第三百話 未知の敵の捕縛と尋問
どうやら改造エルフのパワードスーツが、自動で動こうとしているようだった。アロガンシアはまだ動いていない。ヴァナは俺の剣の先に上半身と、髪の毛だけで立っている。
エルフに、逃げられるか?
《いえ、援軍が来ました》
ガシュンガシュンと音と立てて、メルナとアーンの大型の重機が走って来た。上には、ビルスタークとアランが乗っていて、どうやら音を聞きつけていち早く駆けつけたらしい。
「コハク!!」
ヴァナがピクリと動きそうになったので、俺は顔の前に剣を突き付けた。
「動くな」
そしてすぐに、アーンに告げる。
「あの改造エルフが動きそうだ。だが、中の奴は意識が無い可能性が高い。押さえてくれ!」
「わかったっぺ!」
ガシュン! ずるずると、起き上がりそうだった改造エルフのパワードスーツに、ズン! とアーンが足を乗せて固定した。
「メルナはこっちへ!」
「うん」
俺の側にメルナと、巨大鎧に乗せたビルスタークがやって来る。
「マージ! 闇で封じてくれ。コイツが弱っているうちに」
「わかった。メルナ! 詠唱するよ」
「うん」
闇魔法の詠唱を始めると、ストン! とヴァナが意識を落とした。目を開いているが、もはや暗黒に包まれているだろう。俺はすぐさまアロガンシアの下へと行き、様子を伺ってみる。どうやら、胴体のほとんどが潰れており、頭だけが動いている状態だった。
「貴様……なんだ。いったい」
「男爵だよ。奴隷から男爵になった男だ」
「そんな事を聞いているのではない……」
「お前には関係ない。それに、修復したくても、周りに人間がいないぞ? 養分が無いとどうしようもないのだろう?」
「なぜ……それを……」
「お前の仲間を数体破壊したからな。その時に判明した」
「くそ! なんなんだ。お前のその強さは」
「文明の差だろうな」
「……」
意味が分かってないようだった。こいつらからしたら、地上の人間の文明は原始時代。そんな下等な生き物から投げかけられた、文明の差の言葉を理解できないようだった。
「遺跡を奪って何をしたい?」
「……」
「やはり言わないか」
「お前は……ある程度、知っているのだろう?」
「ある程度、までな」
「なら、それ以上は、俺から知る事は出来ん」
「なぜだ?」
「発言の権限がない」
「殺されてもか?」
「そうだ。発言の制限がある」
《どうやら発言抑制のプロトコルがあるようです》
なるほどな。
《そして、これらには、恐怖の感情が無いために、脅しても情報は引き出せません》
そうか……。
市壁のほうでは、まだ戦いが続いているようだが、こちらはどうにか収まりそうだった。俺はアーンが足を乗せている、改造エルフをチラリと見た。そして、アロガンシアに聞く。
「お前達は、答えられなくても、あのパワードスーツならどうかな?」
「パワードスーツ? マキナユニットのことか?」
「そうだ」
「あれも、そう変わらんが? 無駄だ」
「なら、その中身に聞いてみよう」
すると一瞬アロガンシアの眉が、ピクリと上がる。どうやら、あれは制限が無さそうだ。俺はアロガンシアの足を掴んで、ズルズルと引いて行く。
落ちていた錆びたアイアンソードを拾い上げて、アロガンシアの潰れた胴体ごと地面に刺した。
ズド!
