第二百六十七話 救出部隊ミッション始動
俺たちは主要メンバーを集め、これからの対策を話し合う必要があった。牢獄の中にある一室で、眠らせたエルフの女を囲みつつ話し合っている。
X線透過で見ると、女のエルフの脳にも、同じような機器が仕込まれているのが分かった。アイドナ曰く、エルフ女が何かを白状すればそれが爆発するらしい。闇魔法で眠らせ、さらに冷やしているが、いつ爆発するのかが分らない。
《電気ショックで焼き切れば、機能を停止させられる可能性があります》
電気ショック……電気など……ないぞ。
《発電機を造らねばならないでしょう》
そうか。なら間に合わないかもな。
そんな事を考えていると、ヴェルティカが俺に聞いて来る。
「どうしたの?」
「これの頭の中にも、同じものが埋め込まれている。なにかを喋れば死ぬ」
「じゃあ、情報は聞けないって事ね」
「電気があればいいんだが」
「電気?」
「ああ」
するとそれを聞いていた、マージが言った。
「電気というと、雷の事じゃな」
「そうだ」
「雷魔法を使えば、その頭の中のものは焼けるのかい?」
「もしかするとだがな」
「うーむ」
「あるのか?」
「あるにはあるが、それはそれで死んでしまうさね」
「そうか」
という事は、やりようがないという事だ。
《蘇生があるのでは?》
「マージ。蘇生魔法は使えるか?」
「あたしならね。だけど、フィラミウスもメルナも無理だね」
「誰ならできる?」
「ヴァイゼルだろうねえ」
「いや、現在、あちらもどうなっているか分からない状況だ」
「だねえ……」
「今は仕方がない。それよりも、王都やパルダーシュ、リンデンブルグ帝国の状況が問題だ」
「うむ」
そう、あの大気圏ポッドは大陸中に落ちている。今ごろは、各地で戦闘行為が行われている事だろう。それに応じて西側の貴族も黙ってないだろうし、ゴルドス国も侵攻して来る恐れがある。
ヴェルティカが悔しそうに言った。
「コハクが言うとおりに、東側に皆が集まって迎え撃つしかなかったのよ」
「だが、そうはいかなかった」
「まあ……そうよね」
そして俺は騎士達に向かって言う。
「リンセコートに落ちたポッドはあれ一機のようだ。他は、違う地域に落ちている。狙って降下できるものかどうかは分からないが、既に各都市で交戦状態に入っていると見ていいだろう」
「「「「は!」」」」
「各地の情報を集める必要がある。こちらから出て行こう」
すると、それを聞いていたボルトが言う。
「リンセコート領で迎え撃つんじゃねえのか? 強化鎧対策もしたんだしよ」
「その通りだが、戦力が足りていない。それにパルダーシュも王都も、あれと人間の混成部隊相手では、かなり分が悪いだろう」
「かなりのバケモンだしな」
「この地には、ドワーフと人間の青備えの部隊がいる。現状は、あのポッドを撃退した状態だから、残ったアイアンゴーレム二体と青備えで守りを固め、俺が単独で出る」
すると一同がざわついた。
「お館様一人でなど、容認できません!」
レイが声を荒げる。そして、騎士達もそれには賛成のようだった。
「だが、あれを攻略せねば、どうしようも出来ん」
「それはそうですが、あなたは、この戦いの要です。万が一があれば、我々は滅びます」
「待っていても滅ぶ」
「それは……」
こんな話をしている間にも、各地で戦闘が始まっているかもしれない。アイドナが検証したパワードスーツは、あの大気圏突入ポッドからそう遠くへは離れないようだ。もちろん、大気圏突入ポッド自体が動くので、それに合わせて戦う場所も変わっていくだろう。
するとボルトが言う。
「団長さん。んじゃあ、風来燕が護衛に付くならどうだい?」
「確かに単体よりはあれだが……」
マージがそこで口を挟む。
「あんまり悠長にはしてられないさね。それに、大部隊を差し向ける時間もないだろうしねえ」
「はい……」
「コハクが決めな」
《ならば、部隊編成は、風来燕、メルナとマージ、アーンとワイアンヌが妥当》
なぜだアイドナ?
《風来燕は戦力として、メルナは回復、アーンは各地のミスリルの強化鎧の補修、ワイアンヌは地の利が分っているからです》
わかった。
「行くのは、風来燕、メルナとマージ、アーン、ワイアンヌだ」
「我らも!」
「レイたちは、リンセコートの防衛がある。王都から逃げて来る奴が居るかもしれんし、シュトローマン伯爵たちの逃げ場も無くなる」
「……かしこまりました」
「アイアンゴーレムが二体しかいないが、青備えが全員残れば、なにかがあっても俺が帰るまでは持ちこたえられるだろう」
すると騎士達がザッ! と立ち上がって礼をとる。
「では、我々は、リンセコートの防衛にあたります!」
「そうしてくれ。そして、逃げてきた市民を保護するんだ」
「「「「は!」」」」
そして俺達はすぐに出撃する事が決まった。
《では、シュトローマン伯爵領へ》
最初の目的地は、リンセコートの出口にあるシュトローマン伯爵領だ。ミスリルの強化鎧しかない為、襲撃されれば持ちこたえることが出来ないだろう。
ヴェルティカが言う。
「私も一緒に!」
それにはマージが答えた。
「ヴェルや。あんたが抜けたら、他から避難して来た民の対応できる人がいないよ。主の代わりに、ヴェルがやらなきゃならないんだよ」
「……心配しながら待つのは、しんどいのよ……ばあや」
「辛抱だねえ、ヴェル。それに、あんたの亭主はヤワじゃない。大丈夫さね」
「……わかった」
「すまないヴェルティカ。だが、パルダーシュが心配だ。俺に任せてくれ」
「わかったわ」
「総員! 準備ができ次第出発する! 一時間後に馬に乗って行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
「うん」
「わかったっぺ!」
「はい!」
そうして俺達は、装備を整え、魔石を完全にチャージして馬にぶら下げた。全員の武器もそろえて、全ての馬に強化鎧を装備をさせる。
そして俺達はリンセコート領を出発した。強化鎧を装着した馬は速く、持続的に走る事が出来た。爆発したクレーターを迂回し、森を抜けるまであっという間だった。
馬の強化鎧は成功だったな。
《うまく補助が出来ているようです》
だが馬には、一切の魔力が無い。
《アーンの効率魔法陣のおかげで、持続力が数十倍になっています。大丈夫です》
流石は、天工鍛冶師という事だな。
《そのようです》
だが、俺の予想とは違う事が起きた。なんと、リンセコート領内にて、いきなりシュトローマン伯爵と鉢合わせしたのだった。