第二百六十八話 死角ゼロの鉄の棺
突然の遭遇に、俺達の隊が止まると、シュトローマン伯爵の方から話しかけて来る。
「リンセコート卿! よかった!」
「大丈夫ですか!」
「正体不明の敵に襲撃を受けました! だが、その脅威たるや凄まじいもので、騎士達を殿にして生き残った市民達を連れて来たのです」
「こちらにも現れましたが、迎撃いたしました」
「なんと……」
「あれは、恐らく各都市に落ちてます」
「お、恐ろしい……」
見れば、シュトローマン伯爵の馬の後ろに、ずらりと市民達が歩き連なっていた。馬車にはシュトローマンの家族も乗っているようで、見れば怪我をしている者もいるようだった。
「シュトローマン卿。我が領では受け入れの準備がある! このまま、領に向かわれたし!」
「コハク殿は、どちらへ?」
「貴殿を救出に向かうところでした。その足で、パルダーシュに向かいます!」
「なんと……では! わたくしめも、お供しましょう! 市民は妻に任せ……」
だが、俺の脳内でアイドナが言う。
《足でまといです》
だな。
そこで俺は、シュトローマンに告げた。
「いえ、伯が居なくなれば、領民が不安になるでしょう。シュトローマン卿を筆頭にして、我が領へ向かってください。我が妻が待っていますので、どうかそちらへ」
「しかし」
「今は、一刻を争います。話し合いは時間があるときに」
「わかりました。では、私は領民を連れてまいります」
そして俺はピィィイと口笛を吹いた。すると、森の中から、青備えの騎士がぞろぞろと出て来る。万が一の侵攻に備えて、領内の各地に潜ませているのだ。
「救出部隊を連れて来い! 回復薬を忘れるな」
「は!」
俺達はその騎士に、シュトローマン領の市民達を預け、先に進むことにした。
「では伯爵。我々は先に進みます」
「わかりました。御武運を!」
俺達は市民の横を、馬で走り抜けていく。かなりひどいありさまのようで、もしかすると領に辿り着く前に死ぬ人も居るかもしれなかった。
《領民の総数からすれば、僅かでしょう》
どれだけ助けられるか……。
長い市民の列を横目に、俺達はシュトローマン領内に入り込む。するとあちこちで煙が上がっており、戦闘が行われた跡が見て取れた。
ダダダダダダダ。と銃声が聞こえてくる。
「続け!」
「「「「おう!」」」」
俺の馬を先頭に、音がした方角に向かって走った。するとそこら中に、騎士や市民の死体が転がっていて、血の臭いが蔓延していた。その先に、どうやらキメラ・ユニット……パワードスーツがいる。
「全隊は市民の護衛に! 俺は単独で突っこむ!」
「「「「おう!」」」」
馬は一気に、煙が上がっている方向へと進んだ。住宅があちこち壊されており、死体が転がっている。
《完全な身体強化を行います》
やってくれ。
《馬を乗り捨ててください》
そして俺は馬を止め、飛び降りて、戻るように仕向ける。
《無意識回避、時間知覚拡張、超感覚予測、空間歪曲加速、金剛不壊、瞬発龍撃》
それは俺の身体を強化するとともに、鎧の魔法陣に多くの魔力を送り込んだ。そのせいで、青い鎧が一瞬まばゆく輝き、光を落としていく。
《先の戦闘での予測演算は終了しています。パワードスーツの解析により弱点も完全網羅、性能は全てこちらのデータにあります》
了解だ。
ブン! 空間歪曲加速によって、俺の体が瞬時に最初のパワードスーツの脇に出る。まだ数名の騎士が隠れながらも交戦しているようだが、殆ど残ってはいないようだ。
《ミスリル鋼では、銃撃を防げないようです》
そうか。
パワードスーツの周りには、すでにアイドナがガイドマーカーを巡らせており、攻略法が網羅されていた。俺は光鞭をそいつに向けて差し出し、先から出た光鞭のワイヤーが隙間に入り込ませる。そして手元のスイッチを押した。
パシッ! そのパワードスーツは、全身から煙を噴き出して倒れた。光鞭の細いワイヤーが隙間から忍び込み、内部の人間を焼き切ったのである。さらに、AI搭載部分をも破壊する。
次。
ブン!
