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第二百八十二話 敵軍の退却を画策する

 俺達は敵が来るのを待たずに、敵の駐屯地へとやってきていた。あちこちに滞在している、数千の兵は王都前で起きた出来事をまだ掌握していないのかもしれない。俺達は遠くから気とられないようにして、その様子を伺っていた。


 俺が、オーバースとビルスタークに言う。


「敵の指揮官は誰だ?」


「王が交渉に来た時は、公爵の甥であるセグルス・ハイデン。そして、ゲラルド・ラングバイ辺境伯がいたはずだ」


「どう思う?」


「多分、敵の性格上は、逃げるか、ここに引きこもったままだろうな」


 俺がエックス線透過で駐屯地内を探るが、俺達が追い払った騎士は奥にいるようだ。そこでビルスタークが聞いて来る。


「一気に突入するのも手だな」


 だが俺が首を振る。


「いや。ここにいる人間の兵が多すぎる。それにもまして、もっと懸念している事がある」


「未知の敵か」


「そうだ。俺の予測では、あれらは、こいつらの後ろにいる可能性が高いと睨んでいる」


「そうか……」


 アイドナが予測演算により、その確率を出していたのだ。あれが何処にもいない訳はなく、ゴルドス国の大群の中に居なかったため、こちらの可能性を示唆していたのだ。


「オーバースとビルスタークには、敵の指揮官が逃げ出さないように回り道をしてほしい」


 オーバースが言う。


「コハクはどうするのだ?」


「単独で潜入するスキルを持っている」


「ほう……」


「馬を置いて行く。二人は迂回して西に回ってくれ」


「わかった」

「そうしよう」


 俺が馬を繋いで地面に降り立ち、暗蜘蛛隠のスキルを発動させた。オーバースが驚きの声を上げる。


「コハク?」


「ここにいる」


 すると、ビルスタークが言った。


「私には、コハクが見えてます」


「なんだか、面白いことになってんなあ。お前ら」


「コハクのおかげですよ」


「なら、オーバース。ビルスターク。俺はこのまま潜伏し、見つけ次第どうにかしてくる」


「気を付けろよ。万が一逃げていたら、俺達が捕まえる」


「頼む」


 そして俺はステルス機能を使い、するすると騎士団の駐屯地へと潜入していく。オーバース達は草原を遠回りして迂回し、西の街道に出るつもりのようだ。兵士達が会話している声が聞こえて来る。


「聞いたか?」

「ああ、王覧武闘会の優勝者が出たらしいな」

「あっという間に数百人がやられたらしいぜ」

「そんなに強いのか?」

「命からがら逃げて来たらしい」


 そんな会話が聞こえて来る。どうやら、俺達が追い払った奴らは、ここには戻って来てはいるらしい。俺はかまわず、するするとその奥へと足を進めていった。


《聴覚強化》


 すると大勢の話し声が、耳に入り込んできた。


《過去に聞いた、ラングバイ辺境伯の声から確定します。こっちです》


 どうやらラングバイは、この駐屯地にいるらしい。アイドナのガイドマーカー通りにそちらに行くと、怒鳴り声が鮮明になって聞こえてきた。確実に、ラングバイ辺境伯の声だった。


「なにを! たったの三人に追い返されただと!」


「それが、鬼神の強さでございました!」


「あの、星の人はどうした? 鉄騎が出なかったのか?」


「はい。援軍はきませんでした」


「何故だ……敵が出たら、彼らが出るはずであったろう」


「とにかく、来ませんでした。ですが、あの王覧武闘会の優勝者は恐ろしいほど強く」


「たかが人間だろう。なぜ五百もの兵がやられるのだ」


「わかりません」


《ラングバイは、かなり苛立っているようです。黒曜のヴェリタスで、情報を聞き出せるかと》


 俺は、その天幕の中に入り込んだ。ふんぞり返るラングバイと、跪く騎士達が周りを囲んでいる。


 ビシュゥゥゥゥ! とレーザー剣を出して、あっという間に跪いている奴らを殺した。


「な! な! な!」


 俺は、コツンとラングバイの頭を殴り気絶させた。そしてアームカバーから精神改ざん薬の、黒曜のヴェリタスを取り出し、ぽとりとその口に垂らしてやる。相変わらず無駄に太っていて、戦闘には向かない体つきをしている。


