第三百七話 改造エルフから聞く悲惨な未来
改造エルフは、闇魔法で意識を無くしていたが、サイバネティック・ヒューマノイドとは違うようで、少しやつれてきているようだった。どうやら、消耗してしまうらしい。
「構造が違うのだろうか?」
「どうしたのさね?」
「キメラ・マキナとは違って、エルフはやつれているようだ」
「これは、人間と同じなんじゃないのかねえ?」
俺は、オブティスマに願う。
「水と食料を用意できるだろうか?」
「もちろんだ」
しばらくして、騎士が食料を持ってきたところで、俺は早速改造エルフを起こす事にした。
「王宮魔導士はさがってくれ」
「「「はい」」」
念のため王宮魔導士を部屋から出し、メルナとビルスタークとオブティスマだけを残す。
「じゃあ、メルナ解除だ」
「うん」
メルナが闇魔法の解除を試みると、改造エルフがゆっくりと目を開ける。
「う、あ」
「起きろ」
「き、貴様ら……」
声からすれば女のようだが、まだ性別は分からなかった。
「このアーマーをパージしても、お前は死なないか?」
俺が効く。
「あ、う、体が、動かない……」
「お前の指示には従わない。管理者権限を書き換えた」
「そ、そんな馬鹿な。原始人が……アドミン権限を?」
「もう一度聞くが、これをパージしたらどうなる? 体に、管が繋がっているようだが」
「……」
「恐らく、このままだとお前は死ぬぞ」
「外して……いい。問題ない」
ピピピピピピピ! アイドナがパネルを操作すると、改造エルフに刺さっていたパイプが抜け始める。そして、背中部分からアーマーが開いて体が出て来た。
「出して良いか?」
「ああ」
俺が両脇に手を入れて、パワードスーツから抜き取った。真白な体が出て来て、初めて性別が女であることが確認できた。
「水は飲めるのか?」
「飲める」
水を与えると、ごくごくと飲み干した。やはりコイツはサイバネティックヒューマンとは違うようだ。そして、果物を差し出してみる。
「……」
「食え」
手に取って果実を食べる。
「本来は、生では食べないのだが……」
「どうだ?」
「甘い……」
しばらく食べていたが、その手を止めた。
「今は、どうなっている?」
「お前の仲間は眠っている。そして、お前達が持ってきた要塞は、俺が管理者権限を書き換えた」
「……とにかく。システムを起動させなくてはならない」
「あの、仕組みをか?」
「そうだ。あと少し。それで、侵略者を阻止できる」
やはり最初に行っていた事と、同じことの一点張りだった。
《洗脳に近いものがあります。恐らくは幼少の頃から、そう言い聞かされていたと推測》
なるほどな。
そして俺が、改造エルフに質問をする。
「お前がシステムの鍵と言っていたが、一体どういうことだ?」
「言葉通りだ。私は、生体動力を活性化させる」
「そうなのか?」
「その為に送られた」
「お前と同じようなのが、もっといるのか?」
「そうだ」
嘘は言っていない、恐らくコイツがカギになっていて、何かが発動するのだろう。
「キメラ・マキナは。その護衛ということか?」
「そうだ」
どうやら、少しずつ全容が見えてきている。やはり、古代遺跡は全て覚醒させねばならないのだろう。
「どうすれば、起動させることができる?」
すると、改造エルフが首を振る。
「私を動力部に連れて行けばいい。だがな、起動させるだけではダメだ。羅針盤が必用だ」
「金の円盤のことか?」
「な! やはり! あったのか?」
どうやら、確証はなかったらしい。そこで俺が頷いて言う。
「あった。あれは、何らかの鍵らしいな?」
「あれが無いと、すべてが意味をなさない」
「そうなのか?」
「そういわれている」
「お前は知らないのか?」
「知らない」
俺は更に、次の状況について聞く。
「あとは、この国と、隣国のリンデンブルグで終わりか?」
「他の国は、既に占領下にある。我々をどうにかしたところで、いずれ大挙して来るぞ。お前達の命は、そこで終わるだろう」
「その数は?」
「国と大きい都市の数だけある。そして、コロニーにもな」
それを聞き、ビルスタークもオブティスマも苦い顔をする。俺としては想定していた事ではあったが、余りにもの絶望的な情報に驚愕しているようだ。
「侵略者を封じたあとで、共存する事は出来ないのか?」
すると改造エルフの女は、一瞬あっけにとられた顔をする。
「くっくっくっ」
顔を赤くして笑い始める。
「あーっはっはっ! なぜ下等生物と、共存せねばならんのだ。お前達は、護衛者であるキメラ・マキナたちの養分にしかならぬ。仲間が全て地上に降りて来た暁には、お前達は養分として飼われ、生殖させられて増えるだけの存在になるだろう。家畜は、家畜らしく生きるしかないのだ」
「なぜ、わざわざ地上に降りて来る必要がある? 宇宙コロニーで生きていけばいいはずだ」
「……」
口をつぐむ。何か、言いたくない事があるようだ。
「言いたくない事があるようだな?」
「コロニーは……コロニーはそろそろ限界なのだ。老朽化が進み、じきに崩壊する」
「……そういうことか」
「地上が安全な地になったのを確認したからな。完全に我々が生きれる場所だと」
「おまえらは、邪魔なんだがな」
「邪魔なのはお前らだ。私達が住むべき土地に来て、何をしている?」
《どうやら、この者達は、地上に生存領域を求めているようです》
そして俺は、メルナに目配せをして闇魔法を施すように促すと、メルナは頷いて、闇魔法を発動した。ストンと改造エルフが眠り、俺はついでに回復薬を振りかけた。
ビルスタークが言う。
「恐ろしいことになってるようだな」
「そのようだ」
オブティスマも言う。
「侵略者とやらをどうにかしたところで、俺達は滅びの道をたどるのか?」
「滅びると決まった訳ではない」
「だが、あんな敵が、凄い数いるのだろう?」
「すぐに侵略して来るかは分からん。この都市の状況は、まだ伝わってないだろう」
「そうか……」
「いずれにせよ。侵略者対策に舵を切るしかないようだ」
「仕方ないか」
改造エルフへの尋問が終わったが、更に希望の芽が摘まれたようになってしまった。俺達はエルフを、ベッドに縛り付け闇魔導士に任せて教会を出る。
「全員を集めて、これを伝えねばならん。すぐに招集を」
「わかった」
オブティスマが駆けだしていった。ビルスタークが、俺に聞いて来る。
「なにか、手立てはないものかな?」
「今はまだ分らないが、こちらも入手した技術がある。防衛しつつ、突破する術はあるかもしれん」
「そうか……そうかもしれんな。コハクが言うのなら、そうかもな」
「ああ」
もちろん確信など、何処にもありはしなかった。コロニーにどれだけの敵がいるのか、それがいつ降ってきて侵略してくるのか。他国にいる敵は、いつここで起きた異変に気が付くのか。今わかっているのは、侵略者とやらが来る日程のみ。ならば、今はそれに向かって全力で取り組むしかないのだった。




