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第三十八話 優しき冒険者

 商人と冒険者が街の人間と話をしていた。どうやら今日パルダーシュの都市に行って来た者がいて、パルダーシュの現状を伝えていたのだった。


「壊滅だって? あの大都市が?」


「本当なんだって! だから悪い事は言わねえ、行かねえほうが良いって」


「信じられん」


 だが俺達は知っていた。その渦中から飛ばされて今に至るからだ。


 どうやら話して来た奴と商人は顔見知りらしく、商人を見かけて相手から話しかけて来たらしい。これから商いをしに行こうと言っている商人に、全部無駄になるかもしれないと言っている。


「俺達も無駄骨だったんだ。都市の中がどうなってるか分からねえ状況だったぞ。もしかしたら魔獣の大群に襲われたんじゃないかって皆が言ってる。商い云々の話じゃなくて、命があぶねえって話さ」


「そんな…」


「とにかく俺達も今しがた帰ってきたばかりだ。これからいろいろと考えなきゃならねえ、とにかく行かねえ方が良いよ」


 そう言ってその男は立ち去って行った。残った商人と冒険者達が話し出す。


「どう思うかね?」


「どう思うも何も、俺達は護衛の仕事は続けるさ。行くか行かねえかは雇い主のあんた次第だ」


「…本当なのかね?」


「行くにしても行かねえにしても、依頼金は変わらないぜ」


「それはもちろんそうだが、こっちも商売だからな。これじゃ丸っと赤字になっちまう」


「まあ決めてくれよ。俺たちゃ従うまでだ」


 だが、そこまで黙っていたヴェルティカが口を開いた。


「あの…」


「はいはい。どうされました?」


「恐らく話は本当です」


「えっ?」


「私は見ました。魔獣に蹂躙されるパルダーシュの都市を」


「どう言う事で?」


「数日前に蹂躙されたのを見たのです。そして私達はそこから飛ばされました」


「飛ばされたですと?」


「ごめんなさい。都市から飛ばされて遭難して盗賊に襲われたの、詳しく説明していなかったですね」


「そんな…」


 すると魔法使いのフィラミウスが聞いて来た。


「まさか。転移魔法?」


「そうです」


「使える人が居たんだ」


「当家に、お抱え魔法使いがおりました」


「「「「……」」」」


 冒険者達が今の言葉で固まった。商人はピンとこなかったようできょろきょろしている。


 すると冒険者のリーダー、ボルトが改まって聞いた。


「もしかすると…パルダーシュ家の賢者様?」


「そうです」


「という事はあなた様は辺境伯の?」


「娘です」


 シンとした。目の前の小娘が、上級貴族の娘だと知って目を丸くしている。そこで突然商人が前に出てきた。


「おおお! そうでしたか! それはお気遣いできませんで申し訳ございませんでした! あのようなボロ家にお泊めしてしまい、なんと申し開きしてよいやら!」


「いえいえ。助けていただいただけで十分です。それでどうされるのです? パルダーシュは壊滅しているのは間違いありません」


「そんな…辺境伯様のお家はどうなりました?」


「それが分からないからこれから向かうのです」


「危険ではありませんか?」


「もちろんです。魔獣が巣くっているやもしれませんし、もっと恐ろしい事が起きているかも」


「……」


 商人は黙ってしまった。それに付け加えてヴェルティカが言う。


「だから商いなど、ままならないとは思います。それに、命がけというのも間違いないと思われますし、それを踏まえて判断された方がよろしいかと。ただし受けた恩は後日お返しいたします。商家の名も聞きましたし、平穏な状況になりましたら屋敷に取りに来ていただけますか?」


「しかし…」


 商人は言葉を失う。だがその隣からボルトが言った。


「いやいや、お嬢様も危ないですよ。このまま行ったら死ぬかもしれない、ここは一旦様子を見てから動いた方が良いのでは?」


「いいえ。命がどうこうは関係ないのです。もし市民に生存者がいたら、私は辺境伯の娘として導かねばなりません。ですから皆様はここでお帰りになられたらよろしい」


 するとボルトが突然仲間達に言った。


「話が変わってきたな。お前らどうするよ?」


 すると斥候のベントゥラが言った。


「いやいや。あぶねえだろ、それにまだ商人さんとの契約の途中だぜ」


 タンクのガロロが言う。


「じゃが、このまま放っておくちゅうのもなあ、寝つきが悪い」


 そしてフィラミウスが頷いて言う。


「ボルトが決めなさいよ」


 すると商人が慌てて言った。


「ちょ、ちょ! ちょっと待て! 帰りの護衛もまだあるじゃろ」


「いや。俺達はパルダーシュまでの約束だ。あんたはどうするつもりだ? このままこの三人を見捨てて帰るつもりかい?」


「い、いや…それは…」


 それにボルトが畳みかけた。


「つーか、今後の商売を考えるなら、辺境伯に恩を売っておくつーのは悪い事じゃねえと思うけどな」


「それは…」


 商人が黙り、冒険者達はヴェルティカを見ている。だがヴェルティカが言う。


「いいえ。命をかけろとは言えません。ここで帰られたらよろしい」


 するとフィラミウスが助言する。


「行って見て危険そうなら辞めてもいいんじゃないかしら? 危険ならベントゥラが察知できるでしょ」


「そりゃまあ…」


 すると商人が渋々答える。


「わかりました! 行きましょう! ですが危険だと判断したらすぐに帰りますよ!」


「よし! じゃあ決まりだな」


 俺が考えるよりも、冒険者達は良い人間だった。もっと利己的に考えて、俺達の事など放り出すと思っていたが、商人を丸めこんで俺達を連れて行ってくれるらしい。


《これで生存率があがりましたね》


 だな。


《この剣士の身体能力はビルスタークほどではないですが、それでもかなりの戦闘力をもっています。それだけではなく小さい人間もかなりの身体能力であるとわかります。更にベントゥラと呼ばれる斥候の俊敏性は高い。更に魔法使いですが、そこそこの魔粒子を備えております。マージほどでは無いにせよ、いざという時に攻撃力が高まります》


 もしあのバケモノ達がいたら?


《全滅かもしれませんが、逃げる時間は稼げるかと》


 うーん。こんなに譲歩してくれたんだから、巻き込む前に逃げてもらった方が良いな。


《合理的ではありません》


 いや。そうしたいんだ。


《わかりました》


 一連の流れを聞いたヴェルティカが言った。


「すみません。このご恩は必ずお返しします。パルダーシュ家は約束を違える事はございません」


 するとボルトが言った。


「まあそんなに大層な事はいいさ。むしろ、うちらの雇い主が行ってくれるって言ったんだ。御礼はそちらに言ってくれ」


「商人様。ありがとうございます」


「も、もちろんです。ですが危険ならその時は…」


「分かっております」


 そうして商人はパルダーシュに向かう事を決めた。俺達が再び馬車に乗り込み、その村を出発するのだった。

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