第三百五話 超越者の伝承と滅んだ世界
マージが淡々と、黄金の円盤にまつわる話を始めた。もちろん確証があるわけではないが、賢者として研究して来た話らしい。
「超越者は、世界を救った者だと言われている」
皆が食い入るように、話に聞きいった。
「そして、世界は一度滅んだという説がある」
「「「えっ!」」」
三人が驚いている。だが俺は既に理解していた。
《古代遺跡の概念は、三人には理解ができないようです》
そうか、想定の範疇を超えているか……。
もちろん俺達、俺とアイドナはその可能性は想定している。むしろ、その確率の方が高かった。
「そして、あたしもやっとわかったよ。あの、敵を見てね」
「マージ、何が分かったの?」
「あの敵は、超越者に関係しているという事さね」
「えっ! 超越者に? その人、世界を救った人なんでしょ?」
「超越者が救ったのはね、今の世界とは違う世界さね」
「この世界とは違う世界?」
「そう」
大陸中に古代遺跡とやらが眠っている以上、違う文明が栄えていたという可能性はかなり高いだろう。それが何らかの理由で滅び、今の世界になったという事になる。
「その黄金の円盤にはね、超越者の知恵が収められているらしい」
アーンの目がらんらんと輝く。
「えっ! これに知恵が入ってるんだっぺか!」
「そう。まあ、読み取る方法すら分からないけどねぇ」
「なるほどだっぺ……」
《これが、データであるという可能性は高いです》
記憶媒体という事か。
《概念的にはそうでしょう。ですが、この形状である理由が分かりません》
さらにマージが続けた。
「あの敵は、空からやってきたからね。やっと合致したのさ」
「そうなの?」
「なんだっぺ?」
「超越者は、滅びの前に天に昇ったとされているのさね。もしかすると、コハクが言ってる宇宙コロニーとやらに関係しているかもしれないねえ」
「「「えっ!」」」
三人がこっちを向いた。そこで俺が説明をする。
「空の上の上。そこにはまた違う空間があってだな、そこに住処を作っているやつらがいるようなんだ。そこに、逃げていったというのが正しいかもしれない」
「空の上の住処……そんなのがあるのか」
「地上から空の上の上に、登ったって言うんだっぺか!」
「そうだ」
三人は目を白黒させている。俺の前世では、他の惑星にまでヒューマンはたどり着いていた。彼女らにこの大地が星であるという概念は無いだろう。言葉で分かったとしても、理解は難しいと予想された。
そしてマージが話を戻す。
「そして、滅んだ世界に星が降り注ぎ、あたしら人間の祖先が生まれた。と、そんな話さね」
「あとは?」
「伝承を集めただけだからね。そして、あたしが情報を組み立てた話だよ」
「そっか」
続けてマージが俺に言う。
「コハクは、その円盤をどう見る?」
「触れてみるか……」
「触れて大丈夫なものなのかね」
そして俺の視線が、エックス線透過に変わるが、その円盤は透過できなかった。
《放射線など、人体に影響のあるものはありません》
アイドナに言われ、そっと触れてみる。
「微妙に振動しているようだ」
《判別できません》
「なんだかはわからん」
「そうかい」
「ああ」
《読み取り用の、何かがあると推測されます。この状態では解析不可能です》
アイドナにも分からないようだった。そして俺は皆に言った。
「これを持ちだそう。破損しないようにしたい」
ワイアンヌが棺の中を見て言う。
「中の緩衝材が外れます」
「よし、それに包んで背負子にしまってくれるか?」
「はい」
俺がそっと円盤を持ち上げ、ワイアンヌとアーンが、棺の中の緩衝材を外して包む。
「ちょっとまってください」
ワイアンヌが背負子から、箱を取り出した。
「これを並べて入れて、壊れないように固定しましょう」
緩衝材にくるんだ黄金の円盤を、箱と一緒に背負子に収めた。
「これで、用件は済んだ」
「他はいいっぺか?」
「ああ。敵の狙いは、恐らくこれだ」
「わかったっぺ」
俺達が隠し書庫から出ると、ハイデン公爵が直立で待っていた。
「おかえりなさいませ」
「よし。ここはもう閉鎖する。お前は、ここの開け方はもう忘れろ」
「忘れました」
扉を開ける為の本を元に戻すと、ガシャンと鍵がかけられた。そして禁書庫を出て王城へと戻る。
出てきた俺達に駆け寄って来た、オーバースが聞いて来る。
「何かを見つけたか?」
だが俺は、適当に誤魔化す事にした。この情報は恐らく、不用意に広げない方が良い。
「そうでもないさ」
オーバースはすぐに察したようだ。
「なるほどな。俺はあと、お前の指示通りに動くだけだ」
「やることは変わらない。ひとまず王都の警護だ。他の国には恐らく、まだまだ未知の敵がいるだろう。この国の先兵が失敗したと分った時、恐らく近隣諸国から奴らの仲間が来る」
「了解だ。一体どれだけの数がいるのやら」
「国と都市の数だけ。いると見ていいだろうな」
「……人類では勝てんだろう。コハクが何人もいるわけではない」
「これから、考えるさ。あと二週間の間に、蹴りをつける必要があるようだが」
「侵略者とやらが、敵じゃなきゃいいんだろうが、そうもいかんだろうな」
「わからんな。情報が少なすぎる。だが改造エルフが、嘘をついていない可能性が高いことは分かった。侵略者を阻止するためには、やはり古代遺跡は起動させないといけないのかもしれない」
「そうか……なら、我らは指示に従い王都の警戒にあたるとしよう」
「そうしてくれるとありがたい」
《まずは円盤の解析と、侵略者とやらの対策が優先です》
だな。あの要塞に持って行ってみるか。
《はい》
俺はメルナ、アーン、ワイアンヌに告げる。
「あの、要塞に行く」
三人が頷いた。
マージが言った。
「あたしらは、とてつもない、歴史の分岐点にいるかもしれないねえ」
「そうだっぺか?」
「すでに、コハクの存在がそれを証明しているさね」
「あ、なるほどだっぺ」
メルナもワイアンヌも深く頷いている。彼らには何か感ずるものがあるらしい。
「行こう」
三人と魔導書のマージを連れて、俺は再び巨大な宇宙船に乗り込む。アイドナも、かなり重要な情報の可能性が高いと認識していた。奴らが狙いを定めていた、黄金の円盤にどんな謎がかくされているのか?
《侵略者の情報がつかめればよいのですが》
調べるしか手立てがない。
あと二週間という猶予のなかで、どう侵略者の攻撃から滅亡を防ぐのか。そして、他国にいる未知の敵の侵攻も考えねばならないだろう。切羽詰まった状況だが、とにかく対応策を見つける必要があった。