第三百四話 王城の禁書庫で見つけた金盤
王都の市壁付近まで、巨大要塞を持ってきたおかげで、西側に広がる森の木々を倒壊させてしまった。それを見て、クルエルが言う。
「見渡しがいいぶん、侵入者にはすぐに気が付きそうだな」
オーバースがクルエルに答える。
「むしろ道を作った方が良いかもしれんが、今はそれどころではない」
「まあな」
戦いが落ち着き、反乱していた兵士達が王都にきて、手厚く治療を受けていた。自分達を脅かす脅威が制圧されたことで、戦う理由を無くし休息を欲しているようだ。
「ここまで行軍させられて、特攻までさせられてはな……」
「ああ。不憫な奴らだ」
将軍として同じ国の兵士達に対し、同情の気持ちが強いようだった。
それを見て、俺も不思議な感覚に襲われる。状況が違うだけで敵として戦い殺されても、戦況が変われば被害者になり保護をしてもらえる。本来であれば排除すべきだろうが、保護する事に対しては俺も理解ができるようになっていた。
《共通の敵がいることを認識しているからです》
そうか……。
だがそれとも違う感情が、そこにあるような気がした。
「では、王城をくまなく調査させてもらう」
「王妃殿下も一般市民に扮して、リンセコート領にいるからな。自由にしても誰も止める者はいない」
「そうだったのか。なら今は、王子と共にいるという事だな」
「ああ。ただ王城に残った、使用人や文官がいるからな。説明しなければならないが、適任がいるぞ」
そしてオーバースは、直ぐにハイデン公爵を連れて来た。反旗を翻した本人とはいえ、王が死んだ今、ハイデン公爵が一番、王に近い地位にいるらしい。俺が公爵に命じる。
「王城の人達に説明をしろ」
「はい! わかりました!」
それを見て、クルエルもオブティスマも目を丸くしている。
「「コハク……」」
それはスルーして、ハイデン公爵に王城を見る事を説明させた。既に、黒曜のヴェリタスを飲ませた、甥のセグルス・ハイデン伯爵とラングバイ辺境拍も並ばせる。
王子がいない今、こいつらは王城の人間を従わせるのに使えるらしい。
「人が足を踏み入れない場所はあるか?」
オーバースが答える。
「ならば、禁書庫だろうな」
「案内してくれ」
するとオーバースが言う。
「それなら、ここで生まれ育った、ハイデン公爵が適任だ」
「ああ、わかりますとも」
俺が大きい声で、離れているところにいる四人を呼ぶ。
「メルナ、マージ、アーン、ワイアンヌ! 一緒に来てくれ」
俺はハイデン公爵と共に禁書庫へと向かった。それは王城の地下の、重厚な扉の向こうにある階段を、更に下った場所にあった。その入り口には、しっかりと鍵がかかっている。
「鍵がかかっている」
ハイデン公爵が答えた。
「鍵の場所までは知りません」
するとワイアンヌが言う。
「解錠出来ます」
背負子からスクロールを出して、メルナを見て言う。
「魔力を」
鍵穴にスクロールを付けて、魔力を注ぐと燃えた煙が鍵穴に入っていく。
ガッシャン! と音を立てて鍵が開く。
ギィィィ!
「おお、便利だな」
「はい。ある国のシーフに売ってもらいました」
「凄く役に立つ」
扉はだいぶ古いようで、パッと埃が舞った。
「埃が凄いな」
「ずっと使われて無かったみたいだねえ」
中に足を踏み入れると、岩の壁に囲まれた部屋だった。そこには所狭しと、多くの書籍が並んでおり、武具や武器なども置いてあるようだった。
「なるほど。かなり膨大な量の書籍があるな。何か覚えていないか?」
俺がハイデン公爵に聞くと、素直に答えた。
「幼少の頃に一度、入ったきりです」
「何か思い出はないのか?」
「はい。本など読んだこともありません。ただ、一度、先の王に連れて来られたことがあるだけ」
「そうか」
するとアイドナが、エックス線透過に切り替えた。
《隠し部屋があります》
俺が皆を連れてそこに行くと、ガイドマーカーが惹かれ、一冊の本を点滅させた。
《引き戸の仕掛けにつながっています》
俺がその本を引く。
ガッゴン!
音を立てて何かが開く音がした。そこで、その本棚を奥に押すと壁に沈む。
「隠し部屋だ」
俺はハイデン公爵に言う。
「ここで待て」
「はい」
四人を連れて中に入ると、アイドナのガイドマーカーが光り、部屋の奥にある重厚で棺が点滅した。
《内部に金属反応》
俺がその場所に行って、棺に手をかけた。やはり鍵がかかっている。
「ワイアンヌ。これはどうだ?」
「やってみます」
スクロールをもう一枚用意し、メルナが魔力を注ぐ。スクロールが消えるが、鍵は開かなかった。
「これは……魔法による封印です」
ワイアンヌが言うと、マージが聞いた。
「どこかに、魔法陣が記されてるんじゃないだろうか?」
周りを見てみると、足と頭の部分に魔法陣が刻まれていた。
「あった」
俺がそれを見て、マージに言う。
「見た事の無い魔法陣だ」
だが、それにはマージでは無く、アーンが答えた。
「あの! わかるっぺ! これは見たことあるっぺよ!」
「どうすれば開く?」
「でも不思議だっぺ。頭と足の部分が一緒になってるべきだっぺ」
それを聞いてマージが言った。
「分かったよ。メルナ、詠唱をしておくれ」
「うん」
そしてマージが言った通りの事を、なぞるようにメルナが詠唱する。
「星の流れに沿って、我、この封印をあわせもつべし」
すると頭の魔法陣と、足の魔法陣が浮かび上がり重なる。
ガシュン!
「開いた」
棺の蓋に手をかけて、ゆっくりと開くと、そこには金色に輝く金属製の円盤があった。
「なんだこれは?」
「どんなものさね?」
「金色の円盤だ。不思議な色に輝いている」
するとマージが驚愕の叫びをあげる。
「そ、それは、超越者の羅針盤さね!」
「超越者の羅針盤?」
「まさか、こんな所でお目見えするとはねえ」
「どういうものだ?」
「話は、この世に奇跡をもたらしたと言われている、超越者の伝説になるさね」
皆が興味津々に、マージの言葉に耳を傾ける。
「詳しく聞かせてくれ」
「ああ。私が持っていた予言の書にも、これの事が書かれていたのさ」
「俺が、奴隷商に現れると書いてあったあれか」
「だね。これは、その超越者が作った、もしくはもって生まれたと言われているものさね」
「超越者とは? 何をしたんだ?」
「ふふっ……それは、面白い事だよ。まるで、コハクのような偉業を成し遂げた話だからね」
それを言うと、メルナもアーンもワイアンヌが、魔導書のマージを囲んだ。
「ききたい!」
「ぜひとも! だっぺ!」
「興味深いです」
「ああ、それはね」
俺達は、そこからマージの語りを聞き始めるのだった。