第三百三話 巨大要塞のメインシステムをハッキング
俺が探るとフライングボードを射出したあたりに、カタパルトを発見した。直ぐにそれをこじ開けて、オーバースと共に中に入っていく。
「鉄の……これは、全て金属でできてるのか」
「そうだ。そうでなければ、空から落ちては来れない」
「面白いな」
武神と名高い将軍でも、まるで子供の用にきょろきょろしていることに、俺は少し笑う。
「ガラスも普通のガラスじゃない。簡単には割れない」
「これが、古代文明か」
「なぜか、この世界より発達しているようだ。むしろ、未来文明と行った方が良いだろう」
「未来……そんな概念があるのか……」
やはり、今までの突入ポッドよりも中が広く、動力もまだ通っており生きているようだ。
その時だった、通路の奥から音が聞こえて来る。
ガシュン! ガシュン!
何だ……?
《人型のロボットです》
オーバースは既に高周波ソードを構えている。するとロボットが言葉を発した。
「侵入者発見。排除する」
両の腕が持ちあがる。
《ガトリングです》
俺が空間歪曲加速でそばにより、その腕の下から斧でかち上げた。
キュィィィィィ! ガガガガガガガガ!
それは天井を撃ち破壊したが、そこにオーバースが来て両の腕を、高周波ソードで斬り飛ばす。人型ロボットの後ろから、二本の腕が伸びて来てオーバースに向けて突き出すが、俺が上から爆裂斧で砕いた。
バギィ! バリバリ!
俺は少し痺れて、廊下の壁に自ら飛ぶ。次の瞬間、オーバースがロボットの脳天から股にかけて高周波ソードを振りぬいた。
バシュッ! ガン! ガン!
それは真っ二つに割れて転がり、火花を散らして動きを止める。
「大丈夫か? コハク」
「高圧電流だった。自分で飛んだ……が、少し腕が痺れた」
「こりゃ、なんだ?」
「この世界でゴーレムと呼ばれている奴だ」
「ゴーレムが……喋ったぞ」
「人工知能の可能性が高い」
「じんこう知能? じんこうとは」
「人が作った心みたいなものだ」
「人が考える物を作ったということか?」
「そういうことだ」
恐らくこのロボットにも、AIが搭載されている。
《メインの回路がどこかにあるはずです》
わかった。
「たぶん。まだいる可能性がある」
「まあ、気は緩めんさ。痺れは?」
「とれた」
二人目を合わせて頷き、そのまま通路の奥へと進んでいく。今までの、要塞には攻撃用のロボットなど居なかったが、これは特別に搭載しているらしい。
《それだけ、重要な何かがあるのです》
なるほどな。
すると次の瞬間、ビー! という警告音と共に、扉が閉まり始めた。俺達は先に進むが、後ろの扉が閉って戻れなくなった。オーバースが振り向いて言う。
「罠か?」
「だな。さっきのゴーレムを壊したから、進入を阻止しに来てる」
「どうするか」
「多分。これで空けられるはずだ」
俺はアームカバーから、ルクステリアのレーザー剣の柄をとりだして扉に向かった。
シュオオオオン!
音を立てて光るレーザー剣を、鉄の扉に突き立てると鉄が溶け始めた。人が通るほどの四角に型取り、足で蹴り飛ばしてやる。
バーン! と音を立てて、扉がたおれた。
「行こう」
「恐ろしい剣だ」
「だが、奴らは戦闘でこれを無効化した。奴らのものだからな、対策ができる」
「そういうことか」
俺達が周辺を警戒しつつ進むと、再び監視ロボットがやってきた。だが、俺だけじゃなく、オーバースも一度見た相手の攻撃方法は覚えている。二人同時に飛びかかり、一瞬にして鉄くずにする事が出来た。
《やはり、ノートリートメントの中では、ずば抜けているようです》
フロストと比べてどうだ?
《技術云々はありますが、こっちが上です》
王都が守られた理由がわかった。
《はい》
「こっちに行ってみよう」
「よし」
部屋に入る扉があり、そこに文字が記されている。
《ウォー・ルーム。戦略室のようです》
アイドナがパネルを操作し、ロックを解除すると扉が開く。
プシュッ!
中に入ると、あちこちにパネルがぶら下がっているような部屋だった。
「なんだここは」
「恐らくは、会議室だな。みろ」
見ている先のパネルには、王都の上空からの写真映像があった。
「王都か」
「飛行ゴーレムで撮影した攻略目標が記されている」
「本当だ」
王城及び、王都中心の古代遺跡と、ガラバダが囚われている牢獄に記が付いている。
「やはり、捕えられた未知の敵を、察知されていたようだ」
「王城にも記が付いているようだが?」
「確かに……」
《王城も確認してみる必要があります》
なるほどな。
そして見渡してみると、どうやら船内の様子もモニターされている画面がある。それを見て指でなぞり、ブリッジを探した。先に、アイドナがガイドマーカーを記す。
《ここです》
ハッキングは出来るか?
