第四十四話 まずは回復に向けて
陽が昇り建物の中に明かりがさして来た。負傷しているビルスタークとアランは、夜更けよりはっきりと息をしている。だがまた寝たままで、その周りにヴェルティカとメルナも横になっていた。俺はずっと魔導書になったマージと話をして、これからどうすべきかを考えている。
魔導書マージが俺に言う。
「コハクも休むと良い」
「いや。陽が高いうちにやれることはやっておこう」
「…メルナが寝ているからねえ、魔力を注ぐ人がいない」
「なら起きたと同時にやってもらうようにしておこう」
「なら、あたしを持って外に出な」
俺は魔導書を持って、玄関から庭に出た。夜に聞こえていた魔獣の声は聞こえていない。
「どうする?」
「まずは、屋敷の壁の内側を歩くんだ。今なら魔獣はどこかに潜んでいるからね」
「わかった」
俺は言われるがまま魔導書を持ち歩いて、壁沿いに歩いて行く。すると壁が崩落している場所を見つけた。
「どうなってる?」
「壁が崩れている」
「なら、そうなっているところを全て確認しておくれ」
そして屋敷の周りを周り、俺は破損している場所を確認していく。そしてマージに伝えた。
「崩落が二カ所、後は門が壊れてる」
「それじゃあ」
パラパラと魔導書が勝手に開く。
「ここに記された魔法陣を壊れた場所の地面に書くよ」
「何で書いたらいい?」
「そのブラッディガイアの杖で直接地面に書いていいよ」
「わかった」
《では魔法陣をガイドします》
ああ。
地面にガイドされている通りに、杖を使って魔法陣を書いて行く。かなり複雑だがガイドがあるので、全く狂い無く書く事が出来た。
「書き終わったら、他の二カ所にも」
「ああ」
そして俺は同じように魔法陣を書いた。始めてから一時間ほどが経ち、太陽が更に上に登って来た。
「じゃあ屋敷に戻るよ」
俺が言われるままに屋敷に戻ると、ヴェルティカが目を覚ましていた。丁度布を水に浸して、ビルスタークの頭に乗せているところだった。
「ただいま」
「いままでどこに?」
「屋敷の周りを点検してた」
「そうなのね」
するとマージが言う。
「ヴェルや」
「はい」
「この局面を生き延びるには、コハクとメルナが鍵だよ」
「はい」
「ヴェルはメルナに読み書きを教えるんだ」
「わかったわ」
ヴェルティカが頷く。だが顔に疲労の色が色濃く、かなりつらそうだった。
「ヴェルティカはかなり参っている」
俺が言うとヴェルティカが首を振った。
「そんなこと言ってられないわ!」
「いや。休んだ方が良い」
「でも!」
するとマージが言う。
「ゴメンねえヴェル。こんな姿になっちまったから顔色までわからんかった」
「でも、大丈夫よ。ばあや」
「いや。コハクの言うとおり休みなさい」
「でも」
「先は長い」
「…わかった。でもコハクも全然寝てないんでしょ」
「少し休むところだ」
「じゃあ私が見張ってる」
そんな話をしていた時だった。突然もう一人の声がした。
「お嬢…さま…」
「アラン!」
アランが目を開けてこちらを見ていた。そしてゆっくりと話し始める。
「夢じゃなかったんだ。お嬢様と…コハクもいる」
するとヴェルティカがアランの手を取って言う。
「ゴメンね。逃げてしまって」
「いえ…よかった。コハク、お嬢様を守ってくれたんだな」
「どうにか戻って来れた」
「信じてたよ」
「戦い方をもっと教わりたかったんだがな…」
「すまん。こんな体になっちまった」
「いや。だがアランとの模擬戦のおかげで、盗賊もゴブリンも倒せた。あれが無ければ、もしかしたらここには戻って来れなかったかもしれない」
「ふふっ…たった…一回の模擬戦で、お前は学び取ったのか」
まあ…俺。というよりは、アイドナが全てを記憶しトレースしたのだが。
「先生が良いと、一回で学び取れるのさ」
「お前は…良い奴だな」
良い奴? そうだろうか? おれはただ生き延びるために戦っただけだ。
そしてアランがヴェルティカに言う。
「すみませんお嬢様。…お館様も、奥方様も…お救い出来なかった」
「いいえ。あなたとビルスタークが生き残ったわ」
「…隊長は?」
「そこに寝ている」
アランが見上げるとハッとして言う。
「私より酷い状態でしたから。でも命を繋いだんですね」
「ええ」
「あと…賢者様が…」
俺は魔導書をアランの目の前に掲げる。
「これだ」
「えっ?」
すると魔導書が話し出す。
「アランや。あたしだよ」
「なんと…これはどういう…」
「魂の定着をさせた。そんな事よりもきいておくれ」
「はい」
「おまえとビルスタークを生き延びさせたのには意味がある」
「はい」
「コハクを導いて救わねばならないよ。この国の民を」
「しかし…私はこのざまです」
「いーや。あんたの力がいる。もう少し体力が戻るのを待とうか? 今は息を殺してここで待つしかないだろうね」
「わかりました」
そんな話をしていると、その声でメルナが起きた。
「うん…」
俺がメルナに声をかける。
「水を飲め」
「分かった…」
メルナがコクリと水を飲む。
《食事を用意する必要があります。全員の栄養が足りていません》
俺はヴェルティカに言った。
「腹ごしらえをした方が良いようだ」
「何か作れるかしら?」
「まずは台所だ」
俺とヴェルティカとメルナが、台所に行って食材を探した。まだ傷んでない食材もあって、なんとかスープくらいは作れそうだった。メルナが竈の火を起こし、ヴェルティカが鍋に水を入れてかけた。
「野菜を切るわ」
「それは俺にまかせろ」
そうして俺は冷暗所にあった野菜を持ってくるのだった。
で、どうしたらいい?
《料理であれば、前世でダウンロードしているレシピが大量にあります。野菜の斬り方や時間などをガイドしますので、その通りにやってください》
ならやろう。
「じゃあ俺が作ってみるよ」
「作れるの?」
「問題ない」
俺は手元にある、瓜系の野菜を切り始めるのだった。