第二百九十二話 ゴルドス国師団を撃退する
俺達の出現に、ゴルドスの兵達がパニックになり、抵抗する者、散り散りに逃げ出す者が出てきた。
「全員! 殲滅速度を上げろ!」
あまり悠長にやってはいられない。相手がどんなにパニックになっても、まだ数がいる。
「うわああああ! バケモノ! ゴーレムだあ!」
「あれを仕留めろ! 魔導士!」
そして魔法を撃てば、離れた所からベントゥラが銃で仕留める。
「魔導士があああああ」
「一体何なんだ!」
「とりつけ! とりついて仕留めろ!」
人海戦術でメルナの大型パワードスーツに飛びつこうとするが、その背に載っているビルスタークが高周波ブレードで切り裂いた。
「その、剣士を止めろ!!」
そう言って、かかって来そうになるが、レイ、ビストが露払いをする。
「お館様!」
射線が開いたので、俺は炎剣を振るう。
ボアアアアア! と、五十人が焼けこげる。
そして俺が叫んだ。
「メルナ! アーン! 武器を爆裂斧に変えろ!」
「うん」
「わかったぺ!」
そして二人が巨大斧に、兵器をシフトする。
「回せ!」
重機ロボットが、グルグルと兵士達を潰していく。
「ボルト、ガロロ! メルナの後ろを守れ!」
「「了解!」」
「サムス! ジロン! アーンの後ろを守れ!」
「「は!」」
重機ロボットの爆裂斧の威力はすさまじく、一気に殲滅速度が上がる。騎士達はちぎれ飛び、あっという間に血の海になった。
《恐らくあそこが司令部です》
後方に神輿のような物があり、そこに構えて立っている奴がいた。それに対して、アイドナがガイドマーカーを光らせて、最優先対象として表示した。
「道を示す!」
炎剣で真っすぐに切りつけて、道を開けた。
ゴウンゴウンと音を立てて、メルナとアーンの巨大パワードスーツが進み道が出来ていく。
「止めろ! それを止めろぉぉぉ!」
「「「「うおおおおおおお」」」」
寄ってくるものから、ミンチになった。粉々に砕け散り、肉塊になっていく。
どうだ?
《まだ魔石のエネルギーがあります。そのおかげで、誰も疲労していません》
魔石の残量は?
《六十三パーセント》
まだ千人程度しか倒していない。
《四十パーセントを下回った段階で、撤退指示を》
わかった。
そしてアームカバーから、ワイアンヌの発光筒を取り出して、上空に向かって撃つ。
ピューン!
すると少しして、上空から数本の火炎瓶がまき散らされた。兵士がそちらに気をとられているうちに、更に敵の中心に向かって押し切っていく。
見えた。
射線が通ると、アイドナが身体強化を施した。
《空間歪曲加速》
ブン! 次の瞬間。俺は敵の司令部にいた。だが、周りはスローモーションで俺には気づいていない。レーザー剣に切り替えて、周りの奴の首を次々に飛ばしていった。
ドサドサと倒れ始めて、ようやく周りの騎士達がこちらを向く。
「指令殿が! 指令殿がやられた!」
俺はそいつの首を飛ばす。周りに、恐怖が伝わっていき一気に俺から離れていった。
「一人孤立してる! 討て討て討て!!!」
俺はすぐにジェット斧に切り替える。ブンブンとジェット斧を振り回せば、何十人もがひしゃげて飛び散っていく。
「ぐげ!」
「うぎゃ!」
「おごぉ!」
そして俺は、一気に巨大パワードスーツの場所まで戻った。
魔石、残量!
《四十八パーセント》
指令部はやったが、どうする。
《まだ、ワイアンヌの準備が》
わかった。
俺達は、しばらくその場で暴れまくった。
《敵の損害、二千八百名を超えました》
まだ……七千もいるのか。
《魔石残量三十九パーセント》
よし!
