第二百八十九話 新装備の起動と試運転
二基の要塞を破壊、二基を行動不能にした事は、既に敵に知られている可能性がある。だが敵が直ぐに動き出さないのは、こちらの情報が少ないからだと推測された。だとすれば、今までの未知の敵よりも手ごわい。一切の油断をしていない可能性があるからだ。
その為、俺達はニ日集中して、急ピッチで新型兵器を組み上げた。
「よし。組み上がったな」
「だっぺ」
「凄い!」
「すばらしいです」
俺とアーンとメルナ、ワイアンヌが鍛冶屋に籠って作ったものだ。
「これで、敵の予測の範囲を超えてくるはずだ」
「だといいっぺ」
「だね!」
そこでマージが言う。
「本当に、この二人でいいのかねぇ」
そこで俺が答える。
「メルナとアーンは小さいからいいんだ。そうでなければ、これは無理だった話だ」
「なるほどねえ」
「どこか広い場所で試験したいところだが、情報は漏らしたくない」
「いいっぺ! 何とかなるっぺ」
「わたしも何とかする!」
「まあ、その為の、ビルスタークとアランだからな。取りつかれないように、頑張ってもらうしかない」
「わかったっぺ」
「うん」
作業が終わった俺達が、都市を歩き始めると、やたらと騎士達の目がこちらを向く。
「め、目立ってるっぺ」
「大丈夫だ」
「そうだっぺか?」
「そうだ」
俺達が屯所に行くと、フィリウスがビルスタークとアランを連れて来る。ビルスタークが俺に言った。
「出来たのか?」
「ああ。王都外での派手な訓練は出来ないが、慣れるまで一緒に頼む」
「分かっている。取りつかれないようにすればいいんだな」
「一応、座席も用意してある」
「至れり尽くせりだ」
「座席は一発で外れるようになっているから、起動的には問題ない」
「武器も運べるという訳だ」
「そのとおりだ」
するとそこで、アランが俺に聞いて来る。
「オーバース様の方が良かったんじゃないのか?」
「いや。オーバースにはやってもらう事がある」
「そうか」
「じゃあ。アーン、メルナ頼むぞ」
「わかったっぺ!」
「うん」
「ワイアンヌは補助を頼む」
「はい」
フィリウスに対し俺が言う。
「次はフィリウスだ」
「わかった」
俺はワイアンヌが持ってきた、飛行ドローンをフィリウスに見せる。
「これは、ゴーレムか?」
「そうだ。これに対し、音声で指示を出す事が出来るようにした。これにフィリウスの声を覚えさせる」
「私が……使役するのか?」
「そうだ」
「出来るものなのか? 俺はテイマーではないぞ」
「問題ない」
それから、アイドナがプログラミングし直した、飛行ドローンを起動する。
「では、このドローンにフィリウスの声を覚えさせる。何でもいいから話しかけてくれ」
「わかった。何でもいいのか?」
「ああ」
「ならば、故郷の歌でも歌おう」
「そうしてくれ」
フィリウスが歌いだす。その歌声はとても良く、飛行ドローンがそれを覚えていく。記憶したあとも、歌の途中だったので、なぜか俺は最後まで聞いた。おかしな感覚だが、心が休まるような気がする。
「いい歌だ」
「母親が歌ってくれた子守歌だよ」
「そうか、いい歌だな」
「コハクは子守唄を覚えていないのか?」
もちろん、覚えてなどいない。それに俺は、システムから生まれているから、母親という者はいない。物心ついた時から、アイドナが体の中に注入されていた。
「子守歌か……」
「なんだ……もしこの先、お前とヴェルの子供が生まれたら、歌って聞かせてやればいい。ヴェルティカも同じ歌を知っている」
「そうか、戦いが終わったら教えてもらうとしよう」
「ふふっ。そうだな、その時は私はおじになるわけだ」
「フィリウスも、伴侶を持つのだろう?」
「どうだろうな。こんな情勢だから、どれだけ貴族が生き残るか」
「貴族で無ければダメなのか?」
「……もはや爵位など、どうでもいいのかもしれんがなあ」
「まあ、詳しいことは分からんが……」
すると、フィリウスが笑いながら言う。
「そんな事はどうでもいい。それで、これはどうなんだ?」
「それじゃあ、コマンドと言う物を登録していく。俺が言ったように言ってくれ」
「おう」
そして飛行ドローンを前に、フィリウスに俺が言う。
「上昇」
「上昇」
するとフィリウスの声に反応して、プロペラが稼働して、ヒュンっ! と一瞬にして上空に上がる。
「止まれ」
「止まれ」
すると飛行ドローンは上空で止まり、じっと対空している。
「前進」
「前進」
ドローンが前に動き出した。それからしばらく、単純なコマンドを操作し続けた。
「よし! 覚えたぞ」
「これでいいのか?」
「もう少し難しい事を言ってもいい」
「じゃあ、市壁を回って戻ってこい」
ビューン! と音を立てて、ドローンが飛んでいく。すると、まもなく戻ってきた。かなりのスピードが出るらしかった。
「も、もう一周して来たのか? 王都を?」
「そう言う事だ。そして、ワイアンヌ、あれを頼む」
「はい」
「魔道具を貸してくれ」
ワイアンヌが背負子から、魔道具を取り出した。そこにはピンのような物があり、小さなサイコロのような物と対になって出て来る。俺はサイコロ状の物を受け取り、飛行ドローンの加工部分に取り付ける。そして、ワイアンヌがフィリウスの服の胸元にピンを取り付けた。
「これは?」
ワイアンヌが答える。
「一方方向のみでありますが、フィリウス様の声を伝えます」
「話せばいいのか?」
「そうです」
「飛べ!」
すると飛行ドローンが飛んだ。フィリウスが面白そうに、操作してドローンは自由自在に飛び回った。戻ってこいというと、素直に目の前に戻ってきた。
そして俺が言う。
「これは、フィリウスの声にしか反応しない。ビルスタークとアランが、これからあたらしい戦術を試す事になっている。それと連携して戦えるようにしたいんだ」
「やってみよう。私がテイマーになるとはな」
「これが、王都中に火をつけ回った犯人だ。そういう使い方も出来るという事だ」
「非道な……」
《やはりフィリウスで良かったです。モラルが高いので、悪しき使い方はしないでしょう》
そうみたいだな。
俺は、アーンとメルナ、ビルスタークとアランが相談をしているとこに、フィリウスを連れて行った。フィリウスの後ろには、飛んだ飛行ドローンが追いかけてきている。
「お館様」
「私はテイマーになってしまった。この空飛ぶゴーレムを使って、一緒に戦う事になる」
「「は!」」
そして俺はワイアンヌに言う。
「ワイアンヌの声は、既に医療ゴーレムに記憶させている。これを、使いこなせるようにしてくれ」
「わかりました」
間違いなくこれで、敵の想定を超えるはずだ。
《はい。さらに、こちらには強化鎧の軍勢が七十いますので、以前よりも勝率は上がっています》
敵が沈黙している間に、どれだけやれるかだな。
《あとは風来燕です》
ああ。
そして俺は、風来燕の下へと移動するのだった。