《意思は弱いようですので、直ぐでしょう》


 少しして、俺はラングバイを気付けさせた。


「う、うう」


「ラングバイ。俺は味方だ。コハクリンセコートだ」


「はい、リンセコート卿。あなたは、味方です」


《マージのいう通りですね》


「おまえは、誰の指示でここに来た?」


「ルドルフ・ハイデン公爵様の命です」


「甥はどこだ?」


「さて、この駐屯地にいるはずですが」


「星の人と言うのは何だ?」


「星から地上を治めに来た神聖なる方達です」


 こいつらの認識では、そう言う事になっているらしい。コイツは恐らくあまり知らないように思える。


「それらと話をしたのは、ハイデン公爵だけか?」


「そうです」


「お前は会ったか?」


「会いました」


「どう思った?」


「それはそれは、神々しい、とてもこの世の物とは思えない美しい方達でした」


《エルフで間違いなさそうですね》


 そのようだ。


《コレ、は利用できます。操って騎士達を先導させましょう》


 どうする?


《トークスクリプトを展開します。そのままインプットして構わないでしょう》


 わかった。

 

 そしてアイドナが言うままに、ラングバイに話をする。


「星の人達のおかげで、すでに王都とは決着が付いた。このまま、引き返す事になったので、騎士達は身支度を整えて直ぐに自領に戻るように。そしてお前は、元通り自分の領地に行って、沙汰が下りるまで統治しろ。ルドルフ・ハイデンとの接触の檻には、うまく事が運んだと言え。王都の兵はまんまと全滅し、こちらの大勝利だったと伝えろ。ここに倒れている奴らは、謀反を働こうとしたので、返り討ちにした。と言う事にしろ」


「はいー」


「休むな。直ぐに動けよ」


「はいー」


 そうして俺は、その天幕を出て西側に向かう事にした。するすると、兵の間を抜けて行こうとした時、後ろからラングバイ辺境伯の大きな声が聞こえる。


「既に、星の人が話をつけてくれた! これ以上の人死には必要ない! 荷物をまとめて領に帰るぞ!」


「「「「「オオオオオオオオ!」」」」」


《どうやら騎士達も帰りたがっていたようですね。明日にはここは無人になるでしょう》


 馬鹿な話だ。


《それがノントリートメントの習性です》


 そうか。


 そして俺は駐屯地を抜けて、更に西へと進んでいった。だいぶ進んだところで、オーバースとビルスタークの気配がする。更に、数人の死体と一人の人の影があった。


「コハク」


「時期に騎士達はいなくなるだろう」


 するとしゃがんでいる奴が、驚いた顔をした。


「なっ! そんな馬鹿な! どういうことだ?」


「こいつは?」


「セグルス・ハイデン。公爵の甥だ。丁度殺すところだった」


「おお、それはちょうどよかった。コイツを俺に貸してくれ」


「あ、ああ」


 俺は二人から離れ、そいつをズルズルと引きずる。そして優しく言った。


「どうやら怪我をしているようだな?」


「そ、そうだ! アイツらが乱暴を働いたからな!」


「そいつは可愛そうだ。俺は回復薬を持っている、どうする?」


「う、飲ませてくれ!」


「いいだろう。ちょっとまて」


 そうして回復薬に、黒曜のヴェリタスを数滴たらした。俺が回復薬を差し出すと、セグルスはそれを奪い取って飲んだ。卑屈な表情の男だが、自分が生きる事には貪欲なようだ。


 シュウシュウと折れた腕が治り、そいつは一息ついた……が少し経つと、トロンとした目つきになる。オーバースが俺に不思議そうに聞いて来た。


「なんだ。殺さないのか? わざわざ回復薬まで与えて、どうするつもりだ?」


「大丈夫だ。セグルス、お前はそのまま、ルドルフ・ハイデン公爵のところに行くよな?」


「そうする」


「ならば、王軍は壊滅した。こちらの完全勝利だったと伝えろ」


「わかった。そう伝える」


 その光景を見て、オーバースとビルスタークが驚いたような気配を発する。


「コハク、なにをした?」


「いや、マージにもらった薬を与えただけだ」


「大賢者様が?」


「そうだ。これで言う事を聞いてくれるはずだ」


「そう言う薬なのか?」


「問題ない」


 そして俺はセグルスを放す。トロンとしているが、しっかりと立ち上がった。


「まもなく、騎士団がやって来るだろう。お前はこのあたりで待っていろ」


「わかりました~」


「行こう」


 俺がビルスタークの馬に乗り、その場所から消えた。直ぐに戻って、備えねばならなかったからだ。


「アイツを野放しにして大丈夫なのか?」


「問題ない。もう、セグルスは俺の指示しか聞かない」


「……そうなのか」


 そして俺達は、敵の騎士団を迂回して、王都に向けて走り去るのだった。

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