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第275話 死にかけた敵兵、そして土木作業

 俺達が先に進むと、なぎ倒された森の木々が見えて来る。かなり広範囲に火が広がったようだが、黒い雨によって全て鎮火していた。


《数人のノントリートメントがいます》


 先に数人が、座り込んだり寝ているのが見える。


 敵か?


《データから、森の入り口で見張りをしていた兵士です》


 生き残ったか。運がいいな。


 そして馬に乗った俺が手を上げて、皆を止めた。


「残存している敵がいる。数は多くないが、そのつもりで対応してくれ」


「「「「おう!」」」」


 警戒しながら進んでいくと、俺達の馬に気が付いて敵がよろめきながら立ち上がる。その数は十人にも満たない。そいつらは、俺達に気が付いて、散り散りに逃げ惑い始めた。


《あれは、使えます》


「敵を捕らえろ!」


「「「「おう!」」」」


 俺達はすぐさま散り散りになった兵士達を追いかけ、動きを封じていく。馬に囲まれたそいつらは、手を上げて降参の意を表明しているようだ。


「た、助けてくれ!」


 一人がようやっと、必死の形相で叫んだ。


「ならば、全員膝をつけ!」


 俺に言われるままに、敵兵は膝をついた。


「抵抗はするな」


「しない」


 完全に戦意を喪失しているようだった。


《脅しが効果的です。ですが、まずここに生き残った者は、そう長くはもちません》


 どうなっている?


 そしてアイドナがエックス線透過で、そいつらの体の状況を知らせて来る。


《重度の火傷、肺の火傷、網膜損傷、他にも怪我があります。治癒をお勧めします》


「ワイアンヌ、回復薬を出してくれ!」


 ワイアンヌが俺に回復薬を渡し、そこに座っている敵兵にそれを配っていく。


「これは、毒か?」


「違う。回復薬だ」


「回復薬。なぜ?」


「まずは、つべこべ言わずに飲め」


 そう言って俺は剣を引き抜き、そいつらに突き付ける。するとそいつらは、震える手で蓋を開けて回復薬を飲み干した。その事で体内の損傷と、皮膚の火傷がある程度回復する。


「はあはあ。息が……出来る」

「肌が、治った」

「目が……見える」


 そいつらは、不思議そうな顔で俺を見る。


「な、なぜ……」


「よく見ろ。この惨劇を」


「「「「……」」」」


「ここだけで起きている事ではない。いずれは、お前達の国内でも起きる」


「な……」


「お前達は、何と手を組んだのか分かっているのか?」


 流石にこれに直面して、自分達の過ちに気づいた者もいるらしい。そいつらは顔を合わせ、理解が出来たような顔をした。


「爆発したのは、お前達が連れてきたあの要塞だ」


「……そう……なんだろうな」


「間違いない。我が領でも爆発して同じことが起きた」


「なんだって! ……そうか……」


「お前達は何故、あれを連れてきた」


「わからない。上の判断だ。我々は斥候として連れて来られた」


《嘘は言っていません。この状況では、嘘が無意味と分かっているようです》


 だろうな。表情を読み取っても分かる。


 そして俺は剣を納め、そいつらと同じ高さまでしゃがみ込み、鎧の顔の部分を晒す。


「俺達は同じ人間だ。だが、お前達が連れてきたあれは違う」


「そう……なのか?」


「そうだ。あれはこの世界の者じゃない」


「そうだろうな。そうでなければ、こんな事にはならない。魔法でこれが起こせるとは思えない」


 もちろん爆発を誘発させたのは俺だが、それは伏せておくことにする。


「そのとおりだ。お前達は悪魔を引き込んだんだよ」


 その事実を突きつけられて、皆が愕然としている。


「ここに、どのくらいの人間がいた?」


「一万五千」


「残りは?


