第二百八十話 反撃の狼煙を上げる
王の死に皆が言葉を失っているところで、オーバースが声を上げる。
「今は、喪に服せるような状況ではない! この国の存続のために、動く時だ! 王も望まれている!」
皆は何も言わずに頷く。思うところはあるようだが、直ぐ動かねばならないのは知っていた。
クルエルが俺に聞いて来る。
「しかし、あの敵。ありゃ、なんだ?」
「鉄の騎士のことか。それとも要塞のことか?」
「どっちもだ。敵に混ざって、あの鉄の騎士と鉄の犬がかかって来たんだ。そして、鎧を貫く魔道具」
「それは銃。未知の敵の仲間だ。だが、中身はエルフ、そしてあの釣り鐘はエルフたちの基地だ」
「エルフ……」
そこで俺が聞いた。
「説明は後だ。それで、ガラバダはどうなってる?」
するとオーバースが答える。
「闇魔導士が交代で見張っている。騎士もいるぞ。なぜだ?」
「恐らく敵の狙いは、ガラバダ、そして古代遺跡だ」
「そうなのか」
「ああ、あれはもともと、あっち側のものだからな」
それを聞いて、王城に居た奴らがざわついた。もちろん、その歴史などを知っている訳はないだろう。王都に昔からあるものが、敵の物であるという事に衝撃を受けたらしい。
「で、どうするかな? コハク」
「いや、一旦、片付いている」
オーバースの問いに俺が答えると、更にざわつく。
「どういうことだ?」
「鉄の騎士は既に出てこない。それに、空飛ぶ火を放つゴーレムも止まった」
「なに……」
「俺が止めた」
全員が俺に集中する。クルエルが目を見開いて聞いて来る。
「どうやった?」
「俺の領地、そしてシュトローマン領、パルダーシュ領に同じものが落ちた。それを攻略しているうち、あれの中身を何度も覗いて解明したんだ」
「なんだと? あれに入った?」
「おいおい、いくらなんでも」
クルエルと騎士達が、一斉に口を開いた。だがオーバースだけは、腕組みをして口角を上げている。
「だろうな。でなければ、ここには来ていない」
「そう言う事だ」
「で、どうしたものか?」
「あの敵が出てこない以上は、周辺の敵兵はもはや敵じゃない。だが、元は同じ国の兵なんだろう? 皆殺しにしていいものかどうかを、ここで聞きたいと思った」
オーバースは腕組みをしたまま、ふうとため息をついた。
「王も、トレラン様も、殺さずどうにかしたいと言っていた」
クルエルが、それを聞いて声を荒げる。
「王に弓を引いたものなど、皆殺しでいいだろ!」
「うむ。それは……、そうだが、国の兵力が落ちれば、隣国が黙っていない」
「それは……そのとき考えるしか……」
俺の脳内でアイドナが言う。
《戦力の低下は避けたいところです。寝返る者がいれば寝返らせましょう》
皆が俺の言葉を待っているように、黙ってみていた。王の死体と、トレランの死体が黙って横たわり、俺の仲間達もどうするか考えている。
「オーバース」
「なんだ?」
「出来るだけ寝返らせたい。もちろん、血を流さずにとは言わん。どうすればいい?」
「簡単ではない。だが、圧倒的な武力を見せつけて、屈服させれば何とかなるかもしれん。敵の大将を討ち取れば、おのずと兵も弱くなるだろう」
「もうあの鉄の騎士は出てこない。こちらからうって出る」
「あの鉄の騎士のおかげで、こちらの兵は半分以下だ。それでも戦うと?」
「オーバース。こちらの兵は外には出ない。オーバースと俺と、ビルスタークがいればいい」
それに、ビルスタークが言った。
「三人で暴れるって事でいいのか? 俺は目が見えないんだぞ」
「いや、ビルスタークは今も……最高戦力だ」
「わかったよ、コハク。お前が言うならやろう」
「ああ。残りは全員、王都の重要拠点である、ガラバダの牢と、古代遺跡の警護につかせる」
オーバースが言う。
「なぜだ。半数ぐらいを引き連れて出ればいいと思うが、我ら三人とはな」
「いや。俺が警戒しているのは、人間の敵兵ではなく、あの未知の敵だ。あれが、西側の貴族と絡んでいると見ている。あれの侵入を許せば、都市に被害が出る」
「古代遺跡が奪い返されると?」
「いや。あれを爆破して、王都を破壊する事を考えるだろう」
「古代遺跡は、そんなに危険なものなのか?」
「ああ。跡形もなく消し飛ぶだろう」
「分かった」
それを聞いて、クルエルが言う。
「俺も連れていけ!」
「だめだ。青備えを持っていない」
「借りれないのか?」
「その人の体に、ぴったりと合わせて作っている。着れないんだ。それより、王都内の兵隊の指揮を執ってもらう必要がある」
「わかった。ならば、その役を受けよう」
アランとレイが言った。
「ならせめて、我々だけでも」
「いや。青備えは、出来るだけ王都に残したい」
「……わかりました」
「そうか……」
そして俺がオーバースに言う。
「オーバース。全軍の指揮を執ってくれ。指示を頼む」
俺が言うが、オーバースが首を振る。
「いや。お前が指揮をとれ。俺もビルスタークもしたがおう」
「そうか、わかった」
そして俺はそこにいる、部下達と王城の騎士達に言う。
「全員、ガラバダを捕らえている牢そして古代遺跡の警備につけ! 絶対に、未知の敵の侵入を許すな。市民を堅牢な建物に避難させ、他の建物は空にしておけ。南門と北門の二つの入り口にも、多くの兵隊を集めろ。高台の市壁と、高い石造りの塔の上に見張りを立てろ!」
「「「「「「「は!」」」」」」」
レイやアラン、そして騎士達が一斉に部屋を出て行った。そして俺の元に、メルナと風来燕、アーンとワイアンヌが残った。
「未知の敵が現れたら、食い止められるのは風来燕だけだ。万が一は合図と共に、俺を呼べ」
「「「「おう」」」」
「アーン。王都にいる青備えの武器の出力を上げられるか?」
「まかせるっぺ!」
「それと、連れてきたゴーレム二機を、古代遺跡とガラバダの牢に張りつけろ」
「わかったっぺ!」
「ワイアンヌは、王都内を確認し、アレを仕掛けて欲しい」
「わかりました」
「メルナは、俺達と一緒に正門まで来てくれ。出る前に、三人に身体強化をかけろ」
「うん」
「行くぞ!」
そして俺達は、謁見の間を出ていく。
既に王城内にいた騎士達は、仲間達の指示の下、各場所へと移動を始めていた。すると、俺の姿を見た王城内の騎士達が声をかけて来る。
「コハク卿! その力を見せてくれ!」
「仲間を殺した奴らに目にものをみせてほしい!」
俺は手だけを上げて、その意思表示をした。
「王覧武闘会の事は、皆が鮮明に覚えている。期待しているんだ」
「そのようだ。ならば、期待以上の事をするまでだ」
そしてアーンが、オーバースとビルスタークの青備えに、新しい高周波ソードと爆裂斧を取り付けた。
「さらに出力が上がってるっぺ! 思う存分振るってくるといいっぺよ」
「天工鍛冶師様直々とは恐れ入ります」
「私にまで、ありがとうございます」
「えっと、師匠の……」
「アーンのおかげで、出力を上げられたんだ。間違ってない」
「わかったっぺ」
そして俺達は王都内を歩いて行き、正門の前に辿り着くのだった。