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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第三百三十話 物資を回収し自領への帰還を果たす

 要塞解体を開始してから五日が経過しても、敵の偵察は飛んでは来なかった。既に外壁も剥がされて、荷運びのために王宮魔導士と帝国魔導士が共同で、幾つもの浮遊魔法をかけ、それがアーンの増幅魔法陣により強化されて浮いている。


 ヴァイゼルが、髭を撫でながら言った。


「あっという間に魔力が無くなりそうなもんじゃが、微弱な魔力であんな重たいものが浮くんじゃのう」


 マージが言った。


「流石は天工鍛冶師の魔法陣さね」


「とーんでもないっぺ! お師匠様ならこのぐらい朝飯前だっぺ」


 確かに、アイドナは増幅魔法陣をマスターしていた。そのおかげで、膨大な重量を浮かす事が出来ている。


「最後の仕上げに、生体動力を切り離す。メルナとアーンは、大型鎧を着て一緒に来てくれ」


「うん!」

「わかったっぺ!」


「そしてヴァイゼル! 魔導士達と一緒に!」


「わかったのじゃ」


 骨組みになった要塞の中心に行き、メルナとアーンの巨大鎧が両側を押さえた。


「行くぞ。傾きそうになったら、ヴァイゼルと魔導士達で頼む」


「心得た!」


「では、増幅魔法陣を掘り上げる」


 そして四方の壁に、魔法陣を掘り上げていく。次にレーザー剣を取り、床と壁を切り離していった。両側を大型鎧で支えているので、まずは下に落ちる事はない。


「では、浮遊魔法を!」


「うむ!」


 部屋に浮遊魔法をかけると、少しだけ部屋が浮き上がった。巨大鎧の二人がスーッと外側にずらして、骨組みの開いたところから部屋を抜き出した。


「よし。じゃあレイ! 四機の四つ足ゴーレムに繋いでくれ」


「「「「は!」」」」


 準備していたレイたちが、鉄ひもを持って部屋に穿った穴にかけ、それを四つ足のゴーレムに繋いだ。


 要塞だった骨組みを見上げて、ウィルリッヒが言う。


「本当に空っぽになったね」


「ああ。そして最後の仕上げだ」


 俺が言うと、青備え達が爆裂斧を構える。


「一気に削れ!」


「「「「は!」」」」


 ガン! ガゴン! ガガン! 骨組みだった鉄の柱は、あっという間に、幾つもの鉄塊になっていく。そして球体になった塊に、俺が再び増幅魔法陣を刻んだ。


「浮かせてくれ!」


 魔導士達の魔法で、また少しだけ浮かび上がる。要塞があった場所には、これで跡形もなくなった。


「終わった!」


「「「「「おおおおおお!」」」」」


 皆が喜んでいる。あの大きな要塞の質量が、物凄い数の部品となって荷馬車に積まれ、浮かび上がり、男達の肩に担がれた。


「では! これより! リンセコートに帰還する!」


「「「「「は!」」」」」


 俺と風来燕が殿を務め、オーバース指揮の下で長蛇の列が動き出す。それを見て、プルシオスが言う。


「まるで、蟻の行列だ」


 それを聞いて、ウィルリッヒがうんうんと頷いた。


「まったくだ。自分の体の何倍もの物を、運んでいる様は、まるで蟻のようだね」


 俺が答える。


「二つの国の魔導士が力を合わせて、魔法をかけてくれたおかげだ」


 ウィルリッヒが言った。


「人類の存亡がかかってるんだ。国がどうのこうのと言ってる場合じゃないよ」


 プルシオスも頷く。


「そのとおり」


 その様子を見て、フロストが笑った。


「この数日間で、すっかり意気投合なされましたな」


 ウィルリッヒが答える。


「全くと言っていいほど、二人の境遇が重なったんだ。考えている事も、痛いほど分かるからね」


「その通りです剣聖。どちらも王を無くし、自分の国を乗っ取られた状態。目的が全く一緒ですからね」


「そうでしたな。プルシオス殿下、国を取り戻す。それが悲願」


「「ああ」」


 二人は共鳴するように答えた。


 それから俺達が進んでいくと、やはりリンセコートにの森には、大型の魔獣が出るようになっていた。しかも大型の魔獣が、街道に出てくるのは異例中の異例。それを見て、ボルトが嬉しそうに言う。


