第二百九十四話 新たな敵の出現
森の奥から近寄って来た要塞の大きさは、今までのものの二倍以上ある。影を見る限りでは、今までの半円状の形とは違うようだ。俺がサイバネティック・ヒューマンを警戒していると、要塞のあちこちに光が灯る。
「あれは……」
オーバースが警戒し、騎士達もじりじりと下がる。
《ハッチが開いています》
なんだ?
《パワードスーツが出てきました》
まずいな。
サイバネティック・ヒューマンの処理をする前に、更に敵がやって来てしまった。
《飛行してます》
空中を舞う板のような物に、パワードスーツが寝そべっている。それがハッチから出て来て、こちらに向かって飛んで来たのだった。
「オーバース。全員を固めて下がれ」
「わかった!」
動ける青備え達が、倒れている青備えを引きずって後方に下がっていく。
「みんなも固まれ!」
メルナとアーンの、大型パワードスーツが青備え達の所に来て、盾になるように塞ぐ。パワードスーツの上から、ビルスタークが聞いて来た。
「とんでもないのがいるな?」
だがそれには、オーバースがそれに答えた。
「ああ、ビル。飛んでもねえ」
「オーバース様でも?」
「手も足も出ない」
そこで俺が言う。
「あれは化物だ。龍の力に剣聖以上の技術力があるようなものだ」
「それほどか」
フライングボードに載っている、パワードスーツが五機上空で待機していた。
「来たか」
「ええ」
アロガンシアとヴァナが会話を始めた。しかも一機は、今までに見た事の無い形状をしている。それがアロガンシアとヴァナの真ん中に降りて、話しかけてきた。
「まだ終わってないのですか?」
「イレギュラーがあった」
「イレギュラー?」
そしてアロガンシアが、こちらを指さして言う。
「あの鎧。何かがおかしい」
「鎧?」
そして、その形状の違うパワードスーツが手を上げた。
俺が叫ぶ。
「全員、身を守れ!」
上空の四機のパワードスーツが、こちらに向かって銃撃をして来る。
カカカカカカン!
オリハルコンの強化鎧が、敵の弾丸を弾き飛ばし貫通する事は無かった。異形のパワードスーツが、アロガンシアに効いている。
「どうなっています?」
「強さは大したことはないが、あのスーツが貫けん」
するとそのパワードスーツが、じっとこちらを見て言う。
「未知の鉱物ですか」
その瞬間、アイドナが俺に指示を出して来た。
《前に出てください》
わかった。
《光鞭を装備。身体強化》
すると、空を飛んでいる四機のフライングボードの一部が開いて、そこから筒状の何かが出て来る。
《熱源。ミサイルです。味方に着弾する前に迎撃を》
ミサイルの後方から火が噴き出し、飛びかけたところで俺は二本のナイフを取り出して、同時に投擲する。それはアイドナのガイドマーカーに沿って、一気に飛んで行った。
カカン!
ドン! ドン!
いきなり近くでミサイルが爆発し、二機がバランスを崩して吹き飛ぶ。だがもう二発が、仲間達に向かって飛んだ。
《空間歪曲加速》
飛ぶミサイルに飛びつき、光鞭で叩き落とす。すると、異形のパワードスーツの奴が言う。
「あれは、イラ……ですね」
「そう……」
着地した俺を睨みつけていた。するとパワードスーツの奴がいう。
「まさか……消息不明な理由は」
「多分、そうだ」
俺を睨みつけている、異形のパワードスーツの奴が言う。
「貴様……それをどこで見つけた?」
だが俺は答えない。
「……何をした?」
俺がミサイルを落としたことを言っているらしいが、もちろんそれにも答えない。
《メルナとフィラミウスの魔法でかく乱し、あのパワードスーツを急襲してみましょう》
「氷魔法と火炎だ!」
それだけの合図で、メルナが氷魔法を飛ばし空中で、フィラミウスがその氷に炎をあてる。
バフゥ!!!
空中で蒸気爆発を起こし、敵の眼前に蒸気煙が出て真白になる。
《空間歪曲加速》
ドン! と、そのパワードスーツの前に出て、炎剣を振りぬいてみる。
ゴッ! 炎が吐き出され、パワードスーツと二体のサイバネティック・ヒューマンを火が包み込んだ。だが次の瞬間、バシュ―! とパワードスーツから白い泡のような物が噴出される。それとほぼ同時に、俺の前にシュッ! と剣が突き出される。アロガンシアの剣だった。
だが既に、アイドナの予測演算が終わっており、避けて次の攻撃を繰り出していた。カウンター攻撃でレーザー剣を差し出すが、また中和されるように消える。
《阻害されてます》
すると至近距離から、ヴァナがニードルを飛ばして来た。だが、オリハルコンスーツを貫く事は出来ない。次の瞬間、俺の至近距離に銃口が出て来たが、予測演算で回避する。
シュッ!
光鞭を伸ばし、異形のパワードスーツに括り付け、そのまま先に向かって突進する。手ごたえはなく、するりと光鞭が解けてしまった。
《こちらの武器は、元々敵の武器です。どうやら対策がなされています》
想定済みか。
《敵が予測している可能性があります。オリハルコン武器を使用してください》
すると落ちている武器を、ガイドマーカーが赤く光らせる。青備え達が使っていたものだが、吹き飛ばされて落としたものだ。 着地してそちらに飛ぼうとした時、アラートがなって回避する。
ズン! とそこに、フライングボードが落ちてきた。どうやら、それごと俺にぶつけて来たのだろう。地面に突き刺さったボードには質量があり、直撃を受けたら中まで衝撃が伝わっていたはずだ。
直ぐにその場を離れ、距離をとって立つと、驚愕の表情でサイバネティック・ヒューマンが見ている。
「あいつには、何故攻撃が当たらないんだ……」
「おかしいわ」
すると異形のパワードスーツの奴が、俺に声をかけてきた。
「我々の一族か?」
いってる意味が分からん。
《多分同種の生物だと思われているかと》
そんな訳がない。俺は、全く違う宇宙から飛ばされてきた。こいつらと同じわけはない。
「おまえらなど知らん」
「なら、何故、イラ、ルクステリア、アヴァリを使っている?」
「武器の事か?」
「管理者でもないのに使えるわけがない」
「何の事か分からん」
「……」
そいつがスッと手を上げると、飛んでいた最後の一機と、飛ばされたパワードスーツが集まって来る。
なんだ?
《時間稼ぎの類ではなさそうです》
敵の動きが止まり、その偉業のパワードスーツの奴が、プシューっ! と音を立てた。俺は念のため、礫を噴射する準備をした。だが、そのパワードスーツの奴の、頭の部分が上に上がって後ろにずれる。
なぜ……スーツを脱いだ?
下から美しい顔が露われ、その頭部分にパワードスーツから出た管が何本も繋がっている。
《一部は機械です》
アンドロイドか?
《いえ。ほぼ生体です》
そして、そいつが話しかけてくる。
「なぜ、お前は、ここで戦っている?」
声を聞いてみると、女のような声だった。
「仲間を守るためだ」
「仲間? あの、下等生物がか?」
「下等生物ではない」
「キメラシステムも使えない、機械すら持ち得ていない、旧文明の動物がか?」
なぜか、そいつが話をしている間は、他の奴らが動かなかった。アイドナのガイドでも、攻撃する気配は関知していない。
《直接情報を撮ります、トークスクリプトを展開します》
そして俺は、コイツから情報を引き出そうと思うのだった。