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第二百八十四話 大気圏突入ポッドを隠蔽する方法

 俺とアーンは青備えの鎧を着て、大気圏突入ポッドに侵入する事にした。するとワイアンヌが、自分もどうしても中を見てみたいというので連れ行く事にする。


「ワイアンヌはこの周辺にも詳しいか?」


「はい。熟知してます」


「よし。わかった。ついてこい」


 市壁の上から木で橋をかけて、壊した大気圏突入ポッドの、ドローン入り口から中に侵入する。


「わあ。思ったより入り口は狭いんだっぺな」


「いや。ここは空飛ぶゴーレムの射出口だ」


「なるほど。そこにある残骸は壊したものだっぺ?」


「ああ」


 するとワイアンヌが言う。


「お館様! これは、帰りに持ち帰ってもよろしいのでしょうか?」


「いや、壊れたやつじゃなく、奥に稼働してないのがあったぞ。それにしろ」


「はい!」


 ワイアンヌは、どうやら物を回収したくて来たらしかった。そのまま三人が奥へ進み、俺がパネルを操作して動力室に入る。


「これが動力だ。爆発すれば、王都が吹き飛ぶだろう」


「恐ろしいっぺ」


「敵はこれを爆発させることで、王都内の古代遺跡も誘爆させようとして来るかもしれん」


「わかったっぺ」


 三人はすぐにその部屋を出て、パネルを操作しロックする。だが未知の敵がくれば、このくらいの鉄の扉は破壊して入り込めるだろう。


「お館様。こんな大きなものが、本当に空から落ちて来たのでございますか?」


「この大地の周りには宇宙と言うのがあってな。そこに浮かぶ、人口で作られた星から落ちて来たんだ」


「凄いっぺ!」

「本当です!」


 二人はその事実が信じられなかったらしく、ここにきてようやく現実味を帯びて来たらしい。そして俺は次々に部屋を見始めた。


「ここは居住区だな。これがベットだ」


「本当だっぺ」

「寝所が部屋に組み込まれているのですね」

「そうだ。その方が頑丈だろう?」

「参考になります」


 そして先に進むと、ガラス張りの部屋が出てきた。その奥にはベッドがあり、いろいろな器具が置いてあるようだった。


 なんだここは?


《医務室です》


 なるほど。


「ここはなんだっぺ?」


「治療をする場所だ」


「なるほどだっぺ」


 俺はパチパチとパネルを操作し、そのガラスの向こうの部屋へと侵入した。そこには診療用の器具や、何らかの薬などが置いてあった。それを見て、ワイアンヌが言う。


「ここの物を持ち出しても?」

「いくらでも持っていけ。俺に権利はない」

「はい!」


 ワイアンヌは持ってきた背負子に、次々にそこにある医療器具や薬品を詰め込み始めた。そしてアーンが、ロボットのような物を見て言う。


「お師匠様。ゴーレムだっぺか?」


 俺がそれを見る。


《医療ロボのようですね。手術などをするのでしょう》


「治療用のゴーレムだろう。稼働させてみるか」


「いいっぺか?」


 アイドナがガイドマーカーで示した、起動用のパネルを操作する。すると、その小さなロボットがゆっくりと動き出した。


「こんにちは」


 それは古代語で話し始める。


「喋った! ゴーレムが!」


 そして、そのロボットが言う。


「識別されていません。原住民でしょうか? はじめまして。私は、あなたの健康をサポートする医療ユニット。ご気分はいかがですか? あなたの話をじっくりお聞かせください」


 どうにかなるか?


《翻訳のプログラムを構築します》


 俺がパネルに触れると、アイドナは超高速でプログラムし始めた。それは、あっという間に終わる。


「これで、言葉を話す」


「こんにちは」


 アーンが語り掛けた。


「こんにちは。あなたを検診しますか?」


「い、いや。良いっぺ……」


 アーンが明らかに恐怖を感じていた。


「わかりました。では御用のあるときは、いつでもお申し付けください」


「わかったっぺ!」


「では、あなたを診療いたしますか?」


 ワイアンヌが首を振る。


「では、御用のある時はいつでもお申し付けください」


 ヒュゥゥゥン。


 そうって電源が落ち、目の光が消えた。


《エネルギーを節約する設計です》


 なるほど。


 すると今度は、アーンが目をらんらんとさせて俺を見た。


「お師匠様! ウチ、これが欲しいっぺ!」


「もっていけ」


「やったっぺ!」


 二人にとっては、この乗り物内の全てが宝の山のようだ。これはシュトローマン伯爵領にも、もう一台置いてある。あれも、俺でなければ操作する事は出来ない。


 そして二人と一緒に中を物色し、二人の背負子が膨らんできた。アーンの後ろには、あの医療ロボットがシモベのようにくっついている。すると今度は廊下を歩きながら、ワイアンヌが聞いて来る。


「こ、これはなんでしょう?」


《消火器ですね》


「それは、火事を消す道具だな」


「おお、持って行っていいでしょうか?」


「重いんじゃないか?」


「大丈夫です」


 次々に背負子に入れているが、結構な重量になってるだろう。そして俺はそのまま、指令室へと向かった。扉を開けると、ツンと血の匂いが漂っていた。


「臭いっぺ」

「そうですね」


「俺が殺した」


 中に行けば、首の無いエルフの死体が転がっている。それを見て、二人は具合悪そうになった。


「大変ですね……」


「一か所にまとめるか?」


 死体や首を引っ張って、一か所に積み上げる。それを見て、アーンが言う。


「普通の人間と変わりないっぺ」


「そうだ。形状がちょっと違うがな」


「ここに放置するのは、ちょっと気味が悪いっぺ」


「さっきの治療室に、遺体の保管庫のような場所があった」


「運んではどうだっぺか」


「そうしよう。恐らく袋があるはずだ」

 