《試みます》
「オーバース。俺は集中する。敵は排除してくれ」
「簡単に言うな」
「オーバースなら出来る」
そして両手の鎧を外し、メインパネルに行って手を付ける。俺の指が残像を残すくらい早く動き出し、つぎつぎにセキュリティの防核を抜いて行く。
《アドミン権限を入手。書き換えます》
よし。
そしてアイドナが、あっという間に全権を掌握した。
《かなり古いAIです。とても演算が遅く、セキュリティの解除が容易い》
俺には分からん。
《全ロック解除しますか?》
ああ。
次の瞬間入り口が、シュパン! と開き、奥のほうでも扉の開く音がした。
「解除した」
それを見てオーバースが言う。
「罠の解除……シーフのような能力もあるのか。コハクは」
「違うと思う。これは、機械に特化した能力だ。普通の罠の解除はできん」
「なるほどな」
「行こう」
二人はブリッジへと向かった。角を曲がると、人型ロボットが立っていてオーバースが剣を構えるが、俺はそれを制する。
「もう大丈夫だ。攻撃はしてこない」
「なぜだ?」
「さっきの罠と、これは連動している」
「ほう……」
スムーズにブリッジに行くと、全てのパネルが稼働しており、外の様子が映し出されている。
《マイクがあります。外への警告用かと》
俺はそれを取って、話をして見る。
「ボルト、聞こえたら手を振れ」
風来燕と敵の騎士達が、慌てて上を見上げている。そしてボルトが手を振った。
「この要塞は既に掌握し、無力化している。もはや恐れる事はない」
そういうと、外の連中が一斉に飛び跳ねて喜んでいるのが分かった。
「おもしろいな。それに話しかけると、外に声が響くのか?」
「どうやらそうらしい。だが、ここに来た理由は他にある」
「ほう」
アイドナがガイドマーカを展開し、ブリッジ内を確認した。すると一カ所で赤く光り知らせて来る。
《あれが、通信装置のようです》
パネルを操作すると、そこにはいろいろな情報が映し出された。
「オーバース」
「なんだ?」
その画面を見て、オーバースが言う。
「これは……もしや、我が国と、近隣諸国の地図ではないか?」
「そうらしい……」
俺がそのパネルを触ると、拡大したり引き延ばしたり、違う地域を見る事が出来た。
「これは……リンデンブルグ帝国の、神殿都市。ダンジョンだ」
「そこも、狙いになってるというわけか」
「そうだ」
「しかし、こんなに事細かく、近隣の地図が見えるなんてな。一大事だぞ」
「どういうことだ? オーバース」
「こんなのは、世界の誰も知らんという事さ。これを手に入れれば、軍事の勢力図が変わる」
《言う通りでしょう。これは、世界地図です》
それが重要なのか?
《この世界には、本来おおざっぱな地図しかありません》
ああ。
《こんな、衛星軌道上から撮影したような、詳細な地図があれば軍事戦略に使えます》
そういうことか……。
そこにはリンデンブルグ帝国だけではなく、ゴルドス国や近隣諸国の地図が映っていた。パルダーシュ領のちかく、リバンレイ山脈にも記があり、シュトローマン伯爵領の近くのダンジョンも記されている。
そして、更にアイドナがパネルを弾いた。
《遺跡の攻略情報を表示します》
すると世界の遺跡の情報が、バッと表示された。それを見て俺も、オーバースも驚いてしまう。
「なん……だと」
そこに記されている情報は、世界の遺跡群で未攻略なのが、このエクバドル王都と、リンデンブルグの神殿都市のみ。他国はもう、完全攻略目前まで来ていたのである。
「なんと……、こんなことに?……」
「むしろ、奴らに支配されていないのは、我が国とリンデンブルグのみだと?」
「そのようだ」
「コハクよ……あと、二週間だったか?」
「そうだ」
「奴らは、もう一歩のところまで来ていたようだな」
「だが、もう少し調べねばならん」
「ああ。侵略者……の情報だな?」
「そうだ」
俺は更にパネルを操作し、しばらくするとそれっぽい情報が出て来た。
「あった……が」
「なんだこりゃ……」
俺が聞いた日時だけが表示されており、侵略者の情報は意味不明な事しか書いていない。オーバースは古代語が読めないので、何が書いてあるのか分からないようだ。
《演算に時間がかかりそうです》
やってくれ。
俺がパネルを操作し、オーバースが腕組みをして見ている。
《エルフたちは、防核を起動させようとしているようです》
防核?
《はい。ですが、理論の一部が破綻しております。この状態では無理でしょう》
それが分るのか?
《はい。補填できます。さらに、侵略者を防ぐために、王都とリンデンブルグの神殿都市は、必ず起動させる必要があります》
それで、侵略者は防げる?
《理論上、そうなります》
奴らの言う、侵略者を防ぐ方法はやはり古代都市の起動だった。オーバースに告げると複雑な表情で、額に手を当てている。
「やれやれ。奴らが言ってたことは、嘘じゃなかったってことか」
「そのようだ。だが、侵略者の正体が分からない」
「なるほどな。だが、あんなに恐ろしい奴らが怯えてるんだ。相当な奴なんだろう」
「これで、これから二週間の方針が決まりそうだ。この要塞は使えるだろう、王都に隣接させていいか?」
「お前が総司令だ。好きにすればいい」
俺はマイクを持って、風来燕と騎士達に進路を開けるように指示をするのだった。