「ぐう」
「メルナ!」
メルナが来たので、同じ様に闇魔法をかける。アヴァリでも実証済みだが、こいつらは弱っている時には闇魔法が効くのだ。人間よりも耐性はあるようだが、ここまで消耗させると効く。
「よし眠った」
それを見たメルナが言う。
「コイツ潰れてるよ。さっきのは半分でも生きてたし」
「どうやら、それぞれに急所が違うのかもしれん」
「なるほどー」
マージが言う。
「また、増えちまったね。牢屋を作るのも大変だろうに」
「仕方あるまい。こいつらからは、もっと情報をとりたい」
「で、あの、エルフは?」
「気を失っているようだ。マキナ・ユニットとやらが勝手に動こうとしているが、アーンの大型ゴーレムで押さえつけている」
「人じゃあ、無理だったろうねえ」
すると外の様子を伺って、オブティスマとレイたちが出てきた。
「制圧したのか……あれを」
「ああ。だが、三体とも死んでない」
「やれやれ。一体の牢屋でも大変なのだが」
「始末をつけるのは簡単だ」
「ああ。情報を取らねばな、こんな不気味なものがもっといたら大変だ」
半分ちぎれたヴァナを見て、オブティスマが肩をすくめた。そしてレイが言う。
「戦闘はまだ続いているようですが」
「未知の敵が居なければ、オーバースの敵ではない」
「……たしかに」
「オブティスマ! 騎士達を集合させてくれ! 護衛をつけ、こいつらをどうにかしなければならない! もうすぐ防衛は成功するだろう。レイとジロンは動けるか?」
「「は!」」
「直ぐに、市壁に助っ人に行ってくれ」
「「は!」」
二人は颯爽と西側の壁に走り去っていった。
「風来燕は?」
「一応、牢屋を守ってるさね」
「上出来だ。だが、こいつらをあそこには運べない。牢獄は四カ所になるだろう」
「仕方あるまいな」
そして俺は、パワードスーツのところに行って、操作パネルを探す。
「ないな」
《これは恐らく、内部のエルフと直結させて動かしています》
でも自動では動くのか?
《モードが切り替わったのでしょう》
俺が頭のところを掴み、首の下を踏みつける。
《身体強化》
そのまま、グッと両手で引っ張るが、だいぶ頑丈に出来ているようだ。
《瞬発龍撃》
龍のパワーが全身に伝わる。
メキョメキョ!
フードの部分がはがれて、気絶した改造エルフの女の顔が出てきた。サイバネティック・ヒューマンよりは頑丈ではないようだ。よく見れば、皮膚のところに黒い金具があり、そこにパイプの先端が刺さっている。
抜けるか?
《分りません。どういう状態か》
すると、改造エルフがモゾりと動いた。
「目が覚めそうだな。メルナ、闇魔法の用意を」
「うん」
そして俺はしゃがみ込み、パンパン!と改造エルフの頬を叩く。アーンの巨大鎧が足で押さえたまま。
「う、うう……」
「起きろ」
薄っすらと目を開けて、改造エルフの焦点が定まって来た。
「う、き、貴様……」
俺は無造作に、自分の鎧の兜を取る。
「目覚めたか……」
「アロガンシア! ヴァナ!」
「無駄だ。行動を停止している」
「破壊したのか!?」
「いや。まだだ」
「この、原始人が! 放せ!」
「お前達はコロニーから落ちてきた。その目的を言え」
「よ、養分風情が」
「養分?」
「貴様らは、来る危機の為に蓄えられた養分なのだ! 放せ!」
なるほど、どうやらこの壊滅的な状況に、パニックを起こしているらしい。それに、何か話しそうな予感はある。
《誘導します》
ああ。
「まあ、そうなのだろうな。だが、家畜が暴れて飼い主が怪我をすることもある」
「……くそ……」
「なぜ焦る? のんびりしたらいいだろう。お前もあのキメラ・マキナも寿命が長いんだろ?」
「なぜ、それを……」
焦った様子の表情をしている。そこでアイドナが、裏をかいた。
「長年の研究で、お前達が来ることを予測し、対策を練っていたのだ。人類はな」
「……信じられん」
「お前達の船も抑えられ、キメラ・マキナが抑えられても信じられないか?」
「……」
改造エルフに、じわりと焦りが伝わり、どうやら何かを話しそうだ。
「来る危機とはなんだ?」
「養分に話したところで理解は出来ん」
「なら、始末する」
「ま、まて! 私を殺せば、起動ができなくなる」
「起動?」
「お前達は知らないのだ。我々が滅びれば、お前達養分も滅ぶ。残った養分を活用するまでは、お前達は生きていられるんだ。だが……奴らが来れば」
「やつら?」
「侵略者だ」
「侵略者?」
「そうだ。侵略者だ」
俺は、ようやくこいつらの真の情報の、鍵を開いたようだった。