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第二十六話 前触れ

 屋敷に戻った俺はすぐにマージの所に行き、ヴェルティカは現状を父親に報告してくると言って本邸に向かう。俺がマージの小屋に入っていくと、メルナが俺に飛びついて来る。


「お帰り!」


 随分、懐かれてしまったようだ。当初は生存率を上げるために、一人でも多く身辺の人間を確保しようとしていただけだった。だがメルナが俺に感じる思いは全く違うらしく、裏表なく接してくるようになっていた。


 マージが聞いて来る。


「街はどうだったかの?」


「非常に興味深い。ちょっとした争いはあったが、それよりももっと興味深い話が聞けた」


「ほう、どんな?」


「ヴェルティカと冒険者ギルドに行った。すると中年の男と面談になって、そいつからいろいろと話を聞いたんだ」


「おや? そりゃギルドマスターだね。ヴェルが身分を明かしたのかい?」


「そうだ」


「何を言ってた?」


「こっちから聞いたんだ。辺境の村の話を」


「ヌベの村の事かい?」


 流石は賢者と呼ばれるだけあって察しが良い。


「ああ」


「どうだった?」


「ギルドで調査しているようだが、今だ原因がはっきりしていないらしい。前日までは普通に村があり、次の日には壊滅していたそうだ」


「なるほど…」


 マージは考え込むような仕草をして、俺をジッと見る。


「なんだ?」


「なんでコハクはギルドなんかに行ったんだい?」


 なるほどそれが疑問だったか。素粒子AIの事以外なら、別に理由を話しても差し支えないだろう。


「危険な情報を先に察知できるなら、出来るだけ早く耳に入れておきたいと思った。他の領では魔獣が出て、治安も悪くなっているらしいからな。いつ自分達の身にそれが降りかかるかわからんだろう」


「ごもっともだね。それで何をするつもりだい?」


「常に備え準備をする。それだけだ」


「面白いねえ! やっぱりコハクは面白い」


「そうか?」


「まあそんな事を考えるのは、普通は領主の仕事だからねえ」


「だが領地が違うから手を出せないのだろう?」


「依頼が来てないからねえ。というか、ギルドでもお手上げで、状況がはっきりしない以上は手の出しようが無いというのが正しいかね」


「そのようだな」


「まあ今のところはどうしようもないってことさね。まあ晩御飯でもこさえるとしよう」


 そう言ってマージは台所に行った。メルナが俺の側に座りジッと俺を見ている。


「どうした?」


「ううん。なんかいろいろ考えてるんだなって」


「世の中分からない事だらけだよ」


「うん」


 外も暗くなり、星が瞬きだした頃マージの料理が出来上がり、俺とメルナが皿を並べたりと食事の準備を進める。ちょうどそこにビルスタークがやってきた。


「失礼します!」


「おや、なんだい?」


「今日はコハクが、我々の代わりに荒くれ者を制圧してくれました。お嬢様を守ってくれた礼を言いにまいったのです」


 どうやらアランも連れてきており、数人の騎士が並んでいる。今日の当番だった者らしく、自分達の目の届かないところでの出来事に感謝を言いに来たと言うのだ。なぜそんなことをするのか理由は分からないが。


