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第二百七十八話 王都潜入作戦

 三つの偵察部隊が無事に帰ってきた。そして、まずはジロンの報告を聞く。


「北側の裏門付近には人間の兵士がいました。どうやら、王都軍は籠城しているようです」


「籠城してるのか」


「門は固く閉ざされ、その周辺に兵が見張りを立てています。そしてこちらから、北門にかけてポツリポツリと騎士が居ました。数はそれほど多くはないようです」


「東から北にかけて手薄ってことか」


「そのようです」


 次はサムスの番だ。こちらは南の正門の方を偵察してきた。


「やはり、敵軍の多くはこちらにいるようです。そして、門は固く閉ざされており、ジロンの言うように籠城しているようでした。そしておそらく、門が破れないのは王宮魔導士の結界によるものです」


「なるほど、結界か」


 するとマージが言う。


「王宮魔導士も集まれば、そこそこの結界は張れるからね」


 そして俺にアイドナが言った。


《恐らくは、あなたの言う事を聞いて、王軍は西に進軍しなかったのでしょう》


 なるほど、オーバースが頑張った訳だな。


《そう推測されます。魔導士を用いた籠城は非常に良い判断でしょう》


 アイドナの推測は正しいだろう。もし、西へと派兵していたら、殺されて全滅していたかもしれない。あの時、オーバースに言った事が、王と貴族に伝わった証拠だ。


「オーバースは説得に成功したが、それ以上の打つ手が無くなっているように思う」


 俺の言葉に皆が頷き、最後に奥まで行っていたベントゥラが言う。


「そしてもう一つ厄介ごとがあるぜ」


「なんだ」


「あの巨大要塞が王都の西の市壁に、べったりくっついている」


「そんなところまで運んできたのか」


「そのようだ。そこから例の飛ぶドローンを出しているようだ」


「……何か目的があるのか」


 それほど近いところに大気圏突入ポッドがあるとなると、やはり爆破作戦は無理だ。敵の兵士よりも、王都の民と騎士に大きな被害が出てしまう。


「鉄の兵士はいたか? エルフは」


 すると三人とも首を振る。


「自分らを消耗させずに、人間の兵士を使って、王都の戦力を削ろうとしているのだろうな」


「戦闘には出たのでしょうか?」


「もちろん出ただろう。人間の兵だけだったら、王都の兵団が押し切るはずだ」


「なるほど」


 すると俺の脳内でアイドナが言った。


《あえて、攻め込んでいない可能性もあります》


 あえて?


《敵にも、押し切らなかった理由があるかと》


 もしかすると、あの……古代遺跡の雷を警戒している?


《その可能性が高いです》


 あれは……使えるという事か。


《未知の敵も警戒していましたし、特殊な魔獣を一掃できます》


 王都に侵入して、あれを奪還すればいいということになるな。


《ですが、大気圏突入ポッドの動向が気になります》


 先の都市をみながら、その攻略方法を考える。なぜ都市に、大気圏突入ポッドを密接させているのか。だが、大体の想像はつく。どうしようもなくなった場合、都市ごと吹き飛ばすつもりでいるのだろう。


《第一目標、大気圏突入ポッドの無力化。第二目標、王都への侵入。第三目標、古代遺跡の占拠と敵部隊の撃退》


 了解だ。


 そこで俺はみんなに、その作戦を共有する。すると、それを聞いていたビルスタークが言う。


「空のゴーレム、敵の監視、敵との接触をした後の処理。これが最重要課題だ。コハクのいう通りなら、既に敵が情報を掴んだ後の動きを、決めていると考えていい」


「伝達はさせられないという事か?」


「戦えば、空のゴーレムから見つかるだろうがな」


「なるほど」


《流石は、この世界での戦争に慣れている発言です。言う通り、敵は網を張っているかと》


 何をすればいいか?