 三人で治療室を探し、遺体袋のような物を見つけて持ってくる。


「よし、これに詰めて行こう」


 エルフの死体を袋に詰めて、治療室へ持って行くと、そこに冷暗室のような場所があった。そこに次々に死体の袋をならべ、そしてドアをロックした。


 指令室に戻るが、まだ血のにおいは消えていない。


「私が拭き掃除をします」


 ワイアンヌがぞうきんを取り出して、血のふき取りをし始める。その間に俺が操作パネルを操作し始め、となりではアーンが、じっとそのパネルを見つめていた。


「これが……星の人と呼ばれる文明……」


「そうだ。この世界の文明よりはるかに進んでいるようだ」


「そうだっぺ。天工鍛冶師なんて呼ばれてるけど、おこがましいと思うっぺ」


 アーンはこの近代施設の構造の凄さを、その能力で分かったようだ。


「そんな事はない。アーンも良くやっている」


「お師匠様は、この仕組みを理解して操作しているっぺ。やっぱり神だっぺ。こんなの、神でなければ理解など出来ないっぺ」


 アーンに素粒子AIの存在を説明したところで意味はない。俺はその話を流して、次の工程に移る。


「まずは、この要塞を起動させる」


「わかったっぺ」


 アイドナがメインパネルを操作すると、動力が伝わりあちこちの明かりが灯った。


「鼓動してるっぺよ」


「そうだ。この要塞に動力を伝達した」


「う、動かせるっぺか?」


「まて」


 すると目の前に数あるパネルが、全て表示されていく。そこには王城や正面に広がる草原が綺麗に映し出された。どうやら、どこかに設置されたカメラが撮影したものらしい。


 ワイアンヌがそれを見て言う。


「凄い絵ですね。まるで、本物」


「本物だよ。絵じゃない、外の風景が映し出されているんだ」


 二人が絶句する。まるで磨かれたガラスから見るように、その光景が鮮やか過ぎた。


「本当だ……市壁の上で待機している、青備えがいる」


 その人物たちは動いていた。それで、絵じゃないと分ったらしい。


「そう言う事だ。次はこれを王都から引き離して隠す」


「わかったっぺ」


 俺が操作すると、床が震えて微妙に部屋が動き出した。足元にキャタピラが出ているのだ。それが終わると、動きが止まって安定する。


「ゆれたっぺ」


「足が出たんだ。動くぞ」


 アイドナがパネルに前進の指示をすると、部屋が揺れ動きパネルに移る映像が揺れた。


「す、進んでるっぺか?」


「そうだ」


 するとワイアンヌが指を指した。


「市壁が離れていく! 王都から離れてる!」


「そうだ。そのように指示を出した」


 アーンとワイアンヌが、また俺に尊敬のまなざしを向けた。システムの書き換えをしたのも、これにコマンドを打ち込んだのもアイドナであって俺じゃない。だが二人は、俺がやっていると思っているのだ。


 次第に王都が離れ、引きずられてきた道を辿り進んでいく。これの落下点に向かう事になりそうだが、俺はワイアンヌに聞いていたある場所に向かっていた。


「これは何のために作られたものだっぺか?」


「星を降りるのに、物凄い熱を発するんだ。それに耐えうる構造になっているのと、落下しても壊れない強度を持っているようだ。恐らくは拠点攻略用に作られた、要塞だな」


「凄いっぺ。まだまだ落ちてくるっぺか」


「それは分からない。これらが先兵だったのか、偵察が目的でこれで終わりなのか」


「大量に落ちてきたら、やばいっぺよ」


「そう言う事だな。これが、あとどれだけの数あるのかも未知数だ」


「あんな爆発を起こすのが、大量に落ちたらどうなるっぺか」


「人が住めなくなるかもしれん」


 そう言うと二人は、神妙な面持ちになる。俺が説明をしなくても、彼女らなりに事の重要性に気付き始めたらしい。マージ以外では、この二人しか理解できなかっただろう。人がこの事を理解できなければ、この星の人間は滅びてしまうかもしれん。


 そして俺は、ワイアンヌに質問した。


「さて、王都から離れた所に湖があると言ったか? どっちに動かせばいい」


 するとワイアンヌは、画面を見ながら聞いて来る。


「この画面で、どちらに向かっているのですかね?」


「このメインパネルが正面だ。北西だな」


「ならば、もう少し北に進路をとれますか?」


「ああ」


 ワイアンヌに指示をされ、しばらく進んでいくと、その先に大きな湖が見えてきた。


「見えた」


「はい」


「せっかく入手した機材だ。ここで外に置いて行こう」


「わかったっぺ」

「はい!」


 俺は二人と共に、荷物を運び出して外に持ち出す。ドローンや持ちだせるものは、全てそこに並べた。二人を岩場に置いて、その荷物を見張るように言う。


「待ってろ」


「わかったっぺ!」

「はい」


 二人を置いて再びポッドに乗り込み、湖の方に向かっていく。そのままポッドごと湖に入り、湖底へと沈んでいくのだった。完全に深いところに入ると、俺はオリハルコンの強化鎧を全て閉じる。壊したドローンの入り口から水が侵入してきたので、俺はその水流を押しのけるようにして、外に出て行き湖から外へと歩いて行った。


 ザプン。


 上がって湖の表面を見るが、大気圏突入ポッドは完全に沈んでいた。


「よし」


 そして俺が二人のところに戻ると、医療ロボットと会話をしているところだった。


「戻るぞ」


 二人はうなずき、俺が空を飛ぶドローンを背負い、二人はそれぞれの背負子を背負って歩き出す。歩く速度よりも、大気圏突入ポッドの方が速度が速く、俺達は倍の時間をかけて王都へと戻るのだった。


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