第二百八十一話 反逆兵の虐殺
メルナがオーバースとビルスタークに強化魔法をかけ、魔石も満タンに補充した。もともと、この二人は身体強化が出来るが、準備万端にしておけば自分の魔力の消費が少ないだろう。
「凄い魔法だ」
「そうですね。オーバース様」
「ビルのは目は大丈夫なのか?」
「この強化鎧のおかげで、人の影が見えるのです」
「凄いものだな。これは」
そして俺が、城壁の上に構えた弓兵に言う。
「外に火弓で牽制しろ!」
「「「「は!」」」」
「結界を解除! 門を開けろ!」
「門を開けろー!!!」
ガラガラと音を立てて、門が開いて行く。人が通れるくらいになったので、俺が門番に言う。
「我らが出たら、門を閉じて結界をかけろ!」
「は!」
そして俺達は顔を見合わせ、外に出た。
「オーバース、ビルスターク。遠慮はいらん、俺が先に行く。敵が散り散りになったら、高周波ソードで出来るだけ斬るんだ。俺が良いと言うまで」
「「おう!」」
そして俺達が門を出て行くと、城壁の上から矢が降り注いでいた。それで、敵兵は近づかずに、こちらの様子を射程外から伺っている。
「敵が出たぞー!」
相手の兵士が叫んだ。俺達は構わず、ズンズンと前に出て行く。
「三人だと!」
「それで何ができる!」
「大人しく投降しろ!」
だが俺は、それを無視して叫んだ。
「我は! 王覧武闘会の優勝者コハクなり! 死にたい奴から前に出ろ!」
すると、大勢の敵兵にどよめきが走る。
《やはり、効果はあるようです》
そのようだ。
《ですが委縮する者と、より一層、闘志をみなぎらせる者がいるようです》
混乱してくれればいいのだがな。
すると、敵兵の集団から五人の騎士が前に出て来た。オーバースが俺に耳打ちする。
「あいつらは、西でも腕のある騎士だ。一番強いのは……そうだな、バルドロスだろうな」
「どいつだ?」
「あの、中央のデカいのだ」
「そうか」
「だが、それぞれに腕に自信のある奴らだぞ」
「丁度いい」
すると一番強いバルドロスとやらが、口を開いて叫んだ。
「王覧優勝者にオーバースとはな! こいつはいい! だが、これは戦争だ! 一対一でやれると思うな! 王覧舞踏会など、どうせ見世物だ! そこで優勝したからと言って、戦で強いとは限らん」
「……」
俺は黙っていた。すると敵がくすくすと笑う。
「投降するなら今だと思うがな!」
すると脳内でアイドナが言う。
《敵の戦意を刈り取る為、この五人は殺します。身体強化をかけます》
わかった。
《龍翔飛脚、瞬発龍撃、閃光一閃、無意識回避、時間知覚拡張、超感覚予測》
おいおい……人間相手にか? パワーが超過しているぞ。
《わざとです。では行きます。空間歪曲加速》
丁度その時、敵が名乗りを上げようとしているところだった。
「俺の名は! バルドロ……」
次の瞬間、俺は前に出てきた五人の首をジェット斧で、生卵のように吹き飛ばした。
バシュゥゥゥゥゥ!
スローな空間の中で、まだこいつらの頭が吹き飛んだことを認識している人間はいない……。
オーバースとビルスターク以外は。
そしてそのまま後方まで進み、後ろに壁になっていた騎士達を、レーザー剣で五十人真っ二つにする。俺が殺した五人がドサドサと倒れ始め、その後ろの奴らも斬り倒していく。
同じ国の騎士達には悪いが、俺達を脅威だと感じてもらうために必要なことだ。
「な……」
「へっ?」
「おい……」
すると、まだ固まっている奴の胴体がズレて、上半身が崩れ落ち血が噴き出す。
「さて、次に声を発した奴から殺す」
俺が言うと、それに気づかずに声を発した奴がいた。
「な、なにが……」
シュピン!
レーザー剣で、首を斬る。言葉を発するのはやめたが、ぐらりと頭が後ろにひっくり返った。
「うわうわ」
シュキン!
