようだ。
俺達が薬草を摘見ながら森の奥に入っていくと、ビルスタークが言った。
「ん? 魔獣がいるな」
「どっちです?」
アランが言ってビルスタークがそちらを指さす。
「大型だ。気を付けろ」
「わかりました」
俺達が警戒していると、ビルスタークが言う。
「こっちに近寄ってきている」
「コハク。先に見つけた方が勝ちだ。俺達で追いこむぞ」
「わかった」
そして俺達が静かに森を進んでいく。森の中に居たのは、イノシシのような魔獣だ。鼻の上に角が生えていて、一見するとサイのようにも見える。それを見たアランが言った。
「この装備じゃ分が悪いな。出来れば槍が欲しかった」
俺達が持っているのは片手剣、俺達の視線の先にいるイノシシのような魔獣は、一メートル八十くらいはある大型だ。するとメルナが持っているマージが言う。
「次のスクロールだよ」
「わかった」
ヴェルティカがスクロールを手にする。これはマージに言われて俺が描いたものだ。
「メルナとヴェルティカは構えな」
「うん」
「わかった」
「アラン! 音を立てるのじゃ」
「はい!」
ガンガンガンガン! するとイノシシの魔獣がこちらに気が付いた。
「叫ぶんだよ」
俺はマージに言われるままに叫ぶ。
「こっちだぞ! おーい!」
ズドドドドドド! とそれが駆けだしてこちらに走って来る。そいつが後十メートルの所で、メルナがマージに言われていたようにスクロールに魔力を流した。
シャアアアアン!
まばゆい光があたりを染めて、イノシシの魔獣が目を眩ませて木に激突する。その音を聞いてビルスタークが言った。
「今だ! 首を狙え」
フラフラしているイノシシの首めがけて、俺とアランが片手剣を深々と突き刺した。少しフラフラしたが、イノシシはその巨体を横たえる。俺の腕から大量の魔粒子が流れ込んでくるのが分かった。
「よし!」
俺達は野草の他に、イノシシをつかまえる事に成功したのだった。