「コハク。お礼だってさ」


「ああ」


 俺が玄関に行くとアランが言う。


「団長から聞いた。お嬢様と店を助けてくれたそうだな」


「たまたまだ」


「今日は俺達が当番だったんだ。被害が出る前に事を収めてくれてありがとう」


「皆、大変な仕事をしているんだなと実感した」


 するとアランの横からビルスタークが言う。


「まあ仕事だから当たり前だ」


「そうか」


 するとビルスタークが改まってマージに向かって言う。


「そこで賢者様も含めお願いしにきたのでございます!」


「なんだい? 改まって」


「は! コハクに騎士団に入団していただきたいと思います!」


 マージが俺を見て言った。


「それはコハク次第さ。あたしゃ何の権限もないよ」


「そうでありますか! ならコハク! 騎士団にこないか? 返事を貰えれば、俺がお館様に直談判をしよう!」


 なるほど、それはありがたいかもしれない。この屋敷で安全を確保しつつ生きる名目が出来る。


「ぜひよろしくお願いしたい」


「そうか! 二言はないな!」


「ない」


 すると騎士達が俺に手を差し伸べてきた。どうやら握手を求めているらしい。


「ありがとう! よろしく頼む!」


「ああ」


 そして騎士団は用を済ませると、足早に立ち去って行った。マージが俺に言う。


「さあさあ。冷めちまわないうちに食べておくれ」


「ありがとう」


「おや。礼儀正しいねえ」


「さきほどビルスタークとアランが言っていた。騎士団に入るからには見習わねば」


「いい心がけだ」


 そして俺達が晩飯を食い洗い物を済ませる。するとマージがメルナを呼び、何かの本を広げて説明を始めた。それを見た俺はマージに言う。


「俺もいいか?」


「あんたは聞いても、魔力が一切ないから意味がないかもしれない」


「かまわない」


 そして俺は座り、メルナの横で話を聞く。すると魔法に関しての原理原則のようなものの話だった。魔力、詠唱、魔法陣、イメージの総合で魔法が発動するらしい。ただし俺がいくら詠唱、魔法陣、イメージをしたとしても、魔力がゼロなので何も出来ないらしい。ゼロ×1はゼロなのだ。


 しかし俺の意図は他にあった。マージが本を読めば、瞬間的にアイドナが演算処理をして文字を覚えてくれる。俺の行為は文字を覚え読めるようになるのが目的だ。


「メルナはとっても呑み込みが早いねえ。どんどん吸収していく」


「凄いなメルナ」


「えへへ」


「それじゃあ、私が魔法陣を書いてやるから魔力をながしてみるといい」


「うん」


 マージが紙にさらさらと幾何学的な絵をかいて、メルナの前に差し出す。


「言葉は簡単、燃えよ。でいいよ」


「うん」


 そしてメルナがその紙に手をかざし、言葉を発する。


「もえよ」


 ボウッ。と紙が一瞬で燃えて消えた。


「わっ!」


「どうだい?」


「凄い」


 それは俺にも信じられないものだった。目の前の紙が命ぜられるままに燃えたのだ。


 どういうことだ?


《パイロキネシス、超心理学でいうところの超能力でしょうか? 恐らくは思念の力とそれを引き出す媒体の効果だと思われます。ですがこのような事は、前世ではありえない事です。》


 凄いな。


 俺は興味が出て来てマージに聞く。


「メルナはもっと魔法が使えるようになるのか?」


「もちろんさ。修練あるのみだけどねえ」


「なるほど」


 メルナが更にこの力を使いこなす事が出来れば、俺の生存率も高まるだろう。メルナも自分の力に驚き、そして喜んでいるようだ。


 だがその時、マージが唐突に立ち上がった。


「ん?」


「どうした?」


「何か…変だねえ」


「なにがだ?」


「いや…嫌な感じがする」


 そしてマージが窓を開けて外を見る。


「風が全くないし、嫌な匂いがするよ」


 正直な所、俺には何の臭いもしなかった。俺はメルナに聞く。


「メルナは何か臭うか?」


 するとメルナは首をフルフルと横に振る。


「何かの気運が乱れているようだ。おかしな感じだねえ…」


 マージが窓から離れると、玄関を開けて庭先に出る。そして夜空を見上げて首をかしげていた。俺達も外に出て夜空を見上げるが、何もない曇り空のような真っ黒な空だった。


「大気が止まった…」


 マージが言うも何の事か分からない。


「何を気にしているんだ?」


「しっ!」


 マージが集中して空を見ている。するとその時、夜空に一筋の雷が走った。


 ピシャッ! ゴロゴロゴロ!


 メルナが思わず俺にしがみついて来る。


「大丈夫メルナ。雷だよ」


 だがその直後から、薄っすらと空に赤みがかかってきた。


「これはいけないねえ…」


 それは俺の目から見ても異常だった。空が赤く輝きはじめ、赤と黒の雲が空に渦巻きを作っていく。


「ちょっとガイロスの所に行くよ! メルナは魔導書を持って来ておくれ!」


 マージが珍しく焦っていた。メルナが本を持ち戻ってきて、俺達はマージに連れられ本邸へと向かって行く。その間も空は異様にうねり、ところどころに赤い火のようなものを浮かべ始めるのだった。

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