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第二百七十話 進行してくる謎の集団

 宇宙から落ちてきた大気圏突入ポッドを一基、機能停止に陥らせて、俺達は次の行動に移る。回収した商人の馬車に、動きの遅い老人や子供を乗せ、騎士団が引きながら歩ける市民には歩いてもらう。


 そして俺が、シュトローマンの騎士に告げる。


「リンセコート領に落ちた星の奴らは片付けている。市民を守りながら村まで行け!」


「は!」


 市民達が列になって歩くのを俺達が見送り、殿の騎士が過ぎ去る頃には既に日が落ちかけていた。夜の行進は魔獣の危険があるが、青備えが森に控えており、二機の重機ロボットが稼働している。


「無事についてくれるといいな」


「ああ。そして、この先がさらに問題だ」


「左に行けば王都、右に行けばパルダーシュ辺境領と細かい男爵領群か。どうすんだい?」


「もし、ヴェルティカの書簡が届いていれば、フィリウスは動くだろう。だが王都はその可能性が薄いかもしれん。とはいえ何とかするとすれば、戦力的に考えて王都だろう」


 するとボルトが、にやりと笑って言った。


「俺はさ、こんな時くらいコハクがやりたいようにでいいと思うぜ」


「やりたいように?」


「んだってよ、奥さんのアニキになんかあったらいやだろ。あんな壊滅的な領の状態から、回復させたってのもあるしよ、それに俺達としてもそっちだなって」


 その、ボルトの言葉で、何故か俺の胸のあたりが疼く。


《数の多い王都の兵を出来るだけ生還させて、ミスリルの鎧を供給する事が優先かと》


 アイドナは効率を考え、王都の方を選ぶようだ。

 俺は……。


 なぜだろう? アイドナが言っている事が正しい。戦力を出来るだけ多く確保し、来たる戦いに備えるというのは間違っていない。俺自身は演算処理をしてるわけでもないが、そのくらいのことは分かる。


 だが……。


「パルダーシュに向かう」


 俺は非効率の方を選んだ。自分でも良く分からない。


「よっしゃ」

「おう!」

「いいぜ!」

「いいと思うわ」


 風来燕が賛成する。だが、そこでマージが口を挟んだ。


「来たる戦いに備えるのならば、王都の兵団を確保する方が優先さね。そこに私情をはさむのかい? コハクらしくもないねえ」


「分っている。だが、俺は……俺はそうは思わない」


「ほう……そうかい」


 そしてメルナが、俺の腕を掴んで言った。


「ヴェルのお兄ちゃんを助けてあげて」


「メルナ……」


 そして俺はアーンとワイアンヌを見る。するとアーンが頷いた。


「ウチはもちろんお師匠様に合わせるっぺ!」

「アーン様がおっしゃるのなら、私もそちらへ」


《非常に効率が悪く、リスキーであると判断します》


 いや。決定事項だ。


《では、その動きで再計算。演算処理により最適解を提出します》


 そうしてくれ。


 すっかり陽が落ちる頃、おれは全員に告げる。


「北へ!」


「「「「おう!」」」」

「うん!」

「わかったっぺ!」

「はい!」


 全員の了承を得て、北へと進む事にした。この先では一度、盗賊に化けた騎士達を退治した事がある。もしかすると、また同様に敵が侵入してきている可能性はある。


 暗くなりつつある道だが、メルナの魔法で光の玉が俺達の騎馬隊を先導した。道が明るく照らされ、青い鎧をまとう馬の集団が走る。光を浴びて、皆が青白く輝いており、上空から見れば青い光の玉が進んでいるようにも見えるだろう。


《パルダーシュ領まで、この強化鎧を着た馬なら、一日で到着します。ですが、途中の男爵領などが攻撃されている場合はどうされますか?》


 パルダーシュ最優先だ。


《では、馬を綱でつなぎ、魔導士を馬上で休ませてください》


 わかった。


 そして俺は手を上げて騎馬隊を止める。そこで、振り向いて言った。


「休みなしで行くが、戦闘時に魔導士が使えなくては意味がない。フィラミウスとメルナは馬上で睡眠をとらせるから、誰かの馬に乗れ。人が乗らない馬は、綱で引いて行くことにする」