「パルダーシュに五千いる」


「お前達は、そんな大部隊で敵国に進軍する事を、おかしいと思わなかったのか?」


 すると他の奴が答える。


「おかしいと思ったさ。国防はどうするんだとな」


「ゴルドス国はそれほど大きな国じゃない。二万の将兵を連れて来て、国がもぬけの殻。そして、あの鉄の鎧の奴ら。それが空っぽになった、お前達の国にいるんじゃないか」


 それを聞いて、また他の奴が苦しそうに呟く。


「国を……国を人質に取られているようなものか……」


「そう言う事だ」


 全員がこぶしを握り、苦渋の表情を浮かべる。自分達が前にも後ろにもひけない状況にある事が分かり、更に国に残して来た人間の事でも思っているのだろう。真後ろにあるクレーターが、その悲痛な思いに拍車をかけているのである。真っ黒になった、そいつらはただ俯き、そして誰からともなく、嗚咽を漏らし始めた。


 そこで俺が言う。


「泣いても始まらん。お前達の戦友はもう帰って来ない」


「ウウウウウウ……」


「それで、お前達はどうするつもりだ? ここで待つか、パルダーシュに戻るか」


 だが誰一人として答えようとしない。恐らくは、考えがまとまらないのだ。ようやくそのうちの一人が、ぽつりと口にした。


「あなた方は、我々を見逃すというのか?」


 そして俺はフィリウスを見る。するとフィリウスが、俺の隣りに来て言う。


「私は、パルダーシュ領主、フィリウス・パルダーシュである」


「あ、あなた様が……」


「君らを逃がす代わりに、条件がある。数日以内に、パルダーシュを放棄し兵を引かせろ。さもなくば、我が国の精鋭がパルダーシュに駆けつけ、皆殺しにすると。国軍を一万も減らし、残った兵で進軍する事は出来ないはずだ」


「わかった! 伝える! そしてこの現状を伝える!」


「徒歩ではここから数日かかるであろう。その分の食料を分け与えてやる」


「なんと……慈悲深きお言葉」


「慈悲などではない。交渉だ」


「わかりました」


 そして俺達はそいつらに、食料と水を渡した。俺が付け加える。


「この穴は下におりるな。穴を迂回していくんだ」


「わかりました」


 そして敵兵たちは、何とか立ち上がり食料を持って行ってしまった。


 それを見てボルトが言う。


「悲惨だな」


 フィリウスが頷く。


「ある意味。我々より酷いのかもしれん」


「そのようですなあ」


 そこで俺は、切り替えるように言った。


「さて、早速ワイアンヌの案をやるぞ」


「「「「おう」」」」

「はい」

「わかったっぺ!」

「うん!」


 それから俺達は川を目指す。ワイアンヌの記憶は間違っておらず、ほど近くに大きな川が見えてきた。


「よし。まず俺のジェット斧と、ガロロの爆裂斧で溝を掘り進めるぞ!」


「うむ!!」


 鎧に魔力を流し、二人で川べりからクレーターに向けて溝を掘りだした。


 そしてマージが言う。


「メルナ、フィラミウス! 魔石を補充して魔力を強化しな」


「うん」

「はい」


「川を堰き止めるんだ」


 魔法で作った岩が皮を堰き止め、水の侵入を防いだ。


「掘り進んだ後から、土魔法で水路を作っていくよ」


 俺達の後ろから、二人が水路を固めていく。昼頃までその作業を続けていると、ようやくクレーターの縁のあたりまでやってきた。


「ふう」

「はあはあ」

「骨が折れるわい」


 メルナとフィラミウスが腰を下ろし、ガロロが斧を杖にしてもたれ掛っている。


「ベントゥラ。魔力回復薬だ」


「おうよ」


 メルナとフィラミウスの魔力が、ある程度回復した。再び川に行ってマージが言う。


「よし。堰き止めた岩をどかすさね!」


 メルナが魔法を行使し、堰き止めた岩を取り除くと、勢いよく水が流れてきたのだった。


「きたきた」


「こんな所に沼が出来てしまった」


 フィリウスが呟くと、アランが言う。


「お館様。この周りに人が住み着くかもしれませんね」


「魚でも取れるようになればいいのだがな」


「そうですね」


 ちょろちょろとクレーターに流れ出す水を見て、俺達はつかの間の癒しを得るのだった。

 


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