今まさに、騎士達を撃ちぬいているパワードスーツの後ろに立ち、光鞭で拘束して思いっきり別の奴に向かって放り投げた。
ドガガガ! とパワードスーツがぶつかり合い、俺は空間歪曲加速で、その重なったパワードスーツの上に乗る。ガイドマーカーが赤く光っており、俺はそこにレーザー剣を乗せてレーザーを射出した。
ブシュゥゥゥ! と、二体のパワードスーツの弱点をぬって、レーザーが突き刺さる。その事で内部のエルフの心臓が停止するのを確認した。すぐさま、光鞭を滑り込ませて、AI搭載カ所を焼いた。
《上空にドローン》
見れば、こちらに気づいたドローンが、カメラで撮影しているようだった。俺は空中に腕を上げて、爆裂礫を射出する。
バシュッ バシュッ ガキン! ガキン!
それが見事に、ドローンを打ちぬいて撃墜した。俺は倒れている騎士に、向かって声をかける。心臓がまだ微弱に動いていたからだ。
「コハク・リンセコートだ! 回復薬をやる!」
俺は、そいつの頭の兜を掴み取り、開けた回復薬の瓶を取り出して口に突っこんだ。
「ご、ごほ!ごほ!」
「大丈夫か」
「な、なんとか……リンセコート様がいらっしゃったと言う事は、伯爵はたどり着いたのですか?」
「途中で会った」
「それは、よかった。市民は?」
「わずかだが、我が領へと歩いている」
「そうですか……。あの! まだ、市民がいるのです。あのゴーレムたちが……)
なるほど、あのパワードスーツ(キメラ・ユニット)のことを、ゴーレムだと思っているらしい。
「三体破壊した。あと何体いる?」
「ここはそれで全部です。あの……バケモノを倒したのですか?」
「ああ。だがまだ数体はどこかにいる。星が堕ちた方角は?」
「北西です」
「動けるか?」
「薬のおかげで」
「ならば、他の生きている騎士を探して、市民をなるべく守れ。既に仲間も動いている」
「は!」
そして俺はその騎士から離れて、北西に向かって動き始めた。
なるほど、騎士のいう通りだ。こちら側に向かって、都市の破壊の度合いが大きい。
《この先から来たのでしょう》
大気圏突入ポッドを破壊する。
《はい。既に、攻略データは網羅しています》
よし。
そして俺が進んでいくと、伯爵領の市壁に穴が開いていた。俺はそこから外に出て、森林地帯を進んでいく。するとその先に、あの大気圏突入ポッドがいた。
《あれが増援を出す前に破壊します》
ああ。
空間歪曲加速により、瞬時に足元のキャタピラに到達した。だが、今度はそのキャタピラは壊さない。前の接触と、敵パワードスーツの解析により、既にアイドナが攻略している。
《光鞭を》
俺が光鞭を取り出して、そのキャタピラの隙間に突っ込んだ。スルスルと先に進ませて、アイドナが俺に告げる。
《動力を確認、伝達部を切断してください》
光鞭の先を、手元の操作でブンブンと振り回した。恐らく内部では、一部の動力がカットされている。
《動力伝達の停止を確認。次のキャタピラに》
そして俺は次、また次とキャタピラの下に潜り込み、同様の手口で動力を切っていった。
《これで、大気圏突入ポッドは動けません》
潜入するぞ。
《では、登ってください》
アイドナがガイドマーカーで指示しているのは、ドローンの射出口だった。遠目に見れば、つるりとした外装だが、下から見上げると凹凸があるのが分かる。
そこに、光鞭を飛ばして巻き付け、シュルシュルと縮めて登った。するとそこには、十五センチ四方のパネルがある。そこに指を差し込み、瞬発龍撃のパワーでバクン!と取り外した。
《内部レバーを回して引いてください》
俺が外壁にへばりつきながら、そのレバーを回して引く。
プシュッ! とその扉が開いた。するとその先にドローンが格納されているのが見える。
《破壊してください》
俺はレーザー剣でドローンをバラバラにした。そのおかげで、奥に進めるようになる。這いつくばってそこに入り、俺は再び大気圏突入ポッドに侵入していくのだった。