第二百八十五話 王都中心にある生体動力へ
北門が開かれて俺達が王都に入ると、騎士団から大歓声で出迎えられた。俺が中に進んでいけば、オーバースがやってくる。
「おお、コハク! よくやってくれた! 本当にあれを動かせたんだな」
「大したことではない。だが、あれがここにあると厄介だっただけだ」
「厄介だからと、簡単に無くせるものではないだろう」
「侵入するまでが大変なんだ。中に入ってしまえば、俺ならどうとでもなる」
「そうか。そいつは凄いな」
「とにかく古代遺跡へ」
「ああ」
墓地にある古代遺跡に行くと、すでに土魔法による防護壁が築き上げられるところだった。メルナとフィラミウスだけではなく、王宮魔導士もいるためにかなり早く組み上げられてる。騎士達が物資を運び込んだり、道を整備したりしている。
「オブティスマ。入れてくれ」
「オーバース、来たか」
古代遺跡防衛を担当している、オブティスマが騎士を指揮しているところだった。
「では、俺は市民達の警護に周る。後は頼んだぞ」
「わかったオーバース。ではコハク、ついてこい。」
オブティスマは騎士にその場を任せ、俺達をつれて古代遺跡の入り口のドアを開ける。
「あれは、どうなった?」
いつもは口数の少ないオブティスマが、俺に声をかけてきた。
「隠して来た」
「そうか。あれには不覚をとった」
そう言って無くなってしまった腕を、俺に見せた。
「仕方ない。装備が揃っていなかった」
「いや。それはいいわけにすぎない」
そうではない。オブティスマの青備えがそろっていれば、こんな事にはならなかった。そこで俺は、オブティスマに言う。
「パルダーシュのアランだが、あれの手と足は俺が作った。この戦いが落ち着いたら、リンセコートでお前の腕を作ってやる。それまでは、少し我慢してほしい」
「いや。これは、自身への戒めだ」
だが俺は首を振る。
「オブティスマは、貴重な戦力だ。戦力を補填する為にもやる必要がある」
「ふふっ。お前は常に冷静だな。騎士の矜持などはおかまいなしか」
《無意味な事です》
アイドナはそう言うが、俺には無意味には感じられなかった。
「オブティスマは、この国に必要だ。一人でも多くの命を救うために、戦力は増強しておいた方が良い」
「……わかった。なら、戦いが終われば尋ねるとしよう」
「そうしてくれ」
そして扉を開くと、スロープが下に伸びていて、これを降りれば古代遺跡だ。下に行くと、魔導士の明かりが灯り、多くの書記官のような奴らがいた。
「彼らは?」
「王宮の分析官や、魔導士達だ」
「なにをしている」
「記録している。本来は王家しか入れない場所だが、保全する為にも、全ての物を記録して残そうとしているのだ」
「そうか。俺が触れてもいいのか?」
「ふっ。王に聞いたが、お前はこれを扱えるんだろう?」
「そうだ」
「そのために文官をそろえた。見てもらうためにな」
そしてオブティスマはそこにいる人らに、大声で叫ぶ。
「コハク・リンセコート指令が来た!」
すると一斉に、ザッ! と姿勢を正す。いつの間にか、指令と言う事になっている。
「これから、この機関を稼働させる」
「「「「おお!」」」」
ざわついている中を、メインパネルの前に立ち画面を操作し始めた。すると、以前と同じように動力が入り、パネルが光り出して動力が唸る。
「動いている!」
ゴウンゴウンと音を立て、王都周辺の映像が映し出される。文官たちがざわめいた。
「これと、あの移動要塞は同じ文明の物だ」
「そうなのか」
「そうだ。そして、あれはこれよりも最新型だと言っていいだろう」
「なるほど……」
「現在これは、俺以外は触れないような状態になっている」
皆が黙って聞いていた。
「だが、問題は、これを動かすための動力なんだ」
「どう問題なのだ?」
「その動力のエネルギーが膨大過ぎるのだ。万が一、敵に狙われてこの深部にある動力を爆破されれば、王都と周辺地域が吹き飛んでしまうだろう」
「なんですと!」
「そんな!」
「それほどのエネルギーが!」
「その通りだ。だから、敵はこの施設の奪取を目論んでいると考えていい。そして、奪取が不可能だと思えば、破壊しようとしてくるだろう」
「恐ろしい……」
「徹底して防衛する必要があるんだ。だから、いま防護壁を作らせている」
「わかりました」
だが俺がそこで、文官たちに少し違う話をする。
「だが、これがこちらの手中に落ちている間は、敵はそう簡単に王都には攻めてこない」
文官が聞いて来る。
「なぜです」
「これは、あの未知の敵にも威力を発揮する攻撃兵器だからだ。情報が敵にどこまで伝わっているか分からないが、未知の敵がここに直接来なかったのは、これがあるからなんだ。だから人間を大量に送り込んできた」
「なるほど……」
流石は文官と言ったところだろう。これくらいの事は、理解してくれるようだ。
するとオブティスマが聞いてくる。
「それでも、敵が来ると?」
「そうだ。恐らくこれには、他の使い方がある」
「他の……」
「だが、これ単体ではそれが分からないんだ」
「どうすればわかる?」
「いや、分らない。だがそれを使う為に、奴らは各地で遺跡を起動させ始めた」
「何が狙いだ」
「奴らはこの地上で何かをしようとしているようだ」
皆が口をつぐむ。聞きたい事はあるのだろうが、オブティスマが黙るとみんなが黙る。なぜかこの男には、周りが従ってしまうのだろう。
それからしばらくシステムの確認をしていくと、アイドナが以前と違うところを発見した。やはり各地の遺跡が関係しているらしく、いくつかのアクセスしようとした経緯が見える。
どうだ?
《こちらが、オペレーションシステム書き換えて、アドミン権限を保持しているため、アクセスは成功していません》
破られる事はないのか?
《前世でいうところの数千年前の技術です》
ということは?
《天地がひっくり返っても突破できません》
そうか。
そしてアーンが聞いて来る。
「お師匠様。どうするつもりだっぺか?」
「完全に、動力の火を落としたいのだが、この生体動力というものは、活動を止める事はないらしい」
「永久機関のようなものだっぺか?」
「それに近いものがある。太陽光の動力を切れば、その起動に影響はするが、生命反応にも似た活動は、止まらないんだ」
「おっかないものだっぺ」
「ああ」
《では、実際に動力に触れてみますか》
大丈夫なのか?
《まずは、原体を確認して、状況を把握する必要がありそうです》
わかった。
《危険ですので、あなた一人で行ってください》
そこで俺はアーンやオブティスマに言う。
「これから俺は、生体動力の確認をする。だが、そこには俺しか入れない」
「危険なんだっぺな……」
「そう言う事だ」
「わかったっぺ。気を付けるっぺ」
「ああ」
そして俺はその起動システムの裏側に回り、どこかに抜け道が無いかを探し始める。前は王ときた手前自由には動けなかったが、今は俺が主導権を握っていた。しばらく探し続けていると、壁にパネルを見つける。それをアイドナが操作すると、小さな入り口が開いた。
ここか。
《そのようです》
寝そべってそこに入っていくと、奥には、縦につながる穴があった。
《この下ですね》
よし。
そして俺はその穴を、ゆっくりと下に向かって下りていくのだった。