そいつの首も切る。
「声を出すなと言った」
「だ、に、にげろぉぉぉ!」
蜘蛛の子を散らすように動き出した。
「オーバース! ビルスターク!」
「「おう!」」
それからは、逃げ惑う騎士達をただ斬っていく作業に移る。まるで逃げ回る家畜を屠殺するように、次々と首を飛ばし続けていった。三百人ほど切り捨てたところで、俺は二人に合図おくる。
敵兵から距離をとり、ざっと三人で並んだ。
そこで俺が大声で叫ぶ。
「止まれ! 止まらねば皆殺しにする!」
その言葉を聞いて、パニックを起こしていた兵士達が止まる。だが、ガチガチと鎧が鳴り響き、震えが止まらないようだった。
「よし! この隊の大将を、自ら差し出せ!」
だが敵は動く事が出来ずに、ガチガチと鎧を震わせるだけだった。
「数を数える! 百を数えるまでに連れて来なければ、あと百人を殺す!」
ザワザワとし始めた。どうするべきかを悩んでいるのか、反撃しようとでもしているのか。
すると敵の奥から、声が響いた。
「隊列を整えろ! まとめてかかれば勝機はある! 敵はたったの三人だ!」
なるほど。
《まだ、奥は士気が落ちてないようです》
そして俺は、オーバースに言った。
「これ以上殺したくはなかったが」
「仕方あるまい。王に弓を引いた罰だ」
「なら、あと三百だ。俺が二百、五十ずつを頼む」
「分った……」
「仕方あるまい」
隊列を整えた騎士達を前に、俺が先そして二人が後に構える。奥から火炎魔法が飛んで来たが、俺達のオリハルコンの強化鎧には全くの影響がない。
「では……」
ブン!
俺はその場を消えた。隊列などは俺には関係がない。そして、未知の敵やエルフ鉄兵よりも、はるかに弱い人間、魔獣などより力もない。もはや、最大強化した俺からすれば紙切れだった。
時間聴覚拡張のため、俺に斬られた人間達は死んだことも分からないほどに早く動く。
ジュバ! シュピ! ジュバ!
次々に斬り倒していくと、オーバースとビルスタークも斬り始めた。そして、想定人数を斬り俺達は、また騎士達と距離を置いて三人が並ぶ。
「うぎゃああああ」
「もうやめてくれぇ!」
「わ、わかったぁぁ!」
敵の騎士達が震えあがっている。俺が奥にいた、さっき掛け声をかけた隊長も殺したので、指揮系統に乱れが出ているようだ。
「もう一度言う! 百秒以内に、この隊の最高責任者をここに連れて来い!」
「ひゃ、百秒は無理だ! 離れているところにいる! 本部はここじゃない!」
すると、オーバースが頷く。
「そうだ、駐屯地はここから三十分ほど離れた所にある。トレラン様と陛下はそこでやられた」
「なるほど」
そして俺は騎士達に向かって言う。
「まず兵を引け! 命は助けてやる! そして今日の午後までに、司令官を連れて来い!!」
「「「「分りました!」」」」
ぞろぞろと兵達が回れ右して、西へと向かって行進し始めた。そして俺達は、そのまま一度、王都の正門へと戻って行く。
「敵を退けた! 門を開けよ!」
ガラガラと音がして、門が開く。俺達三人が入っていくと、そこに騎士達やアランもいた。
「どうなりました!」
ビルスタークが言う。
「兵は引いた」
「「「「オオオオオオ」」」」
地の底から響くような雄叫びが上がる。
そして俺はメルナに言う。
「メルナ! 悪いが俺達三人を水魔法で洗ってくれ! 血で真っ黒になってしまった」
「うん」
ジャバーーーー! と激しい水流で、俺達三人が洗われ青さを取り戻していく。そしてどうやら、未知の敵はこちらには出現していないらしい。
「コハクよ。それで……待つのか?」
「いや、オーバース。補給をしたら、直ぐに三人で出る」
「そうか……敵も驚くだろうな」
「逃げると悪いからな」
「そうか……そうだな」
俺の徹底ぶりに、オーバースは何も言わなかった。そこで俺達は、青鎧を着せた馬三頭にのりこみ、再び王都を抜け出て、敵の本拠地に向けて出発するのだった。