「全員! 引け!」
「「おう!」」
「うん!」
「わかったっぺ!」
「「「「は!」」」」
俺が殿を務め、敵の群れを二人の大型パワードスーツが潰して進む。敵が群がって入るが、少しずつ勢いも落ちてきた。後尾の騎士を突破したので、俺達は一気に草原に向かって駆け出す。
《油のにおいです。準備は出来ているようです》
よし。
追いかけて来る、敵騎士団の方に向かって炎剣を振るった。ゴウ! と火の柱が上がったと思ったら、大地が一気に燃え広がっていった。ワイアンヌが医療ロボットで、炎龍の油を草原にまき散らしたのだ。敵の兵団が、一気に炎に包まれていく。
「うがあああ」
「熱い! 熱いぃぃぃ!」
炎に包まれてのたうち回り始め、俺達はワイアンヌ達がいる荷馬車に辿り着く。
「全員! 魔石を換装!」
荷馬車から魔石を取り出し、空になった魔石を捨て、鎧の中にはめ込んで言った。それによってまた、魔石が百パーセントになる。
「炎から出てきた敵を、潰していけ!」
皆は俺の指示に従い、燃え盛る草原の前に待って、飛び出してくる燃えた騎士達を潰し始めた。次々に飛び出してくるが、そいつらはもう陣形をとってはいなかった。熱さから逃れるために、次々に飛び出してくる。
「敵が炎を迂回して来る! メルナは風来燕と右翼を! アーンはサムズとジロンを連れて左翼を! レイとビストで、中を飛び出してくる敵を討て! 敵は既に統率を失っている!」
「「「「おう!」」」」
「「「「は!」」」」
モウモウと立ち込める煙の中、俺はサーモグラフィとエックス線を駆使して敵を全て確認していく。
《整いました》
全て作戦通りだった。敵の統率を狂わせる作業。
《暗蜘蛛隠発動。高起動殺戮行動に移ってください》
よし。
《疾風迅雷、剛龍降臨、瞬殺剣線》
ブン! 俺の体が膨れ上がる。
《魔力、解放》
バシュッ!
俺は炎の中に突っ込み、乱れている敵の中に出現する。円を描くように炎剣を振るうと、周りが炎上に焼け死んだ。
《行動を継続してください》
わかった。
同じ様に転々と場所を移しながら、炎剣を回していく。上空から見れば、次々に火の輪が出来ているように見えるだろう。だがそれは、敵が大勢焼け死んでいる証拠だった。
《もはや、敵は、軍隊としての体裁を保っていません。あなた一人で三千を焼きました》
まだ、五千近くいる。撤退するまでやるしかない。
《はい》
それから一時間ほど暴れた時、いよいよ敵が散り散りに逃げ出した。そこで俺は、ワイアンヌの合図の筒を打ち上げる。
ビューーーー!
黄色。それは、元に戻る合図だった。俺達がワイアンヌのところに戻ると、皆も一目散に戻った。
「戻りました!」
「戻ったっぺ!」
「来たぜ!」
燻ぶる草原には、散り散りに逃げる兵士達。
「まだ、二千はいる」
だがそれを見て、アランが言った。
「コハク。どんな命知らずがいるか分からんが、ここまでやられたら、もう戦う気は失せるさ」
倒れた兵士達を見て、フィリウスが言う。
「殺しまくったな。こんな戦は見たことが無い……」
よく見れば、皆の青備えが血で真っ黒になっている。
「フィラミウス! 血を洗い流してくれ」
「はい」
フィラミウスは水魔法で、返り血を流していく。しばらく敵を見ていたが、既に戦意を喪失しており、再び向かって来るものはいなそうだった。
「王都に戻ろう」
皆が頷く。
そして俺達は、荷馬車を引いて王都に向かって歩き出した。王都が見えてくると、どうやら西側で戦いが始まっている。火の手があがり、防衛しているようだ。
「間に合った。まだ王都に侵入されていないか?」
皆が火の手の方向を見た。
「急ぐぞ」
「「「「おう!」」」」
「「「「は!」」」」
そして俺達は、一万の兵を撃退し、防衛している仲間達を救うために走り始めるのだった。