第二百八十八話 リンセコートからの貴重な支援
俺が王都に滞在し警戒をはじめて数日、異変は一度だけ。大型の魔獣が、警報を鳴らしただけだった。青備え達だけで速やかに対処し、それは住民たちの食肉として回収される。それ以外にも食料の供給が怠っているため、いつでも動ける俺自身が単独で魔獣を狩りに行く事にしていた。恐らくその為に、魔獣が警報を鳴らしたのは一回だけになったようだ。オーバースが苦笑いして言う。
「本来は司令官が、魔獣狩りなどしないのだがな」
「いや、機動力も戦力も一番高い。俺がやるべきだ」
「そうか……民の為にすまんな。そして、敵はまだこないか」
「そうだな」
「どうなってると思う?」
「こちらを占領して勝った、という偽の情報が入れば直ぐに本命がやって来るだろう。全兵士が戻ってきたという事を知っても、自分達が行こうとなるだろうがな」
「だが、来ないか」
「敵が、異常値を感じたという事だ。高い知能があり、警戒している」
「何故そう思う?」
「以前に、こちらで洗脳した騎士を送り返したことがある。恐らく、それと合わせて異常値を感知し、どう動くべきかを検討しているのかもしれない」
「なるほど」
王城の会議室には、俺とオーバース、クルエルとオブティスマがいる。何故か動かない敵についての、こちら側の対応を考えていたのだった。
クルエルが言う。
「いつまでも、流通を途絶えさせておくわけにはいかない。パルダーシュの状況も気になるところだしな。いずれにせよ、市民を生かすための物資が枯渇するぞ」
そこで俺が言った。
「こことリンセコートだけでも繋ぐか。北門からのルートで草原を通り、リンセコートから食料などの物資を運び込む。パルダーシュにまで広げると範囲が広すぎて、防衛ラインが拡大しすぎるからな。途中のシュトローマン伯爵領に、ある程度の人間を常駐させておくのも必要かもしれん」
オブティスマが言う。
「それは確実に行わないといけないだろう。その時期をいつにするかが問題だ」
クルエルも頷く。
「備蓄はあるが、そう多くはないぞ」
それを聞いて俺が言う。
「隊を編成して向かわせる」
「そうすべきだろう」
そこに騎士がやってきて、ノックをする。
「失礼します!」
「入れ」
「リンセコートへの使者が帰ってまいりました」
「すぐ行く」
メルナと風来燕、フィリウス達を送り出していたが戻ってきたらしい。俺達が城を出て外に行くと、想定外の事が起きた。
「戻った!」
「これは……」
それは長い馬車列だった。そしてフィリウスが俺に言う。
「ヴェルティカが、持って行けと言うから持って来た」
「そうだったのか」
馬車に積み込んであるのは、野菜の山と干し芋と酒だった。それにミスリルの鎧と、俺が頼んでいた物資が積みこんであった。
「これをヴェルティカが?」
「そうだ」
それを見て将軍達は、俺の肩を叩いて笑う。
「出来た嫁さんだな!」
「いい、奥さんをもらったようだ」
「素晴らしい伴侶だ」
するとちょっと不服そうにフィリウスが言う。
「ええ。それは私の妹ですから」
「ふふ。先代の教えがよかったか」
「やはり、育ちがいい」
「……」
そして俺が言う。
「直ぐに荷下ろしをして、冷暗保管庫に運んでくれ」
「そうしよう」
騎士達がやってきて物資を運び始めた。
「オーバース。更にミスリルの鎧が届いた。これを兵士達に配ってくれ」
「わかった」
メルナと風来燕が、ガバッと幌を外すと、あのエルフたちが着ていたパワードスーツが二機出て来る。それと、新しい形のオリハルコンの部品だ。
「持って来たよ」
「よし。皆、これを鍛冶屋に運び込んでいてくれ。俺は北門と南門からアイアンゴーレムを連れて来る」
