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第五十一話 必要に迫られる

 俺が剣を構えて暗闇に向かっていると、後ろからヴェルティカが叫んで来る。


「ごめんなさい、コハク! 危なくなったら逃げて!」


 足が傷ついて動けなくなった事を、負い目にでも思っているらしい。不意打ちなのだから仕方のない事だ。


「メルナ、ゆっくりでいいからヴェルティカを連れて入口へ行け」


「わかった」


 だがメルナは小さい。ヴェルティカを支えては一気に動けないだろう。


 その時、アイドナが俺に告げる。


《問題ありません。一度ゴブリンとは戦っています。全て解析済みで動きは網羅できております》


 そうか。


《来ます》


 俺の目の前に赤いガイドマーカーがひかれたので、その場所に持っている剣を置くような感じに出す。すると、暗闇から突進して来たゴブリンの口に深々と突き刺さった。


 なるほど、位置が低いのか。


《待てば相手に考えさせる余裕ができます。マーカーに従いこちらから先に進んでください》


 わかった。


「コハク!」


 奥に行く俺にメルナが声をかけてくるが、それに俺が答える。


「行け!」


 もう俺は振り返らずに、マーカーに沿って体を移動させ剣を指示通りに置いて行く。それは戦いなどでは無く、蹂躙と呼ぶにふさわしい事だったかもしれない。あっという間にゴブリンの体は切り裂かれ、次々に床に散らばっていった。


 びちゃびちゃ! あたりがゴブリンの血だらけになり、俺が踏み込むたびに音が鳴る。最後の一体まで流れるように切り裂いて、地下はすっかり静かになった。


 どうだ?


《もう動く物はいません》


 よし。


 そして俺はすぐに、メルナ達を追って一階に向かう。すると階段の上の踊り場で二人は待っていた。魔法の杖とマージの魔導書も忘れずに持っているようだ。


「「コハク!」」


 二人の声がそろう。


「先にヴェルティカの治療を」


「わかった」


 メルナは置いてあった背負子からポーションを取り出して、ヴェルティカの足に振りかけた。すると見る見るうちに傷は塞がり、跡形も無く消え去る。ヴェルティカが言う。


「ゴブリンは!」


「痺れ薬があまかったようだな。だが少しは動きを鈍らせていたかもしれん。おかげで全部討伐できた」


「えっ? 全部?」


「もう地下に動く物はいない」


「こんなに早く片付けて来たの?」


「そうだ」


 すると魔導書のマージが言う。


「いくらなんでもそんな」


「いや。もうすべて処理して来た」


 野でゴブリンと戦った時より容易かったが、これがそれほどの事だろうか?


「明るい日中でならわかるが、あの暗闇でゴブリンをやったのかい?」


「そうだが?」


「魔獣は夜目が効くんだ。まるで昼間のように見えていると言われてるんだよ、そいつらを相手にもう蹴散らして来たってのかい?」


 いや。こっちもはっきり見えてたし。


「そういう事なら問題ない。ゴブリンは大した体力はないからな」


「アランに勝った実力は本物だったって事だ」


「武器が短い剣なので戦いやすいのもあったと思う」


「そうかい。だけどゴブリンの血で剣が斬れなくなってしまってるかもしれない。一度、屯所に戻って武器を変えた方が良いね」


「わかった」


 そして俺達は一旦、屋敷に戻る。すると屋敷の方から風切り音のような音が聞こえて来た。


「なんだ?」


「いってみましょう」


 俺達が屋敷に入ると、エントランスでビルスタークが剣を振っていた。それを壁にもたれかかったアランが見てなにやら指示を出しているようだ。だが俺達が入って来た事に気が付いて、剣を振るのをやめて話しかけて来る。


