第二百七十七話 燃え上がるエクバドル王都へ
本来アイドナは、王都に急行すべきだと言っていた。だが、それを捻じ曲げてパルダーシュに行った。それは悪い事ばかりでもなく、青備えの数をそろえる事につながる。次々来る難民の対応もままならず、まともな体制を整える暇もない状態だが、すぐに王都に向かう必要があった為、俺達は王都に向かう為の青備え部隊を編成した。さらにプルシオス王子から状況を聞き、よりその緊急性が増したのである。
「私も行く!」
プルシオス王子が言い張るが、それにはフィリウスが答える。
「いえ。王子、あなたはまだ体が回復していません。何かあれば王家の存続にかかわります」
「しかし!」
するとシュトローマン伯爵が言う。
「殿下。パルダーシュ卿のおっしゃる通りでしょう」
「な、ならば。近衛をつれていけ」
「だめです。王子を守る者が必要です」
そこで俺が言った。
「急がねばならないのです。王都にある古代遺跡、敵はあれを狙って来るでしょう」
「古代遺跡?」
「あれと動く要塞は同じものなのです」
「同じもの……あれは君がどうにかしたんじゃないのか」
確かにそうだ。アイドナが、書き換えを行いこちらに操作権限を移し替えた。だが、大気圏突入ポッドよりも、はるか旧世代の生体動力を積んでいると予想された。それは、かなり巨大で、あれが爆発すれば王都どころかその周辺まで消滅してしまうだろう。
「いえ。完全ではありません」
「なら私も行かねば」
それにはフィリウスが答える。
「むしろ、ここをお願いしたいです。周辺の領から来た人々を導く人が必要です」
「……わかった」
そして俺はすぐに、ヴェルティカとシュトローマン伯爵にも言う。
「王子を支えてくれ。俺達は王都へ急行する」
「わかりました」
「コハク! 皆も! 無事に帰ってきて!」
「そのつもりだ」
「お兄様! コハクをよろしくお願いします!」
「無茶はせんように見張っておくさ。私が止められるかは疑問だがな」
「それでも!」
「わかったわかった」
そして、フィリウスが王子に向かって言う。
「最善を尽くします。ここで国民をお守りください」
「こちらも最善を尽くすようにするよ」
そしてアーンがプルシオス王子に、ギュウっと抱きついて言った。
「ウチが帰ってくるまで、元気でいるっぺよ!」
「……わ、わかったよ」
チュ!
「な、なななな!」
「なんだっぺ?」
「なんでもない」
「帰るまでお預けだっぺ!!」
「お預け……」
そして、リンセコートの青備えの精鋭とパルダーシュの青備えの精鋭、総勢七十五人を引き連れ、俺達はすぐに王都に出発した。まだこのあたりには人がたくさんいて、馬の速度を上げる事が出来ない。その走る馬の上で、レイがビルスタークに話しかけた。
「団長殿! また一緒に戦えて光栄です!」
「随分腕をあげたな」
「自分は剣を見せておりませんが」
「気配で分かるさ。鍛えたのは……コハクか?」
「その通りであります」
「ふふっ。あれに鍛えられて弱い訳はない」
「おかげさまで。ひとえに、コハク様の元に行けと言われた、フィリウス様の采配によるもの」
するとフィリウスが言う。
「いや。私は、ヴェルが心配だっただけだ」
「は!」
「……ここまで、ヴェルを守り通してくれた事には、感謝している」
「すべては、コハク様のおかげです」
そしてフィリウスが俺に言う。
「コハク! 全ての采配はお前に任せる! 私も駒として使え!」
「わかった。状況を見つつ配備させてもらう」
「そうしてくれ!」
俺、メルナ、アーン、ワイアンヌ、風来燕、レイ以下四人の騎士、フィリウス、ビルスターク、アラン、の十五人。パルダーシュの騎士二十名、リンセコートの腕っぷしの強い騎士二十名、ドワーフ騎士二十名の総数七十五名の隊になった。全員が、オリハルコンの強化鎧を身に着けている。
そして森を抜ける途中、重機ロボット二機をピックアップし、急いで王都に向けて走り出した。既に三機の重機ロボットを、最初の大気圏ポッドとの戦いで失っているため、残りはこの二機だけとなってしまったのだ。
「あれは、馬にもついて来るのか」
「そうだ」
重機ロボットは四本脚歩行の形態にもなれるが、アイドナが早く走れるようにプログラミングを施したのである。そのおかげで、馬と同等の速度で走り続ける事が出来るようになった。人々の列を抜け、俺達は速度を上げた。森を抜け草原を駆け抜け、シュトローマン伯爵領を走り抜けて、西へ西へと走る。
《手動で生体動力を起爆されたら、その影響ははかり知れません》
わかっている。だがそれでも、パルダーシュが先だったんだ。
《非効率ではありましたが、部隊は揃いました。今は、王都が無事かどうかが重要です》
丸一日、俺達は走り抜けた。峠を越えたところで、王都が見えてくる。既に陽が沈みそうになっており、夕日に照らされた煙を上げる王都があった。俺達は、馬を止めて眺めている。
それを見てベントゥラが言う。
「随分酷いありさまだ」
そしてボルトが俺に聞いて来る。
「正面からですかい?」
「到達時間を優先すればそうだが、迂回して草原を抜けて行こう。すぐ夜の闇が来るが、敵のゴーレムは夜目が効く。街道沿いを進めば、察知される可能性が高い」
「また、あれをやるのか?」
「いや、あれは味方を巻き添えにしてしまう可能性がある」
「同じ様にはいかないという訳か」
「情報が少なすぎる」
そこでまたベントゥラが言う。
「手分けして視察する必要があるなあ」
「五人小隊を三隊ずつ、十五人の中隊レベルにして、隊を五つに分けていこう。それぞれに特性を持たせる。ベントゥラの隊とサムスの隊とジロンの隊は先行して情報を収集しろ。アーンとガロロのドワーフ隊は守りに徹する。メルナとフィラミウスは騎士達を護衛につけて後方待機。俺とレイとビストの隊、フィリウスとビルスタークとアランの隊が主力の攻撃部隊として動く」
俺の指示に皆が頷いた。そして西に陽がおち、あたりが薄暗くなり、俺達は草原に身を隠して進んだ。夜になれば、より一層王都が燃えているのが見て取れる。プルシオスが言った通り、ドローンに街を焼かれているのだろう。その時、エックス線透過とサーモグラフの視界により、空に浮かぶドローンがハッキリ浮かんだ。俺はメルナを連れて、ベントゥラ、サムス、ジロンの隊に行く。
「空にゴーレムだ。あれは、温度を識別する。マージ! 彼らの鎧を凍らせることは出来るか?」
「出来るさ。だけど、ちょいと中も冷えるさね」
それにはベントゥラが言う。
「見つかるよりマシですぜ」
「なら、メルナ冷却魔法だよ」
「うん」
そしてマージが言うように詠唱をして、十五人が一気に冷やされる。ベントゥラが俺に言った。
「じゃあ、コハク。馬は置いて行く」
「わかった」
「みんな。行くぞ!」
「おう!」
「先行しても、敵との接触は避けろ。くれぐれも、情報を持ち帰る事だけを考えてくれ」
「了解」
そしてマージが言う。
「冷却魔法はもって、せいぜい一時間だよ。その前に戻る事さね」
「「「わかりました」」」
俺達が潜伏する深い草むらの中から、十五人が先行して先に進んでいく。
その間も俺は、ドローンの動向を確認し、何かあればすぐに動けるように待機するのだった。