第二百九十九話 古代遺跡の防衛
馬と人の残骸が飛び散る草原に、爆薬の火と煙が伸びる。だが、何かの薬品が含まれているからか、その煙が濃く視界が悪くなってきた。その煙の間から馬が飛び出し、なんと壁に激突して爆発しだした。
「馬が……おかしいな」
「興奮剤だ」
見れば馬の目が血走り、よだれを滴らせているようだ。既に正気を失っていて、市壁に激突するまで止まらない。壁にぶつかっては爆発を繰り返し、壁際に馬の残骸が詰み上がっていく。
「とりつけぇぇぇぇぇ!」
騎士が煙から飛び出してきて、ハシゴのようなを持っている。
「火炎瓶だ! ハシゴをかけさせるな!」
次々に上から瓶を放り投げて、ハシゴを持っている奴らが火だるまになる。だが、次々にやってきて、何本ものハシゴがかかり始める。
《これは目くらましです》
目くらまし?
《奴らが侵入する為の偽装です》
見れば、上空の改造エルフのパワードスーツとサイバネティック・ヒューマンの高度が上がっている。俺達の攻撃が当たらないほどの高度で、そこまでも煙が立ち込めていた。
俺はすぐに、オーバースに言う。
「奴らの狙いは! 進入だ! これは注意を引くための攻撃だ!」
「コハク! ここを放棄したら、騎士の侵入を許す!」
「奴らが侵入すれば、中の騎士では拠点を守れない!」
するとオーバースが言う。
「なら、ここは任せろ! コハクと仲間達は、直ぐに防衛対象へと下がれ!」
「任せる!」
俺が叫ぶ。
「風来燕! メルナ! アーン! フィリウス! アラン! ビルスターク! ワイアンヌ!
レイ! ビスト! サムス! ジロン!」
「「「「おう!」」」」
「「「「はい!」」」」
「拠点防衛に移る! ここはオーバースと騎士達に任せる!」
そして俺達は、急いで市壁をおり市街地へと入っていく。すぐ、ビルスタークに言った。
「ビルスターク! メルナとアーンを大型鎧に乗せろ! アランと、風来燕は二機の大型鎧の護衛をして、牢獄の防衛に向かってくれ!」
「わかった!」
「レイたちは俺と、古代遺跡に向かうぞ!」
「「「「は!」」」」
俺達は二手に分かれ、防衛する場所に向かって走る。煙は都市の中にまで流れ込んできており、だいぶ視界が悪くなってきた。
《視界が悪くなります》
奴らの狙いだ。
《市壁で戦闘が始まったようです》
なら?
《すぐ敵が来ます》
俺達が古代遺跡に来ると、オブティスマが驚いている。
「どうした!」
「すぐ敵が来る!」
「なに!」
「防衛体制をとれ」
「もうやっている」
「よし。俺は姿を隠す」
「そうか、分かった!」
「レイ、ビスト、サムス、ジロンは、オブティスマの指揮下に!」
「「「「は!」」」」
そして俺は、遺跡そばの建物に身を隠す。
敵は、どっちにでるか?
《こちらでしょう》
視界が悪くなる中で、戦闘音だけが聞こえて来る。市壁の上に、多くの敵が上がってきたのだ。俺が窓から空を見上げているが、煙が漂っており夜空が見えない。
《かなり遮光の効果が高い煙です》
何のためだ?
《フライングボードと銃撃の光の隠蔽、レーザーと光鞭と炎剣の無効化》
そうか。完全に、俺の対策をしようとしている訳か。
《一点集中してくるつもりでしょう》
来たか。
《大気の流れが変わりました。ですが、位置を確認できません》
煙はその為だったか……。
俺は古代遺跡まで射線の通る位置を取る。レイたちが見えるが、敵が来たことに気が付いていない。
《熱源》
ドゥ! ドゥ! ドゥ!
上空から、ミサイル攻撃をして来たらしい。流石はオブティスマ将軍といったところか、咄嗟に回避行動をとり直撃を避ける。だが騎士達は近距離に着弾し吹き飛ばされた。レイたちは辛うじて、オリハルコンの鎧のおかげで軽傷で済んでいる。
行くか?
