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第五十六話 魔獣の魔力

 俺の体に傷がない事を確認して、ヴェルティカとメルナはホッとしたようだ。だが俺自身は、体に少しの異変を感じ取っている。


 疲れない。


《魔粒子の影響です。魔粒子を活用すれば、行動のほとんどを賄えます》


 じゃあそれをやめてくれ。いざという時、魔力が無いと困るかもしれん。


《わかりました。では魔粒子のテストを中断します》


 どうやらアイドナは、俺の体を使って魔粒子の試験を行っていたらしい。自分ではどう作用しているのか分からないが、どうやら魔粒子は行動の原動力として使えるらしかった。


 すると、筋肉の腫れのようなものが収まっていくのが分かる。


 それをみてメルナが言う。


「あれ? コハク、元に戻った?」


「どうやらそうらしい」


 するとアランが言う。


「おいおい。まさか全身身体強化を常時発動していたのかよ」


「そのようだ」


「いつの間にそんなに魔力が増えたんだか」


 すると魔導書のマージが言う。


「太陽が上に来たら、教会に行って見ようじゃないか」


 ビルスタークが聞いた。


「コハクの魔力を調べるのですか?」


「そうさね」


「わかりました。日中であれば、私とアランも同行しましょう。アランは当面、俺に縛り付けて動きます」


「好きにすると良い」


 適当に用意した朝飯を食い、俺達は辺境伯邸を出た。ビルスタークにアランがおぶさるように縛り付けられたが、どうやらアランがビルスタークの目になるようだ。岩場や足場のあれやこれやを、アランがビルスタークに指示している。


「残念ながら二人で一人分だ」


 ビルスタークが言うが、俺はそれに答える。


「随分器用なものだな。アランの視界を、ビルスタークが直接見ているかのように動いている」


 するとアランが言った。


「まあ、阿吽の呼吸ってやつだな。それと、団長が何をしたいのかがなんとなくわかるからな」


 それを聞いたヴェルティカが言った。


「若い頃からずっと一緒だもんね」


 ビルスタークが答える。


「そうですね。何を考えているのかすらも分かってしまいそうです」


「ふふふ」


 そして俺は四人を連れて、昨日戦った場所を通りかかる。それを見てヴェルティカが小さな叫び声をあげた。


「これは…」


 アランも驚愕している。するとビルスタークが言う。


「血の臭いがキツイな」


「はい。団長、モンスターの死骸の山が築かれています」


「なんだと?」


「ゴブリンと灰狼ですね。相当な数です」


「コハクが一人でやったんだな?」


「そうだ」


「身体強化を使いこなしている…か」


「自分でもよくわからん」


 俺達が会話していると魔導書のマージが言う。


「魔獣は焼かなきゃダメだね。これじゃ新しい魔獣を呼び込んでしまうよ」


「どうしたらいい?」


「道具屋から油をもってきな」


「わかった」


「わたしもいく!」


 俺は三人をその場に残し、メルナと道具屋へと向かった。


「油! あったよ!」


「よし、貰って行こう」


 メルナと一緒に油を回収し、みんなの元へと戻って来る。すると目の見えないビルスタークが、アランの指示の元で魔獣の死骸をかき集めていた。俺もそれを手伝い、広い場所に全て集める事が出来た。


「じゃあ、まんべんなく油をかけるんだよ」


「わかった」


 俺とメルナとヴェルティカが、油の桶から柄杓ですくいあげて油をかけていく。一通りまんべんなくかけたところで、俺が魔法陣を描いてメルナが魔力を流した。


《魔力を放出する原理がまだ解析できていません》


 それが使えれば、もっと便利なんだがな。


《解析を続けます》


 ゴウゴウと燃える魔獣を、俺達はしばらく見守る。


「さて。じきに火も消える。そろそろ教会に行くよ」


 マージに言われ、俺達はその場を離れて教会に向かった。教会に入りマージの指示で奥の部屋へ入る。そこにはいろんなものが置いてあったが、ヴェルティカが目的の物を見つけた。


「あったわ」


 ヴェルティカが、台座に乗った水晶をテーブルの上に置いた。


 するとマージが言う。


「コハクや。水晶に手をかざしな」


「ああ」


 俺が手をかざす。するとマージはメルナに言った。


「メルナ。私が言った通りに詠唱するんだ」


「うん」


「その者の見えざる力をここに示せ」


「その者の見えざる力をここに示せ」


 すると水晶は、赤紫に光り禍々しく渦巻いているように見えた。


 マージが聞いた。


「どうなってる?」


 それにヴェルティカが答える。


「えっと。多分魔力はあるみたい、でも見たことのない色と形?」


「形?」


「なんかモヤモヤしてて、赤黒いところもある」


「なんだろうねえ? そんな属性見た事ないねえ」


「ばあやが見たことないなんて」


「なぜ突然魔力が発現したのかもわからない」


「そうなんだ…」


 するとアイドナが言った。


《恐らくは、この世界の人間の様に、体内から自然発生した魔粒子ではないからです》


 どういうことだ?


《恐らくそれは、魔物特有の魔粒子の可能性が高いです》


 人間の物じゃない?


《魔獣から採取したので間違いありません》


 どうやら俺の体内には、普通の人間には無い魔獣の魔力が渦巻いているらしい。


 体に影響はないのか?


《先ほどの筋肉量は、恐らく魔物の影響かと》


 そういうことか…。


 そしてアランが言った。


「いずれにせよ。コハクに魔力が宿っているのは間違いないって事だ。魔力無しでも俺を倒したんだから、かなりの強さになっているはずだぞ」


「役に立てればいいのだがな」


「何を言ってるんだ。さっきの魔獣の死骸の山が物語ってるだろ」


 それを聞いたヴェルティカが言う。


「頼もしいわ。やはりばあやが言っていた、予言の人なのかもしれないわね」


 俺がそんな大それた奴かどうかは分からんが、むしろ自分の体に魔獣の魔粒子が流れている事の方が気になっていた。本当に体に影響はないのか?


 しかしそれにアイドナが答える事は無かったのである。

次話:第五十七話 大賢者のような能力

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