「帰ったか?」


「ああ」


 ヴェルティカがビルスタークに足早に近づいて言う。


「そんな激しい動きをして! まだ休んでいないと」


「いや。もう体は動きますよ、むしろ鈍った体を叩き起こさないと」


「無理をしてはダメよ!」


「本当に大丈夫です」


 だが目は見えていないようで手探りで歩きだす。


「見えてないんじゃない!」


「御屋敷の中くらい覚えていますよ。この感じに慣れてしまいたいんです」


「でも…」


 だがマージが言う。


「ヴェルティカ。騎士には騎士のやり方がある。ここはビルスタークとアランのやり方で任せた方がいいよ」


「ばあや…」


 するとアランが言う。


「団長は鍛え方が違いますから」


「アラン…」


「まあ…強すぎるから、目が見えないくらいではハンデにならないでしょう」


 アランが言うとビルが笑う。


「馬鹿を言え。かなりやりずらいぞ」


「さっきの剣を振っている感じを見ても、鈍っているようには感じませんでしたけどね」


「とにかく早く実戦が出来るくらいまで戻さんと、コハクを鍛える事は出来ん」


 それを聞いた魔導書マージが言う。


「ちょっとビルに聞いて欲しい事があるんだが。コハクは地下の真っ暗な空間で、ゴブリンを数分で始末したんだ。そんな事が出来るもんなのかい?」


「魔導士の光の支援とかを無くしてという事ですね?」


「そうだね。まあ、カンテラが転がっていたはずだけどね」


「私かアランが健在であったなら、それも可能かと思います。ですが団員の中にも、それが出来る人間はいないでしょうね」


「やはりそうかい」


 するとアランが言う。


「私を負かした男です。そのぐらいやってもらわないと、私が弱いみたいじゃないですか」


「そうは言ってもねえ」


 そしてビルスタークが言う。


「あと怪しい場所はどのくらいです?」


「あと三~四カ所ってところかね。コハクがそれほどできるなら、それほどかからないかもしれないよ」


 だがそれに俺がストップをかける。


「だがヴェルティカに怪我をさせてしまった。あんなことはあってはならない」


「まあ…そうだねえ。コハクに魔力が流れていればよかったんだが」


「だと何ができた?」


「身体強化さね」


「身体強化?」


「体の力と能力を格段に上げる能力だよ」


「そんな事が出来るのか?」


「ビルもアランも少なからず出来る事さね」


「そうなのか?」


 するとビルが答える。


「そうだな。デカい魔物と戦う時や、戦争では使うかもしれん」


「なるほど」


「だが、コハクには魔力が全く流れてないんだったか」


「そうだ」


「では…賢者様。それは叶わぬ事では?」


「まあそうだね」


 そういうことか。アイドナが言っていた書き換えをすれば、それが叶うかもしれんという事だ。


「身体強化が出来るとどうなる?」


「コハクぐらい出来るやつならば、ゴブリンや灰狼など敵ではないぞ。それこそ、夜でも魔獣と渡り合えるだろう」


「そうすれば、ヴェルティカもメルナも危険にさらす事はない…か…」


「まあ、そう言う事だが気にするな。コハクには魔力が無いんだ。無理せずにひとつひとつ潰して行く事を心掛けると良い。俺達が無傷なら何とかなったんだがな…」


 やはりこの状況を打破するには、俺の書き換えが必要なのかもしれない。


《わかりましたか? 自身の生存率だけではなく周りの生存率も上昇するのです》


 ……考えさせてくれ。


《くれぐれも言っておきますが》

 

 分かってる。記憶領域や意識には変化が無いんだろ。


《そう言う事です》


 いよいよ追い詰められて来た。


 そこでマージが言う。


「とにかく今日はもう一軒回ってみようかね。魔獣がいようがいまいが、今日はそれで終わろう」


「わかった」

「「はい」」


 そして俺達は再び装備を整えて、次の場所へと向かった。痺れ薬を混ぜた薪を置いて火を点け、布で蓋をして浸透させた。数時間待って煙がひいたところで、同じように地下に降りたが、その建物に魔獣はおらず、仕事は時間を無駄にして終わるのだった。

次話:第五十二話 人体再構築

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