第二百六十五話 捕らえた敵への尋問
耳のとんがった二体の生体には、とりあえず闇魔法で寝てもらっているものの、念のため地下牢へ閉じ込める事にした。マージが言うには、仄かに魔力らしきものも感じるというのだ。アーンが作った地下牢なので脱獄される危険性はないだろうが、念のため騎士達で周りを囲む。
さらに危険な物が仕込まれていないか、着ている薄い伸縮性のある布を脱がせてみる。そこで初めて分かったのだが、体の状態は人間のそれと殆ど同じだった。分った事は、この二体は男女であるという事。
「ボロ布を着せよう」
皆でボロ布を着せていると、アーンが俺に言う。
「その壁から出ている鎖は、ミスリル性で魔力を吸う魔法陣を刻んでるっぺ」
「というと?」
「繋げば魔法は使えないっぺよ」
手と足を鎖に繋ぎ、念のため俺と風来燕が檻の中に残る。
「メルナ。男の闇魔法を解いてくれ」
「うん」
そして詠唱を唱え、男の闇魔法を解除する。寝かせた状態だが、手足は鎖につながれたまま。
「う……うう……」
風来燕の面々が武器を構え、俺はそのまま立ってみていた。
俺の視界には、アイドナが目の前の男のステータスを表示している。
エルフ男
名前 ???
体力 235
攻撃力 118
筋力 340
耐久力 175
回避力 228
敏捷性 281
知力 ???
技術力 ???
鍛え上げられた騎士よりも強い。だが、警戒すべきは筋力の高さくらいだった。
「起きろ」
「……」
ぼんやりとした視界が、ようやく俺達に向けられた。俺以外は兜を外していないが、俺は兜をとって顔を晒している。すると男が、はっきりと俺にいう。
「カヌラスワリアグル」
それを聞いて、ボルトが首を傾げた。
「魔法の詠唱か?」
そこでマージが言う。
「お前達は、なんだ。と、言っておるよ」
「何語?」
「古代語じゃな」
「古代語」
俺もアイドナのおかげで分っている。俺がしゃがみ込んで、そいつの顔を覗き込む。
「俺達は、この地で生きるものだ。お前のほうこそ何者だ」
同じ言葉で答えてやると、目を丸くして俺を見た。
「同族……では無いな。何故話せる?」
「解析している」
「解析……だと?」
「そうだ」
「下等生物が……解析だと?」
「そうだ」
すると男は、目線を横に向けた。そこに女の耳の尖った女が寝ている。それを見て、怒りをあらわに俺に言ってきた。
「彼女に何をした」
「なにも。寝ているだけだ」
「直ぐに解放しろ! お前達のような下等生物が、このような真似をして」
《魔力反応》
どうやらアイドナが、男が発する魔力を感知したようだ。
「無駄だ」
男は何かをしようと思ったようだが、ミスリルの鎖に魔力が吸われていく。
「ふ、船は……」
「自爆した」
「自爆……」
ショックを受けているようだ。そこで俺は、男に事実を告げる。
「お前と、そこの女以外は全員死んだ」
「な!」
男は息をのむ。そこで俺は続けて言った。
「大気圏突入ポッド。お前が、船と呼んでいる奴はどれだけ地上に落ちてきた?」
「……」
「お前が答えねば、お前を殺して、女に聞く」
「野蛮人め!」
「人の土地に土足で上がり込んで、野蛮人呼ばわりはおかしいだろう」
「くそ!」
すると男は口を大きく開き、突然電子音のような音を発した。
ピキィィッィィ!
《発信機を仕込んでいたようですね》
なんのだ?
《パワードスーツ、キメラユニットです》
どうなる?
《オペレーションシステム、ナノマシンの管理権限はこちらにあります。問題ありません》
そこで俺は、男に言った。
「キメラユニットは動かんぞ」
「は?」
「オペレーションシステム、及びナノマシンは書き換えた」
「なんだと! なぜ、下等生物にそんなことできるんだ!」
「低次元のプログラミングだからだ」
「そんな馬鹿な。何千年も進化し続けて来たのだ!」
「何千年?」
「……」
どうやら自分が情報を話している事に気が付いたらしい。突然口を閉じる。
「キメラユニットは、キメラマキナの情報を模して作ったスーツだろう?」
「なぜ……キメラマキナの事を?」
「俺が数体倒した」
そう言うと目を丸くして、俺を睨んだ。
「キメラマキナを、倒した……だと?」
「そうだ。かなりの身体能力だった。そして、ワームホールを通って来た魔獣も、全て撃退している」
すると男の顔が、みるみる青くなっていく。
「し……失敗したんだ……作戦は……」
「作戦?」
しまったっ! という顔をした。だが、俺はアイドナが解析した内容を告げる。
「お前達は、この大陸を手に入れようとした。そこで、お前達が地上に埋め込んだ機動ユニットを操作させ、各地の大都市に魔獣を出現させた。それらを次々に起動させることで、恐らくはその稼働範囲を広げようと思ったのだろう?」
「嘘だろ……お前は、下等生物……」
「俺が、お前の言う下等生物が何かは知らんが、機動ユニットは俺が破壊し、各地で書き換えを行った。既に数か所の管理権限はこちらにある」
「まさか……いつの間にか、地上の文明が進化でもしたというのか……」
《勘違いしているようです。そのままでいいでしょう》
アイドナのいう通りに、俺はそれを否定しなかった。本当の事を言うと、俺だけが出来る事なのだが、この情報を伝えない方がいいと思う。
「この大陸に送り込んだ、キメラマキナ、落ちてきた宇宙船の数を言え」
だが男は俺を睨んで黙り込む。
「なら、お前を殺して、この女に聞く」
レーザー剣を取り出して、そいつの目の前に出す。
「その武器……」
「キメラマキナが使っていた物だ」
「本当だったのか……」
そしてレーザー剣を男に近づけると、男は声を荒げる。
「私は殺してもいい。だが、その子は助けてくれ。頼む」
「こちらにメリットがないが」
「私達の世界では、その子はまだ子供なんだ。仕方なくついて来ただけなんだ」
「子供?」
もう成人しているように見える。だが、男は子供だと言った。
《子供では、計画をどこまで掌握しているか分かりませんね》
だな。
「頼む。下等生物にも心はあるのだろう?」
「お前が白状すれば、お前と子供は殺さない」
「……」
男は寝ている子供をじっと見る。そして過ごし間を置き、静かにうなずく。
「わかった。知っている範囲の事は話す。だから、約束してくれ」
「そうしよう」
男は覚悟を決めたような顔をした。それから、俺達が聞いた事をポツリポツリと話し出すのだった。