第二百九十一話 敵の裏を突いた奇襲攻撃
偵察蜘蛛魔獣を追い払い、俺達は敵の襲撃に備えていた。既に王都周囲には、俺の青備え部隊が出撃していて、状況を伝えて来るのを待っている状態だ。夜になっても、王都は眠らず臨戦態勢をとっている。
そして……深夜。
アイドナが俺に告げる。
《来ました》
そこで俺が、オーバースに告げる。
「動いたようだ」
「わかるのか?」
そこに轟く騎士の声。
「伝令! 敵影を確認!」
「なるほどな……」
それは北門からで、俺達の想定とは少し違った。オーバースが一目散に駆けつけて、状況確認をする。
「どこからだ?」
「それが……北の森林地帯から」
「なに? 敵の数は」
「約、一万はいるかと」
「なん……だと。一万が森からだと?」
「鎧から、ゴルドス国の兵だと思われます」
オーバースが俺を見る。そこで俺が頷いて答える。
「パルダーシュの占領兵が、山岳地帯を超えて来たんだ」
「そんな無謀な、魔獣もいるんだぞ?」
「もし、魔獣を使って露払いに使えるなら? 人間の進路を作るために」
「無いとは言えんがな。お前達が見た偵察が魔獣なら、あり得るだろうな」
だが、その話をしている時だった。違う方角からも伝令が入る。
「伝令! 西の森の奥に、騎士団!」
オーバースは目を丸くする。
「なんだと!」
「その数三千! 西の貴族達の兵です。戻ってきました」
「なんと……そっちも街道を使わずにかよ」
「そのようだな。恐らくは、こちらの発見を遅らせる為だろう」
《既に、こちらのやる事は決まっています。北の敵も、未来予測演算で想定済みです》
ゴルドス国の兵も想定済みだったな。
《おそらくは、それを間に合わせるための、日程調整だと思われます》
そういうことか。
《おかげでこちらは、充分な準備ができました》
そして、オーバースが苦々しい顔をして言う。
「こちらの騎士で、まともに戦えるのは千数百。十三倍もの敵とどう戦うか?」
「オーバース。やる事は決まっている。王都の防衛に王都の全騎士を置く」
「な……んだと」
「オブティスマ騎士団をを古代都市防衛に、クルエル騎士団をガラバダの防衛に。そして元のトレランの騎士団は市民の護衛に回せ。
「それでどうするつもりだ?」
「オーバースと王都の青備えの精鋭五人、そして俺が連れてきた七十の青備えで、王都の回りを守っていてくれないか」
「うって出ないのか?」
「一方方向からの敵なら青備えで出た所だが、二方向から来ているからな。作戦変更だ」
「で、どうする」
俺は、フィリウス達、風来燕、レイ達、アーン、メルナ、ワイアンヌを見る。そして俺は、その仲間達に向かって言った。
「まず。この、俺とこの十四人で一万を迎え撃つ」
「「「「「「えっ!」」」」」」
それにはオーバースだけじゃなく、全員が驚いた。驚かなかったのはアーンとメルナだけ。
「それは……いささか無茶な話では?」
「いや。大丈夫だ。問題は西から来た三千だ」
「三千を先にやったらいいのでは?」
「いや……未知の敵の本隊は、間違いなくそちらに居る。そいつらは恐らく、一万の兵にこちらの兵のほとんどを差し向けると思っているだろう。だから、全兵を残す」
「わかった。十五人で大丈夫なのか?」
「準備は出来ている」
俺が答えると、オーバースは振り向いて騎士達にその旨を伝えた。
「「「「「「「おう!」」」」」」
「じゃあ、オーバース。青の騎士の指揮は頼んだ」
「任せておけ」
頼もしい。流石は武神と呼ばれた男である。それには、自信のようなものが感じられた。
「よし! 俺達はまず北の兵を迎え撃つ! 行くぞ!」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
これは時間との勝負である。だが既にアイドナの予測演算通りに動き始めている。俺達が北に向かい、門が開け放たれた。
「では、王都の防衛を頼んだぞ!」
「それはこちらの台詞だ。一万の兵を十五で迎え撃つなど、無謀の極みのようだが」
「いや、問題ない」
俺達は荷馬車を一台をひいて、敵のいる場所に向かって進軍していく。草原で馬車の足が取られるが、それを押しながらも北へと進んだ。
「ビルスターク! アラン! メルナとアーンを頼むぞ」
「任せろ」
「わかってるさ」
俺は重機ロボットとエルフのアーマーを改造し、オリハルコンの鎧を組み込んだ大型のパワードスーツを作ったのである。それが二機、俺達の横を歩いている。
重機ロボットを完全にオリハルコン装甲で組み直し、通常の高周波ソードと爆裂斧よりも大きな兵器を搭載した。エルフパワードスーツの中に、軽量化したオリハルコン鎧を着込んだメルナとアーンがいる。それを、改造した重機ロボットの中に搭載したのである。
《重機ロボットが破壊されても、パワードスーツが動きます。それが壊されても、オリハルコンスーツが体を守ります》
更に、ビルスタークとアランがいるからな。
《はい》
その大型パワードスーツの頭の後ろには、座席が設けられており、そこにビルスタークとアランが座っている。まるで、二人が操縦しているようだが、彼らはまとわりつく兵を除去する為の露払いである。
風来燕はいつもの通りだが、ベントゥラには銃を持たせている。さらに魔石の補充が必要になったら、フィリウスが飛行ドローンを使って運ぶ事になっている。飛行ドローンには他の重要な役割があった。
ワイアンヌは後方で、医療ドローンを使ってある事をやる。
「見えて来たな」
ベントゥラが銃を覗き込んで言い、俺が聞く。
「こっちを見てるか?」
「見てねえな。たぶん、軍隊が出てくんのを見張ってんだろ」
「よし」
ワイアンヌとフィリウスとフィラミウスを残し、二機と二人と八人の俺達が草むらに隠れて進んだ。
ブンッ。
俺達の頭上を、フィリウスの操る飛行ドローンが飛んで行く。それは敵軍の後方に飛んでいき、上空からワイアンヌ特製の火炎瓶を落とした。
ボワアアアア! と敵軍の後方に火柱が上がる。
「陣形が乱れた! 突撃!」
敵は恐らく、後方に意識が向いている。
「ベントゥラ。魔導士を狙え」
「おう」
ドン!