「わかった!」
風来燕とメルナ、アーンとワイアンヌが、その馬車を引いて街に向かう。俺は急いで南と北に配備していた、重機ロボットを取りに行く。これで、敵の想定も少しは狂うはずだった。
重機ロボット二機を連れて戻って来ると、アランが聞いて来る。
「何をするつもりだ?」
「戦力を増強する」
「そうか。それは、俺の手足と関連しているものか」
「そうだ。その技術を用いる」
俺は、二機の重機ロボットを鍛冶屋に持ってくる。既にメルナ達がパワードスーツを持ち込んでおり、アーンがワクワクと待ちかねているようだ。
「よし。アーンやるぞ」
「わかったっぺ!」
すぐさま鍛冶屋に入り、俺はついて来たフィリウスたちに言う。
「すまんが、俺はしばらくこの鍛冶屋に籠る。警備の指揮をオーバースに託したい」
「わかった。伝えて来よう」
フィリウスがビルスタークを引き連れて言った。
「風来燕は休んだら、俺の代わりに魔獣狩りにでてほしいんだ」
「お安い御用だぜ」
「そうね。肉が足りてないでしょうから」
「いろんな素材もいるわい」
「油とかもいるな」
風来燕達も出かけて行った。鍛冶屋の前には二機の重機ロボットが、機能停止して立ち尽くしている。俺は周りを見渡して、メルナ、アーン、ワイアンヌに言う。
「さてと、籠るぞ」
「わかったっぺ」
「うん」
「はい」
「まずは外殻を外していく」
「慎重にやるっぺ!」
パワードスーツのそばには、要塞から持ってきた空を飛ぶドローンと、医療ロボットも置いてあった。エックス線透過で見る限りは、動力はどうやら背中の部分にあるようだった。
「手足からやろう」
アイドナがパネルを操作して外殻をパージすると、アーンが受け取り床に敷いた皮に丁寧に置いた。次々に外していくと、部位が分らなくならないように、体に沿ってアーンは並べてくれた。もちろん俺は記憶しているが、それでも作業は早くなるだろう。
全ての外殻を外し終わり、骨格を見る。
「これが骨だっぺか?」
「そうだ。背中のこの部分に動力がある。じゃあ、強化魔法陣を掘って行くぞ」
「わかったっぺ」
俺達はパワードスーツの部品ひとつひとつに、強化鎧の魔法陣を刻んでいく。かなり部品があるので、時間はかかるが二人でやっているので進みは倍だ。
「では、オリハルコンの部品を組み込んでいく」
「わかったっぺ!」
集中してやっているうちに、いつの間にか外が暗くなっていた。メルナが光魔法で、鍛冶屋の内部を昼のように明るくしてくれた。役半分くらいが終わった時に、俺は皆に言う。
「メルナ、アーン、ワイアンヌ。そろそろ飯にしよう」
「じゃ、じゃあ用意しなきゃ」
「その必要はない」
コンコン! その音に三人が驚く。俺がドアを開けると、ビルスタークとアランが来た。
「飯だ」
「すまない。入ってくれ、一緒に食おう」
「わかった」
そして、二人を中に入れる。床に座り込み、バスケットから食い物を取り出して食い始めた。
「美味いな」
「ヴェル様がお前にと。焼き菓子みたいなもんだと言ってた」
「そうか。やはり美味い」
「ノロケか?」
「いや、本当にヴェルティカの作ったものは美味いんだ」
「そうか」
そして俺はビルスタークとアランに言う。
「これから俺達は、未知の開発に入る」
「何をするんだ?」
「敵の技術を使って、戦力を増強するんだがな。そこでちょっと、連携について二人に聞いて欲しんだ。むしろ二人の戦闘力も必要になるからな」
「そうか。聞かせてくれ」
「俺もか?」
「そうだアラン」
俺は二人に対し、これから迎え撃つことになるだろう未知の敵との戦闘作戦について伝えるのだった。