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第二十七話 伝説の魔獣の同時多発出現

 本館に行ってマージがメイドに告げると急いで主に繋いでくれた。マージは焦っており急ぎたいようだが、しばらくそこで待つことになる。しばらくするとヴェルティカがやってきて言う。


「どうしたの? ばあや」


「ヴェルや! 空を見たかの?」


「空?」


「見た方が早い!」


 マージがヴェルティカを外に連れて行き空を見せる。先ほどよりも更に渦が激しくなり巨大になっていた。


「なにあれ?」


「とてつもなく良くない空気が漂っているのじゃ」


「えっ! すぐに、お父様の所に!」


「急ぐのじゃ!」


 ヴェルティカに連れられて、父親の部屋に入っていくと中の人らが驚いていた。ベットに寝ている父親が上半身を起こして言う。


「な、何事だ! プレディア!」


 するとマージが言う。


「不吉な事がおきておる! 外を見るがよい」


「な、なんだというのだ」


 周りの使用人が父親に肩を貸してバルコニーに連れて行く。空を見て皆が驚愕の表情を浮かべていた。


「な、なんだあれは…」


 そして庭を見下ろせば、ビルスターク達騎士団が集まっており皆が空を見上げている。それに対し父親が言った。


「ビルスターク! あれは一体何だ!」


「お館様! 分かりません! 部屋にお戻りください!」


「危険なものか?」


「不明です!」


 従業員達も騒然としてきており、皆が狼狽えていた。


「皆! 静まれ! まずは屋敷に入って、ゴホゴホゴホ!」


「あなた!」


「かまわん! ビルスターク! 警護を固めろ! 騎士団全員を招集するんだ!」


「は!」


 ビルスタークがその場を立ち去り、それでも父親は空から目を離さなかった。するとマージが言う。


「ガイロスよ。出来るだけの市民を逃がすように指示を出すのじゃ、そして屋敷の人も避難をさせよ」


「わかった! ヴェルティカよ!」


「ここにおります!」


「屋敷の者に通達せよ! 間もなく騎士団が戻るであろう! それと共に屋敷を出て避難をするのじゃ!」


「わかりました」


 そこで俺がヴェルティカに言う。


「俺も手伝う」


「ついてきて!」


 俺がついて行くとメルナも後ろをついて来た。屋敷内を走り従業員達に避難勧告を出す。


「じきに騎士が戻るわ! 逃げる準備をなさい! 指示はその時に出す!」


「はい!」

「わかりました!」


 だが一人のメイドが言う。


「お嬢様は?」


「私は逃げません。父が逃げられる状態ではないのです」


「では! 私もここに!」

「私も!」

「逃げる場所などありません!」


 皆がヴェルティカに言う。


「指示に従いなさい。騎士達が状況を調べますが、万が一は避難しなくてはならないかもしれません。皆の命は私達パルダーシュ家に責任があります!」


「ですが!」


 問答が始まりそうなので、俺がそれを遮って言った。


「まずは通達だけをするべきだ。皆に伝えるように! ヴェルティカはマージの元へ」


「でも!」


「現状を把握する事が最優先だ」


「…わかった」


 そして父親の寝室に戻りベランダに向かった時だった。


 ピシャッ! ピカッ!


 物凄い数の稲妻が、都市内に大量に降り注いだのだ。マージが叫ぶ。


「いけない! ヴェル! 部屋にお戻り!」


 ヴェルティカがベランダに駆け寄ろうとして、父親と母親そして使用人達が部屋に入ろうとした時だった。雷が止んだ後に、信じられない光景が浮かび上がる。窓側を見ていたヴェルティカが呟いた。


「なに…あれ」


 なんと二階の窓の外に、見たこともない魔獣の姿があった。頭が獅子で尻尾が蛇の形をしており羽が生えてこちらを睨んでいる。


 それと同時にマージが大きく叫ぶ。


「防守結界!」


 すると屋敷の外に薄っすらと何かが浮かび上がる。


 マージが言った。


「一体何だいあれは…。都市結界はどうなっているんだい…」


 マージに言われ俺達が外を見ると、街中のあちこちに異形の形をした魔獣が現れていた。そして次の瞬間、その魔獣達が暴れ出したのだった。


「イカン! ゴホゴホゴホ!」


 父親がフラフラとして、床に崩れ落ちた。


「これは…逃げ場所なんてないねえ…」


「ばあや! どうしたらいい?」


「使用人を全て地下室に連れて行くのじゃ! 騎士団も屋敷に入れた方が良い! あの魔獣の数では騎士団が全滅してしまう! そうすればこの都市は終わりじゃ!」


「わかった!」


 そこで俺がヴェルティカに言う。


「なら俺は騎士団に言って来る。ヴェルティカは使用人を地下に誘導するんだ!」


「うん」


 俺が外に出るために玄関に走ると、メルナが狼狽えながら俺について来る。


「だめだ! メルナ! 来るな!」


 だがメルナはそれを無視してついて来た。今は彼女を諭している暇はないので、そのまま玄関を飛び出して庭に向かう。すると騎士団達が剣を構え、そこにビルスタークも戻って来た。