ベントゥラの銃で、魔導士の頭が爆ぜた。それを見て、周りがまた騒ぎ始める。
「魔導士はあそこだ」
「「「「は!」」」」
「「おう!」」
レイ、ビスト、サムス、ジロンの四人が左翼、ボルトとガロロが右翼。そして俺の後ろには、オリハルコンの巨大パワードスーツが二機。
「メルナ! アーン! 俺達が斬り込んだら、散り散りになった奴らを好き勝手に潰せ!」
「わかったっぺ!」
「うん!」
軽くパニックになっている敵兵団の、後ろから俺達が飛びかかった。まずは、俺の炎の剣で数十人を焼いてなぎ倒す。
「うわああああ! 敵だアアアア!」
「陣形を! 陣形を整え……」
指示を出そうとした指揮官を、ボルトがつめて首を斬る。それに群がりそうな兵士を、ガロロの爆裂斧が薙ぎ払った。
「ぐああああああ」
「止めろ!」
そちらに集中しようとしても、レイたち四人が高周波ブレードでフルプレートの上からバターのように斬り裂いて行く。散り散りになったところに、アーンとメルナの巨大パワードスーツが現れ、巨大爆裂斧で吹き飛ばし始めた。そして十メートル上空に、敵の兵士達が舞い上がり始めた。既にぐちゃぐちゃになっており、死体がボトボトと落ちて来る。
ブーン。
そしてまた、フィリウスの飛行ドローンが飛んできて、火炎びんを落とす。
「魔法攻撃! どこからだ!」
「魔導士隊! 支援を!」
魔導士が杖を構えた時だった。
ボン! ボン! ボン!
と三人が頭に穴をあけて倒れた。後方から、ベントゥラが銃で仕留めたのだ。
《良い調子です。全員が魔石と強化鎧のおかげで、ほとんど体力を使っていません》
メルナとアーンは?
《生体動力のおかげで、皆より体力を消耗してません》
よし、どこまで削れるか。
俺は先に進み、炎の剣を振るって焼き払う。黒焦げになる人間達の後ろから、必死な顔で飛び込んでくる騎士達に向けて、光鞭をふるい十人をひとまとめにした。
ドズン!
ベチャ!
まとまった十人はアーンの巨大パワードスーツの、爆裂斧に潰されてしまった。
《阿吽の呼吸が出来てます》
アーンは、ずっと俺について研究しているからな。もしかしたら、やってほしいことが分かっているのかもしれん。
《メルナもよくやっています》
マージの指示だ。
戦闘した事の無いメルナはマージが指示をして、どう動けばいいのかを教えられていた。レイ達が蹴散らした騎士達の後ろから、騎士が群がらないように蹴散らしている。五分も経たずに三百の兵士が死んだ。そして俺達は、更にに連携を深めていく。最初はぶっつけ本番だったが、お互いに何をすればいいのかが分かり始めたのだ。
《効率が上がって来ました。狙い通りです》
戦術通りに動いている訳だな。
そして巨大な重機ロボットは狙いやすいらしく、槍や魔法が飛ぶがオリハルコンの強化鎧は貫けない。それに投石や槍は、全てビルスタークとアランが叩き落としていた。
《では、連携の確認も出来たので後は大丈夫でしょう。あなたの身体強化を施します》
やってくれ。
《瞬発龍撃、無意識回避、時間知覚拡張、空間歪曲加速、幻影剣舞》
レーザー剣を片手に、アイドナが殺す優先をガイドマーカーで示し超高速の虐殺が始まったのだった。