第二百六十六話 宇宙から落ちてきたエルフの尋問
そして俺達は、その耳のとんがった人間、マージがエルフと呼んだ奴に聞き込みを始める。そいつは悔しそうな顔をしているが、俺は構わずに聞く。
「キメラマキナは、他にもいるのか? 嘘は言うなよ、直ぐに分かるからな」
「……わかった……お前は、何体のキメラマキナと接触したんだ?」
「六体だ。うち四体を撃破した」
「馬鹿な……」
そう言われたので、奴らから奪ったレーザー剣、ジェット斧、光鞭、炎剣を並べる。
「どうだ?」
「奴らの兵器で間違いない……」
「信じたか?」
見せたにも関わらず、信じていないようだ。いや、信じられないのだろう。
「他にも……いる」
《サイバネティックヒューマンを作った、目的などを聞きましょう》
「キメラマキナとは何なんだ? あれは、造られたものだろう?」
「……そのとおりだ。あれは、造られたものだ」
「何のために造られた?」
「あれは、守護者だ」
「お前達のか?」
「それも含めた、という事だ」
「それも含めた?」
《他にも対象があるのでしょう。聞いてください》
「他に何がある」
「我々が生存するにあたって必要な施設、機器類、さらに守護専用のキメラグリーバをだ」
「キメラグリーバ? 魔獣か?」
「お前達はそう呼んでいるのか?」
逆に聞き返される。この世界では魔獣と言っていて、俺もそれに合わせて言っている。
「龍とか、サラマンダーとか呼んでいる」
「……そうか。ならそれだ」
《サイバネティックヒューマンは、全てを守護する為に造られたようですね》
という事は、こいつらが、そもそも何者かを聞かねばならない。
「それで、本題に入るが、お前達はいったい何者だ。なぜ人間のような姿形をしている」
すると突然そいつが、目をつぶり黙る。だが肩を震わせて笑い始めた。
「くっくっくっ」
「何がおかしい」
「我々が人間のような形をしているのではない、人間が我々のような形をしているのだ」
「どういうことだ?」
「そもそも、我々と人間では寿命が違う」
「寿命?」
「我々は、人間の何十倍も生きる事が出来る」
「何十倍も……」
《元々長寿なのか、もしくはテクノロジーによる延命なのか、調査しないと分りません》
そこでマージが口を開き、メルナが前に出る。
「伝承によれば、あたしらの祖先という事になるのかの」
「そうだ」
「あんたらは、天から振ってきたようじゃが、そもそも何処から来たのじゃ」
俺とマージ以外は、何を話しているのか見当がついていない。だが、そのまま話を続けていた。風来燕達は、ただ武器を構え警戒を続けている。
「宇宙だ」
「宇宙とは?」
「ふはは。やはり、下等生物には分かるまい」
「すまんのう。未熟なもので」
だがそこで俺が話を変わる。
「分っているぞ。宇宙空間に浮かんでいる、居住空間からやって来たのだろう?」
「!!」
「驚いているな」
「貴様は、いったい……」
「加えて地上にある、魔獣やキメラマキナを転送する機械。それらが、宇宙のコロニーと繋がっているんじゃないのか?」
エルフの男の顔色が悪くなってきた。アイドナが解析した内容は、ほぼ間違っていないのだろう。
「なんで……」
「お前達は、その宇宙のコロニーから落ちてきた」
「……そうだ」
「その先兵に、キメラマキナを送り込み、魔獣を送り込んで準備をしていた。違うか?」
「なぜ、お前はそんな事が分る」
「さてな」
「……」
突然黙り込んでしまった。そこで俺が重ねて言う。
「お前は、話しても理解できないだろうと思って話し始めた。だが、完全に理解する者がいた」
「……」
《心拍数上昇、発汗、体温上昇》
「図星か。驚いているようだな」
「も、もう、喋らん」
「ん? 誰が黙っていいと言った? この女が死んでもいいのか?」
「まってくれ!」
「あの宇宙船は何隻落ちた?」
「今回の降下作戦では、十基だ」
「十基……」
「そうだ」
「なぜ、このタイミングで落ちてきた?」
「キメラマキナが何体もロストした。先に落ちたはずだが、それが消えた」
「なるほど」
「それで、我々が確認のために来た」
《焦りを感じています》
なるほど。
「おまえは焦っているな……なぜだ」
「いや……」
「コロニーで何かあったか」
「……」
《そのようです》
「何があった?」
「それは……」
「言え」
顔を伏せて少し沈黙する。しばらくして、顔を上げて言った。
「我々は管理システムの指示で動いている。我が話せば、監視システムがどう動くかわからん」
「なに?」
「だから、詳しくは分からないんだ。本当だ。信じてくれ」
《本当のようです》
「なぜ宇宙船は自爆したんだ?」
「恐らくは、監視システムとの連結を切ったんだ」
《真実でしょう》
「わかった」
そしてその男が言う。
「もう、話せる事はない。俺を殺して、その子を生かしてくれ」
だが俺が言う。
「いや。その必要はない。宇宙船は自爆した、あんたらが、ここにいる事は誰も知らない」
「追跡装置が埋め込まれている」
《エックス線透過。サーモグラフィ》
すると頭の中に、なにかの物質が埋め込まれているのが見える。どうやら、コイツの焦っている理由はその辺りにありそうだ。
《GPSに似た機能です。他にもなにかが、仕込まれているように見えます》
そして次の瞬間だった。
「ぐあああああ!」
そいつが頭を抱えて苦しみだした。
「どうした!?」
「うがあああああ」
なんだ?
《脳内の危機が発熱しています》
ピシィイ!!!
ドサリ。そしてそいつは目と鼻と耳から血を出して、倒れ込み動かなくなってしまう。
《脳が破壊されました》
なんだと……。
急に男が倒れたのを見て、ボルトが俺に聞いて来る。
「な、なんだ! どうしたんだそいつ」
「死んだ。なにかが頭の中で破裂した」
「……なんてこったい」
俺達はエルフの男の死体を囲みながら、沈黙してしまう。
《尋問がトリガーになったか、情報漏洩を防ぐためか。機能が働いたようです》
そこで俺はみんなに言う。
「こいつに情報を聞いたが、これ以上情報が漏れるのを防いでいる存在がいる」
「怖えな」
「そっちの女は、まだ寝かしておこう」
するとマージが言う。
「それがいいだろうねえ。せっかくの手がかりが無くなっちまう」
「ああ」
そして、アイドナが俺に言う。
《検体が手に入りましたね》
いや、俺は齧らないぞ。
《そうですか》
どうやらアイドナは、コイツを食って生体を調査しようと思ったようだ。もちろん俺は、こんな物を食いたくはない。
するとマージが言う。
「いずれにせよ。これは冷凍してしまった方がいいねえ。フィラミウス」
「わかりました」
フィラミウスが氷魔法で、エルフの男の死体を凍らせていく。また違う時期に、コイツを調査する事にする為だ。そして俺達は青備えの騎士を数名そこに残し、死体を運び出すのだった。