「こっちから行かなくても、肉も魔石もとり放題だな!」


 だが俺は、それに釘を刺した。


「まあ、そうなんだが、乱獲すればあっという間に消えてしまう。魔獣も、リンセコートを守るために必要な要素なんだ。今回、ある程度食肉になるぶんが獲れたら、若い個体は森に逃がしてやろう」


「分かってる!」


 来た時よりも荷物が多い分、皆のフットワークは悪い。


「運ぶのに集中してくれ!」


「「「「は!」」」」


 護衛しているのはオーバース、クルエル、オブティスマ、ビルスターク、アラン、レイたち。そして、俺と風来燕、フロストだけ。あとは全員が、運搬作業をしている。ヴァイゼルが全体に魔よけを施して、運搬作業をしている奴らに、魔獣が近寄らないようにしていた。


「ひいひいふう」


 ヴァイゼルが、汗を垂らす。


「魔力の欠乏か?」


「いんや。歩くのはしんどいですじゃ」


「そういえば、そうだったな……」


 するとマージが言う。


「だから、老いぼれは嫌なのさね」


「お、おお、老いぼれ!」


「運動不足の老いぼれじゃないのさ」


「そ、そうは言ってもですね。寄る年波には……」


 突然メルナが、巨大鎧の後部座席にひょいっとヴァイゼルを座らせた。


「ホントは、ビルスタークのとこだけど。いま、護衛についてるから!」


「ほーんと! メルナちゃんはやさしいのう!」


 マージがそれを聞いて怒る。


「まったく! 甘えるんじゃないよ! ジジイ! 気持ち悪いねえ!」


「き、気持悪い……」


 だが、優しいメルナが笑って言う。


「気持ち悪くなんかないよ!」


「め、メルナちゃん……」


 なんか、ヴァイゼルが泣いている。


《ノントリートメントは、年を取ると涙腺が緩くなるというデータがあります》


 なるほど。


 そうして俺達は、来る時の倍ほどの時間をかけて、リンセコート領に到着した。採取して来た荷物は、全てドワーフの里に持ち込んで、これから加工していくことになる。


「お帰りなさいませ。旦那様」


「ただいま。ヴェルティカ。変わった事は?」


「市民達が……これから、どうなるのかを訪ねてきてるわ」


 それを聞いて、俺はプルシオスとウィルリッヒの、両王子に目を向けた。


「市民に説明をだね?」


 プルシオスが言い、ウィルリッヒがそれに頷いた。


「状況の説明と、これからの展望を話さないと、反乱も起きよう。いまの世界がどうなっているのかを、もう一度きちんと説明する必要がある」


「そう、いたしましょう」


「では、任せた」


 俺は、物資を持ってきた皆に向かって言う。


「まずは休んでくれ! 食事をとり、ゆっくりと眠るといい! 酒も用意する」


「「「「「おおおおお!」」」」」


「持ってきた物資をどうするか、これから俺が設計図にしたためる。アーンは、手伝ってくれ」


「もちろんだっぺ!」


 俺とアーン、メルナとマージ、ワイアンヌが主の建物に入った。そして、ヴェルティカが俺達に言う。


「食べながらやりますか?」


「そうしよう」


 そこに、フィリウスがやってきて言った。


「もし問題が無ければ、私も同席したい」


「かまわない」


 すぐに大量の羊皮紙をもって、俺達が会議室に入っていくと、すぐに料理が並べられた。


「つまみながらどうぞ」


「ああ」


 料理は簡単につまめるものになっており、汁ものなどがない。水も用意されて、俺達は水を飲みながら羊皮紙に図面を書き記していくのだった。

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