《まだです。敵が姿を現してません》
いつだ……。
《恐らく、敵からも確認できていないです》
敵は、どうでるか。
《もう降りて来るでしょう》
そして、アイドナの未来演算通りに煙が動いている。
いた。
《まだです》
俺の射程に降りて来るまでは……か。
《そうです。では身体強化を最大に。魔力の放出チャージをします》
俺は身をかがめ、その時を待つ。
もしアイドナが無ければ、これを想定する事は出来なかっただろう。素粒子AIのおかげで、ここまで生き延びてきた。だが敵もこの世界にはない、高度な文明を持っている。たまたま、こちらのAIが優れていたが、機械技術を持っていない。こちらのアドバンテージは、アイドナのみ。この戦いの勝敗は、ここで決まるだろう。
《確認しました》
煙をかきわけて、敵のフライングボードが降りてきた。アロガンシアとヴァナと改造エルフのパワードスーツが見える。
レイたちを狙っている。
《強化鎧を脅威と判定しているのでしょう》
オブティスマは脅威ではないと。
《はい》
視界が悪いが……サーモグラフが使えん。
《問題ありません。煙の動きで空気の流れが見えます。敵の質量は確認済み》
わかった。
地面に転がっている騎士達を確認したのか、フライングボードがゆっくりと地面に降りた。改造エルフとアロガンシアが武器を構え、ヴァナの髪の毛が動いている。そして、改造エルフが言った。
「戦力が分散したようですね。狙い通りです」
「だな! 青色が四体しかいない」
「全部、市壁に張り付いているんだわ」
「ふふふ。知能の低い生物でも、目くらましくらいにはなるようです」
「違いない」
聴覚を強化した俺の耳には、しっかりと奴らの会話が聞こえて来る。どうやら、俺達の戦力を分散させるために、騎士達を犠牲にして意識を逸らしたようだ。
《間違いなく、オブティスマと青備えの四人、あのミスリルの騎士たちだけでは全滅します》
だろうな。圧倒的に力に差がある。
《はい。油断を誘うにはもう少し》
だが、仲間を傷つけたくない。
《死ななければ、回復はさせられます》
アイドナは、かなりドライな判断をしていた。フラフラのレイたちが、高周波ソードを構えて立ち向かっている。
「きゃあぁぁぁぁぁん!」
ヴァナの超音波が発せられ、仲間達とオブティスマがぐらつく。
またか。
アロガンシアが、ビストに飛びかかり剣で斬りつける。それを剣で辛うじて受けるが、次の瞬間バグン!と爆発をして、ビストがふきとばされて動かなくなった。あの、空気爆発の攻撃だった。
「あはははは。弱い弱い!!」
守るためにオブティスマがビストの前に立ちふさがるが、その前にサムスが立つ。オブティスマの鎧では敵の攻撃を防げないからだ。そして改造エルフが、パワーでレイとジロンを圧倒しており、両の腕から出ている鉄の棒で、ガンガンと殴りつけていた。
《攻撃方法を変えました。貫通をやめて、打撃で内部に衝撃を与える方法に変えてます》
鎧の弱点を見抜いている訳か。
《データ収集中。敵の意識が完全に騎士達に集中》
その瞬間、体中にいきなり力が漲って来た。
《爆裂斧を》
俺は言われるままに構える。
《射線クリア。予測演算終了。超感覚予測。空間歪曲加速》
体がたわむ。
《瞬殺剣閃! 魔力解放!》
ボッ!
次の瞬間、俺は屋敷から出て、テレポートするほどの高速でヴァナを真っ二つにした。ヴァナは自分が斬られた事に気が付いていない、上半身と腰から下が離れ、目を見開いている。そのまま突撃して、アロガンシアに体ごと激突させ、破壊しにそのままぶつける。
めきょめきょめきょめきょ!
「がは!」
アロガンシアは体液を穿いて、目を裏返していた。すぐさまガイドマーカーが光り、改造エルフに線が引かれる。俺は石にぶつかった反動で、そのまま改造エルフに向かい、大回転しながら爆裂斧を振り回して腹にたたきつけた。
ゴグワシャァァ!!
「おぐわぁ!!!」
機械を破損させながら、改造エルフが吹き飛び、遠くで土煙を上げて転がる。
俺がそこで、周りを確認するために停止すると、オブティスマが目を見開いている。
「今……なにがあった?」
「オブティスマ。仲間を連れて、遺跡の中に引っ込んでくれ」
「わかった」
動ける者が、肩を貸して、騎士達は俺の言う事を聞いて奥に引いて行く。
《先にアロガンシアが動きます》
タフだな。
《敵はサイバネティック・ヒューマンです。斧を捨ててスピードアップします》
斧を捨てた次の瞬間、俺はアロガンシアの前に現れて、飛び蹴りを喰らわせていた。墓石を何個も破壊しながら吹き飛んでいく。
《改造エルフが動きます》
ボッ!
ドガガガガガ!
改造エルフのパワードスーツの腕を掴んで、そのまま地面にたたきつけた。火花が散り、パワードスーツが変形する。
《ヴァナの上半身が逃げます》
なに?
見れば、髪の毛を手足のようにして、逃げるところだった。
ボッ! おれはヴァナの目の前に現れる
「どこへ行く?」
「ひっ!」
「俺からは逃げられん」
「な、なによ! おまえは! いったい! なんなのよぉぉぉ!」
「俺達を分散させたのは誤算だったな。むしろ、お前達にとって不利になっただけだ」
「くっそぉぉぉぉぉ!」
俺はヴァナの上半身を見下しながらも、残り二人の状況を確認するのだった。一撃で殺せないのは、今までの敵よりも強い証拠だ。アイドナは全く警戒を解いておらず、俺は次に動いた者に一撃を食らわせる準備をしていた。