表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

296/308

第二百九十五話 舌戦と牽制

 旧文明の動物という言葉に、なぜか俺は苛立ちを覚える。アイドナが、挑発と情報収集を発動した。


「仲間達が旧文明の動物だというなら、お前はなんだ? 見たところ、お前こそが、旧文明の遺産を利用した、不完全な生物だろうが。中途半端な生物とは、お前のことだ」


 俺がそう言い返すと、女はわずかに目を細めた。その表情には侮蔑だけでなく、どこか面白がるような好奇の色が浮かんでいる。


「ふむ。それは興味深い。だが、私は不完全ではない。この肉体は、失われた文明の叡智と、生命の粋を統合し完成に至った姿だ。お前たちのような、取るに足らない存在とは違う」


「取るに足らない? ふざけるなよ」


 《敵、攻撃の気配、高まります》


 アイドナが警告を発した。


「俺の仲間は、それぞれに命を燃やし、懸命に生きている。お前にはそれが理解できるか? 力に溺れて、生命の本質を見失った、哀れな機械人形じゃないか?」


「機械人形……なんと下等な発想」


「なら、なんだというのだ?」


 女は静かに首を振った。


「理解などする必要はない。私たちは、世界を正しく導くために存在している。そのためには、不必要な摩擦や、無意味な生存競争は排除すべきだ。星を管理するためには、人間のような感情に流される下等生物は邪魔でしかない」


「世界を管理だと? 誰がそんな権利をお前に与えた?」


 女の表情がわずかに笑う。……いや歪んだ?


「誰に、与えられたのではない。私たちが、最も優れた種だからだ。弱者が強者に従うのは、この宇宙の摂理だろう? それだけの話。それにお前達では、来たる脅威には抗えん」


 その瞬間だった。パワードスーツの肩部分が開き、光る細いワイヤーが何本も飛び出して、俺の身体を絡め取ろうと高速で迫ってくる。


《情報収集は完了しました。スクリプトを終了します。戦闘に移行します》


 アイドナの声が頭に響く。俺はワイヤーを躱しながら答える。


 そうしよう。


 俺は手を、異形のエルフに伸ばして礫を出した。同時に、女のパワードスーツが、再び大きな音を立ててフードをかぶせた。


 カカカカン!


 アームから射出した礫は、パワードスーツのフードに防がれる。


《性能は低いですが、パワードスーツにも攻撃予測機能があるようです》


 なるほどな。宇宙から降りて来ただけはあるか。


《かつ、あの体。パワードスーツに連結されています》


 サイバネティック・ヒューマンか?


《それとは違うように感じました。だから反応が早いのです》


 演算は?


《終了しています》


 すると、他の四体のパワードスーツが、俺に銃口を向けて打ち込んで来る。


 ズドドドドドドド!


《やはり、オリハルコンの貫通は無理です》


 だが、衝撃までは殺せないようだな。


 俺の視界に、標的に向けてガイドマーカーが記される。既に、俺の武器に対する対策を敵はしていた。


 ならば……。

 

 走りながら、地面に落ちているオリハルコンの高周波ソードを握った。


《空間歪曲加速》


 ブン! と消えて、一体のパワードスーツに飛びついた。高周波をMAXにすると、ガイドマーカーが肩の可動部分に引かれる。


《瞬殺剣線》


 超高速で下から上に、高周波ソードを振り回した。音もせずに、肩の部分を通り過ぎる。それから数秒後に、音を立てて肩から先が落ちた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 切れた部分から、血が噴き出していた。


「なに!」


 異形のエルフが叫ぶ。


 俺はそれを無視した。アロガンシアとヴァナは、戦闘値から考えても時間がかかる。異形のエルフのパワードスーツの性能は段違いだ。だが、あとの四機は今まで遭遇した物と同じ。アイドナの判断は、地道に戦力を削る戦略に移行したのだ。


「そいつを、捕えろ!」


 二体のパワードスーツが俺に突撃して来るが、落ちている爆裂斧を拾い上げて、二体に向けて高スピードで振り切る。


《迅雷撃》


 メキョメキョメキョ!


 そいつらが飛び去るのを確認する前に、もう一機のパワードスーツの腕を切る。


 異形のエルフが叫んだ。


「な、なんだ! なんなのだ! この強さ!」


「こいつは、危険だ!」


 ヴァナが俺に向けて、超音波を発動し、一瞬俺の体がよろける。次の瞬間だった。


 異形のパワードスーツのフライングボードから、ワイヤーが飛び出してアロガンシアとヴァナを絡めとって高度をとる。攻撃の届かない上空に抜けて、ただ俺を見下ろしていた。


「きっ! 貴様! なぜこちらの予測を上回る! どうなっている!」


「一旦、引こう!」


「それが良さそうです」


 ドシュッ! そいつらが飛び去って行った。腕の切れた二体も、中のエルフの生死は分らないが、自動で走り出し森の中に消えて行った。爆裂斧で破壊した二機は、行動不能になっており、既に内部のエルフが死んでいるのが分かる。エックス線透過でみると、心臓が止まっている。


 森の中に反応のあった騎士達も、森の奥へと引っ込んで行った。


「要塞が、動き出した」


 ゴウンゴウンと音を立てて、巨大移動要塞が奥へと引っ込んで行く。


《戦略的退却をしたようです》


 また来るだろうな。


《こちらも情報を渡してしまいましたが、多くの情報を得る事が出来ました》


 俺は青備えが待機しているところに行って、皆に伝えた。


「敵は退却した」


「退却……」


「ああ」


 すると青備えから歓声があがる。


「「「「「「オオオオオオオオ!!」」」」」」


 オーバースが言う。


「助かった……コハクのおかげだ」


「いや、みなが機能したからだ。よく守ってくれた」


「ああコハク。それに我々も、敵の強さを良く知る事が出来た。我々にとって、大きな一歩だ」


「それも、そうだな」


 俺はメルナに回復魔法を頼み、風来燕とレイたちに、倒れた者達の治癒をするように指示を出す。敵はまた体制を立て直してやって来るだろう。


《敵は、地上を完全に制圧するつもりですね》


 そのようだ。


《生存率を上げるには、撃退する必要があります》


 だな。


 するとアイドナが、ガイドマーカーを光らせて、落下しているフライングボードを光らせた。


 あれがどうした?


《未知の技術です。回収してください》


 わかった。


「アーン! ついて来てくれ!」


 巨大パワードスーツを連れて、俺はフライングボードを回収していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