第三百一話 侵略者の情報と戦いの処理
改造エルフは、新たな情報を俺に告げた。俺は改造エルフの首に剣をあて、もう一度質問する。
「侵略者の説明をしろ」
「分かった。まず剣を引け」
俺は首を振る。
「このまま言え。でまかせかもしれん」
改造エルフの女は、俺をギロリと睨みつける。俺はそのまま、感情も無く見下ろしていた。
「……私は、防御装置の起動と、迎撃システムを稼働する鍵だ。殺せば、起動できなくなる」
「質問の答えになっていない。侵略者とはなんだ」
「……我らの文明を脅かす外敵だ。奴らは、この星と我々の文明を抹消するだろう」
「そのために、コロニーから降りてきた?」
「そうだ。地上には、数多の防衛機関がある。それらを稼働させ、侵略者から文明を守らねばならない」
「それが、俺達人類に何の関係がある」
「侵略者から見れば、私達も家畜も関係ない。この惑星、コロニーにいる知的生命を滅ぼすのが目的だ」
核心を話さないな……。
《嘘ではないようですが、知らない可能性もあります。質問を変えましょう》
「侵略者はどこから来る?」
「分からない」
「分からない? 分からないなら何故、来ると分る?」
「日時は分かっている」
「なぜだ?」
「ジーナスが全てを予告している」
「ジーナス? なんだそれは」
「創造主だ」
「どこにいる?」
そして改造エルフは、へばりつきながら空を指さした。どうやら、それは宇宙コロニーにいるらしい。
「宇宙か」
「そうだ」
「どんな奴だ?」
「見たことはない」
《本当のようです》
「どうして日時を知っている?」
「ジーナスの予言を、セントラル・キメラが全てを共有した」
「みなが知ってる、という事か?」
「そうだ」
《何者かが、侵略者の存在を知っており予測。決められた通りにやって来るという事です》
そしてこいつらは、操られて来たという事か。
《そのようです》
「その日時というのは?」
「この星が、十四度ほど回ったら、その時間が来る」
「二週間……」
「だから、早く、私を開放しろ」
《まずは、この状況を収める必要があります。眠らせましょう》
「メルナ! 闇魔法だ」
「うん」
「まて!」
マージと一緒に詠唱をして、改造エルフは闇の中に落ちる。そしてすぐに、オブティスマに言った。
「闇魔法を使える魔導士を集めてくれ! 緊急で三体を収容する! あと俺に、鑿をくれ」
「わかった!」
オブティスマが直ぐに騎士に指令を出して、直ぐに魔導士達を呼びに行った。
「アーン! アラン! 直ぐに西の市壁に急行してくれ!」
「わかったっぺ!」
「ああ!」
ガシュンガシュンと音を立てて、巨大鎧がアランを乗せて走っていく。
しばらく待つと、闇魔法を使う魔導士達がきた。そしてワイアンヌもやってくる。
「ワイアンヌ。魔石は持ってるか」
「あります!」
「オブティスマ。地下があるような屋敷はあるか?」
「それなら、あそこに見える教会だ」
「これらを、運ぼう」
改造エルフとアロガンシアと半分のヴァナを運ぶ。教会に巨大鎧のまま入れないので、メルナが鎧をパージした。青備えになり、他の魔導士達と共に地下へ進んでいく。そこは石畳と石の壁で囲まれており、奥が祭壇になっていた。
「ここにしよう」
祭壇の一部に、三体を寝かせメルナを筆頭に、闇魔導士達が更に深く闇魔法をかけた。
そして俺はビルスタークに言う。
「ビルスターク。ここで、皆を守っていてくれ。オブティスマは、教会に人を入れるな」
「わかった」
「そうしよう」
教会に騎士達が配備されて、警護体制が整えられる。それからすぐにオブティスマから渡された鑿で、俺はアーンのオリジナル増幅魔法陣を、その石壁と床に彫り込んで言った。アイドナが全ての形を覚えているので、俺はそれを寸分の狂いも無くなぞる。
「メルナ! 結界を!」
「うん」
部屋に結界がかけられて、闇魔法が干渉されないようにした。
「では、ビルスターク。ここを頼んだ」
「わかった」
俺は直ぐに教会を出て、真っすぐに西の市壁に向かった。しかし、戦闘の音はいつしか途切れており、市壁の向こうにもくもくと煙が立ち上るだけだった。
「オーバース!」
「コハクか」
市壁の上には、普通のプレートメイルを来た騎士達が死んでいる。そして端のほうには、縛られて座らせられている奴もいた。
「他は?」
「逃げた」
「よくやってくれた」
「装備が圧倒的に有利過ぎた」
「なるほど。それと、オーバースの力だな」
「あれが駆けつけてくれた」
ガシュンガシュンと、死体を集めているアーンの巨大鎧がいた。
「それで逃げたか?」
「そう言う事だ」
森の向こうには、動かない巨大要塞がそびえており、もしかすると逃げた奴らはそこに向かったかもしれない。しかしすでに、改造エルフを捕えているため、アイドナは攻撃してこないと予測していた。
「しかしな……」
オーバースが残念そうな顔をする。
「なんだ」
「人が、死に過ぎた。これは戦などと言うものではない。玉砕と虐殺だ」
「……そうか。それと情報を得た。どうやら、俺達はやらねばならない事ができた。話がしたい」
「わかった」
「王都の騎士も呼んで、ここを片付けさせよう」
「そうしよう」
オーバースが直ぐに指示を出して、本格的に処理をし始める。一連の敵の攻撃は終わってはいないが、侵略者とやらの情報を紐解き準備をする必要があった。
するとそこに、大勢の騎士達がやってきて、戦いの処理をし始める。
「オーバース。精鋭にここを任せられるか?」
「むろんだ」
オーバースは、隊長格の五人を集めて指示を出す。俺は手の空いたオーバースに改めて、改造エルフから聞いた内容を伝える。
「そうか……辻褄はあっているが、信頼できる情報なのだろうか?」
「わからない。嘘は言っていなかった」
「どう思う?」
「あの、巨大要塞だが。あれは、恐らく母艦だ。あれに情報が集まっている可能性がある」
「また、潜るのか?」
「そうだ」
するとオーバースは少し考えて言う。
「俺もついて行ってもいいか?」
「かまわん」
「二週間しか猶予がないのであれば、直ぐに動くのだろう」
「そういうことだ。このまま向かうが、恐らく逃げた兵士達が集まっているだろう」
「ふう」
オーバースはため息をついた。これ以上、同じ国の騎士を殺したくはないのだろう。
《ならば……方法があります》
方法?
《黒曜のヴェリタスを》
……なるほどな。
そしてオーバースに言う。
「ならば、ルドルフ・ハイデン公爵を連れて行く。捕えた場所に連れて行ってくれ」
「……連れて行くのか?」
「そうだ」
「わかった」
そしてアーンに言う。
「アーン! 作業は任せて、俺と行くぞ」
「わかったっぺ! アランさん! 行くっぺよ!」
「わかった」
アランが、アーンの巨大鎧の背中の上に乗り、ルドルフ・ハイデンが捕らえられている牢獄に向かう。俺達は、新たな局面を迎えた事を改めて感じ取るのだった。