「「「「おう!」」」」


 そしてメルナを俺の馬に、フィラミウスがアーンの馬に乗った。二人の手を、騎手の胴体に括り付けて落ちないようにする。


「行くぞ。眠り辛いだろうが、それでも休んでくれ」


「うん」

「わかったわ」


 魔導士二人を休ませつつ、俺達は少しペースを落として走り続ける。馬用の強化鎧のおかげで、馬たちもそれほど疲れてはいないようだ。むしろ補助的に稼働しているので、疲れは半減するはずだった。


 そうして、いくつかの峠を越えた時。斥候として先行している、ベントゥラが馬を止めてその先を見ている。そして振り返り、カンテラを振って合図をしてきた。


「どうしたんだ?」


「さあて」


 そして俺達がベントゥラのところに行くと、そこに予期せぬ光景が広がっていた。峠から見下ろす遠い道に、何処までも続いてる光の列が見えたからだ。そこでアイドナが、暗視の力を俺の目に施した。


 松明だ……。


《ノントリートメントのようです》


「あれは松明の灯りだ。なにかが大勢こちらに向かってきている」


「どうする?」


《二通り考えられます。一つは敵国に突破されて、軍隊の侵攻を許してしまった。もう一つは、こちらから送った書簡の意図を理解し移動してきている》


 そこで俺が言う。


「あれが、敵か味方か分からん。俺が先に行って見て来る。ワイアンヌ! 合図の光り筒を!」


「はい」


 そして、ワイアンヌから道具を受け取る。


「気を付けてね! コハク!」


「ああメルナ。大丈夫だ」


 そして俺は馬を蹴り、一気に松明の列に向かって走り出す。


 敵軍が侵攻していて、マキナ・ユニットなるパワードスーツが来ていたら非常に危険だ。


《その場合は、パワードスーツのみを狙って撃破し、離脱してください》


 ああ。


 俺は炎剣に手をかけて、一気に峠を駆け下りていく。


《戦闘シミュレーションを表示、大量破壊の炎剣を使って人間兵を凪払い、目的の敵へ突撃します》


 了解だ。


 アイドナが数種類の戦闘パターンを表示して来た。だがその時……。


 ピィィィィイ! と笛の音が鳴り響いた。見れば、松明の列が足を止めている。近づく事で、アイドナが更に拡大して相手の確認をした。


《武装をしている者と、していない者が混在しています》


 そこで俺は馬を止める。


 どういうことだ?


《市民の可能性が高いです》


 そして俺が目を凝らしていると、先頭の馬の奴がカンテラをぐるぐると回していた。


 敵じゃない?


《近寄って確認してください》


 俺はそのまま真っすぐに、その松明の列に向かって走った。俺にも見えて来たのだが、騎士と市民が混在している列だった。少し距離を置いて俺が、そいつらに聞いた。


「お前達は何者だ!」


「そ、そちらは?」


「我の名は、コハク・リンセコート男爵!」


 それを聞いた市民らが、一斉にワッと声を上げる。


「助けてください! リンセコート様が何とかして下さると聞いて来たのです!」


「なに」

 

 そして俺は、そこに行って集団を良くみてみる。すると女子供もいて、騎士達が守ってきたようだ。


「お前達は何だ?」


 騎士が答える。


「各男爵領、そしてパルダーシュ辺境伯領の市民でございます! 私はネル男爵の騎士!」


「逃げて来たのか?」


「は! ゴルドス国が侵攻しており、パルダーシュが陥落寸前。ですがその前に辺境伯様が、市民と騎士達を逃がし、我々は一団となってリンセコート領を目指していました」


「パルダーシュが……陥落寸前……」


「はい」


 俺はワイアンヌの筒を取り上げて、一本のひもを引っ張る。ピューンと音を立てて、光る青い球が夜空に舞い上がった。それを見た仲間達が、青い光となって峠を下って来るのだった。

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