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第五十二話 人体再構築

 その夜、魔導書のマージが言った。


「魔獣を片付けても、またいずれ入って来るだろうね」


 それにビルスタークが答えた。


「結界石が働いていないという事ですよね」


「そうだねえ。恐らく破壊されていると見ていいね」


「それは困りました」


 そこで俺が聞く。


「壊れたのなら直せばいいんじゃないのか?」


「それがそう簡単にもいかないんだよ。特殊な石でね、ある山の炭鉱で取れるものなんだ。まずはそれを確保しなきゃならない」


「なるほど」


「それに魔導士がいないとね」


「メルナじゃダメか」


「弱いだろうねえ。とにかく、やるべき事はまだまださね」


「そうなんだな」


 するとビルスタークが言う。


「そりゃそうだコハク。恐らく都市から逃げ出した人達もいるだろうが、この状況では帰るに帰って来れない。魔獣を掃除したところで、また入り込まれたら同じことだ。だからまずは、結界石を直して魔獣の侵入を防がねばならない。俺達だけではどうにもならない状況ではあるんだよ」


「そう言う事か」


「その中でも、お嬢様が生きていてくださったのは大きい。兄上が帰って来るまでの間、他の領軍が助っ人に来てくれても、領主がいないんじゃ話にならないからな」


 それを聞いてヴェルティカが言う。


「あくまでも代理の立場だけど」


 そこで俺が聞く。


「なぜ今、俺達は魔獣狩りをしているんだ?」


 するとマージが言う。


「増えるからさ。進入した魔獣を放っておけば、どんどん増えてしまう。更に増えてしまうと、今度は魔獣を呼び寄せるのさ。だから出来るだけ片付けておかなきゃならないのさ」


「よくわかった」


 なら討伐スピードが上がれば、次の手を打ちやすいと言う事だ。のんびりしてしまえば、その分魔獣は増えて、更に呼び寄せてしまう可能性がある。もしかしたら魔獣を綺麗にすれば、人も戻ってくるという事だ。


「分かったなら、もう今日は寝な」


 魔導書のマージが言うので、皆が横になり何個かついているランプを消した。薄暗くなり直ぐに寝息が聞こえ始める。するとビルスタークが言う。


「疲れていたんだな」


「そうですね」


「コハクももう寝た方が良いぞ」


「わかった」


 そして俺も横になり目をつぶる。すると早速アイドナが聞いて来た。


《体組織の変更をいたしますか?》


 記憶は残るんだな?


《はい》


 考え方も変わらない?


《変わりません。変更しますか?》


 …仕方がないやれ。


《戻せなくなりますが大丈夫ですか?》


 アイドナが散々勧めて来たんだろ。


《さらに言いますが、素粒子レベルで細胞を変える行為は初めてです。想定外の事が起きる可能性も少なからずございます》


 まて。それは話が違うぞ。記憶や考え方は変わらんと言っただろ。


《それは保証します。ですが原子核の変更などはリスクが伴います》


 どういうことだ。


《きわめて低確率でありますが、核融合が起きる可能性があります》


 …核融合とは?


《原子炉と同じ原理です》


 そう言われてもよくわからなかった。


 原子炉?


《前世の過去の遺物で、太陽光や地熱を必要としない発電の方法だったりします》


 そうなのか。


《またそれは戦争に使われた事もあります》


 戦争に?


《ですが、その可能性は極めて低い》


 厳密な確率は?


《ゼロコンマゼロゼロハチニ》


 万分の一か…。


《しますか? YES NO》


 いきなり選択か…。生存率は上がるんだな。


《はい》


 ……YESだ。


 ブン。


 初めての出来事だった。全くの無、夢を見る事もなく、暗黒の世界に入るのだった。


 _________


 うっすらと意識が戻って来た。スイッチが切れたように意識が途絶えたと思ったが、ようやく再起動して来たらしい。アイドナが言っていた通り、記憶も考え方も変わっている様子はない。


 俺が薄っすらと目をかけると、地下室に備えられているベッドの上だった。すると突然メルナが顔を覗いて来た。


「コハク! コハク!」


 俺にしがみついている。するとヴェルティカの顔も見えて、どうやら二人は涙を流しているようだ。必死な顔で俺の名を叫び、するとそばから声が聞こえて来る。


「おきたのかい!」


「うん!」

「よかった!」


 何が起きたか分からずに、俺が体を起こそうとするとヴェルティカが止める。


「まだ寝ていた方が良いわ」


「いや。問題ない」


 そして俺は上半身を起こし二人の顔を見る。すると後ろにいたビルスタークとアランも声をかけて来る。


「大丈夫か!」

「生きてたのか!」


 どうやら異常な事が起きていたらしい。


 グーッ!


 と腹が盛大になった。


「おれはどうなってた?」


 メルナが答える。


「熱を出してほとんど息をしてなくて」


 ヴェルティカも言った。


「それこそ熱くて触れないほどだったわ」


「そんなにか」


「もう三日も目をあけなくて、このまま死んじゃうんじゃないかって思った」


 そんな事になっていたのか。魔獣の駆除をしなければならないのに、三日も寝ていたとは。


「三日もか。だと魔獣が増えちゃったかもしれんな」


「そんな事よりも、目覚めてくれてよかった」


「問題ないぞ」


「問題大ありよ。もう大丈夫?」


「腹が減った」


「食事を用意するわ」


 そう言ってヴェルティカとメルナが部屋を出て行った。そして魔導書のマージが言う。


「病になったのかと思ったが、どうやら回復したようだね。ダメかと思ったよ」


「問題ない」


 だが何も口にしていなかった為か、体に力が入らなかった。


《変更完了です。栄養を補給する必要があります》


 こんなことになるなんてな。


《身体にはかなりの負担となりました》


 回復しなくては。


《栄養補給をお願いします》


 わかった。


 どうやら、改変した体はかなり消耗をしたらしい。そこにヴェルティカとメルナが、いつもの干し肉と乾燥野菜を似た料理を持って来てくれたのだった。

次話:第五十三話 身体強化魔法を使ってみる

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