「コハク!」


「ビルスターク! 騎士を全て屋敷に入れろ!」


「しかし市民の警護が!」


「ダメだ。マージが騎士団を全滅させる訳にいかないと言っている」


「くっ! わかった!」


 ズゥゥゥン! ズゥゥゥゥン!


 魔獣の足音が屋敷の周辺で鳴り響き、あちこちから絶叫が聞こえ、ちらほらと火の手が上がっている。いきなりの出来事に、騎士団も固まっており一度作戦を練る必要があった。


「まずは対策を練るんだ」


 そして騎士団が屋敷に入ろうとした時だった。


 バガァァァン! と屋敷の壁が破壊され、見れば先ほどの獅子の顔に蛇の尻尾をしたやつが、壁を破壊して侵入してくるところだった。


「まずい!」


 するとビルスタークが言った。


「結界が破られた! 屋敷を死守する!」


「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」


 騎士団達は剣を構え、そこにマージが杖を持ってやって来る。そして何かを騎士達に叫んだ。


「プロテクション! マジックカウンター! エコーシールド! アイアンウォール! ドラゴンソウル!」


 唱えるたびに、騎士達の体が光っていく。


「あの魔獣はキマイラじゃ! あたしが火で牽制する! 隙を見て足を斬りつけい! 尻尾の横殴りに注意せよ!」


「「「「「「「「は!」」」」」」」」


 そしてマージが叫んだ。


「スターフレア!」


 すると上空から、火の玉が落ちて来てバケモノに降り注ぐ。


「ギャァアァァオオッ!」


 効いてはいるようだが致命傷にはならない。だが怯んでいる隙にビルスタークが足めがけて突進した。


 スパン!


 右の前足が斬れキマイラは体勢を崩す。そのままビルスタークは胴体に潜り、崩れ落ちて来た胴体を斬りつける。


「ぎゃぁぁぁぁおあおあおお!」


 腹の下がスパッと切れるが、それでも致命傷には至らないようだ。ビルスタークが飛びのいたところに、蛇の尻尾が飛びかかって来る。だがそこにアランが現れて、蛇の尻尾を切り落としてしまった。

 

 するとマージが叫ぶ!


「よくやった! 離れるんじゃ!」


 ビルスタークとアランが飛びのいたところで、マージが叫んだ。


「ファイアストーム!」


 次の瞬間、キマイラは炎の渦に巻き込まれた。周りには剣を構えた騎士が、キマイラにとどめを刺さんと待っている。


 ズズゥゥゥゥン!


 とキマイラが倒れると、ビルスタークが火に包まれたキマイラの獅子の頭に向かって剣を振った。


 シュパン!


 キマイラの獅子の頭が落ち、キマイラは完全に動きを止める。そして騎士達がマージの所に集まってきた。


「賢者様! この化物はいったい?」


「こんなものダンジョンの深部にいるような魔獣じゃ! なぜ降ってわいたのじゃろ?」


 すると門の外からぞろぞろと騎士が入ってきた。どうやら皆が傷を負っているようで、フラフラになりながら門の中に座り込む。そこにビルスタークとマージが駆けつけた。


「どうした!」


「都市は…都市が酷い事に。市民が…」


「なんだと!」


 そしてマージが言う。


「どきな!」


 マージが怪我人の中に立って叫んだ。


「エリアヒール!」


 すると周りの騎士達の傷が回復していく。


 一連の流れに俺は目を白黒させていた。するとアイドナが俺に告げる。


《マージはかなりの戦闘力があるようです。彼女を中心に戦術を立て直さねばなりません》


 だが悠長な事も言っていられないようだった。なんと門の上から巨大な魔獣がこちらを覗き込んでいる。


「な!」


 マージが絶句した。


「ファ…ファイアドラゴン…」


 その表情に俺は得も言われぬ恐怖を感じるのだった。あれだけの力を持つマージが、真っ青な顔をして立ち尽くしている。次の瞬間、その門の上から覗き込んでいた龍の口から火炎が吐き出されたのだった。

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