 ビルスタークが続ける。


「何らかの方法で、オーバース様に接触する術があればいいのだが」


「なぜだ?」


「内部で騒ぎを起こしてもらえば、外でも動きやすくなる」


「なるほど……」


 するとそこで、ワイアンヌが手を上げた。


「なんだ?」


「マージ様が、動物を使役できるかと」


 だが直ぐにマージが言う。


「あれは難しいんだよ。あたしならまだしも、メルナにやらせるには今は無理だねぇ」


 皆が首をかしげるが、俺が次の案を言う。


「ここから投げればいいんじゃないか?」


 皆が俺を見る。


「な、投げる? なにをだ?」


「手紙を括りつけた石をだ」


「ここからか?」


「ここからだ」


「騎士達が何処にいるか分からんのだぞ」


「鎧は来てるだろう?」


「それは、そうかもしれん。だが一般市民にぶつかる可能性がある」


 しかし、そこでワイアンヌが言う。


「エクバドル王都の位置でしたら、直ぐに分かりますが?」


 皆がワイアンヌを見る。


「「「本当か?」」」


「主要な都市の地図を持ってます。私が測量した地図ですけど」


 それにマージが言った。


「この子の地図は、かなり正確さね」


 するとそれを聞いた、アイドナが俺に言った。


《使えます》


 俺がワイアンヌに言った。


「直ぐに見せてくれ」


「はい」


 そこにエクバドルの地図が広げられた。確かに、かなり正確な地図だった。それをアイドナが一気に読みこんで、演算処理により全ての位置関係を把握した。


「なんとかなりそうだ」


 そこでマージが言う。


「フィリウスや。出番だ、作戦を立てて、お前の名前で手紙を書くのさね」


「わかった。ばあや」


 そして俺達は、ここに来ている事と、俺達が行動を起こす日時、そしてこの手紙の内容に気が付いた、という合図を送りかえすように記した。


「どうかな」


「やるしかないさね」


「ワイアンヌ括り付けてくれ」


「はい」


 ワイアンヌがその手紙を、魔石に括り付けて鉄の線でぐるぐる巻きにした。その塊を俺に手渡しして来たので、俺は一度鎧を全て脱ぐ。音をたてないようにする為だ。


《瞬発龍撃、超感覚予測、閃光一閃を発動》


そして俺が構えをとる。


《射出速度、射出角度、射出方向を調整》


 ガイドマーカーが表示され、王都の方角に向けて調整した。


《目標。王城二階の作戦室》


 全ての準備が揃う。


《投擲》


 シュッ! 俺の手から離れた、魔石を包んだ手紙が王都に向けて飛んで行った。そして俺はすぐに鎧を着て、何が起きても良いようにスタンバイする。


「飛んでは行ったが」


「到達したはずだ」


「音がしないから、分らないな」


 それからは、一旦様子を見るために皆が王都を眺めていた。だがそれから一時間も絶たずに、その答えが見えた。王城の市壁の上に、カンテラを持って動く騎士が見える。こちらに知らせるようにではなく、ただ歩いてすれ違うように。


「通った」


「よし! 直ぐに作戦開始だ!」


「「「「おう!」」」」


「確認するぞ! 風来燕と俺は敵要塞に向かう。他の全部隊は、ビルスタークの指揮の下、北門を制圧して進入の準備だ。俺達からの合図を待て」


「「「「おう」」」」


「敵は、皆殺しにする必要がある」


 それにフィリウスが言う。


「もとは、同じ国の騎士だが?」


「だめだ。その余力はない。他に伝播させるな」


「わかった。容赦はしない」


 そして俺達が闇に紛れた。大きく迂回して、西側にある大気圏突入ポッドをめざす。道なき道を進み、大きく迂回して大気圏突入ポッドが見える位置に付いた。


「どうかねえ」


ボルトが言う。


「いや、オーバースはやる。王軍を西にやるのを留めた男だ。こちらの手紙にも、直ぐに答えてくれた。必ず動く」


「随分、あの将軍を信頼してるな」


 ……確かになぜだろう? なんの可能性があるわけでもない、確率としてはそれほど高くないかもしれない。なのに、なぜか俺はノントリートメントのように、オーバースを無条件で信じてしまっている。


《それでも、相手はノントリートメントです》


 いや、大丈夫だ。


 それは、何の根拠もない確信だった。


 だが、たぶんアイツは絶対に動く。


 そして俺らが、大気圏突入ポッドとにらめっこをしていると、ガンガンガンガン! と王都の方から、けたたましい音が聞こえて来たのだった。


「本当にやりやがった!」


「行くぞ!」


 そして俺達は大気圏突入ポッドを囲んでいる騎士達に向かって、草むらの中を突撃していくのだった。


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