第二百六十四話 パワードスーツから出てきたエルフ
敵が自爆するとは想定していなかった。そのおかげで、バカでかいクレーターが出来上がる。さらには、巨大な釣り鐘状の大気圏突入ポッドが、跡形もなくなくなってしまう。
これは、リバンレイ山並みの爆発だ。
《同程度の出力の、生体動力だったようです》
何故、自爆したんだ?
《こちらの力量を掌握し、情報が漏れるのを避けたものと推測》
下等生物と言っていた。
《ノントリートメント人類とも、形状が違うようでした》
捕らえた奴を調べよう。
そう言って、逃げた皆を探そうとした時だった。
カン! ガキン! ガガガガガン!と戦闘音が響き渡る。
「あっちだ!」
ボルトが指さし、俺達は鎧の強化術を使って、一気に倒れた木々を乗り越えて走っていく。
新たな敵か?
《パワードスーツと同じ武器の音のようです》
すると火花が散るのが見えた。俺達が、そちらへ真っすぐ突撃していると、どうやら奴らがマキナ・ユニットと呼んでる、パワードスーツと仲間達が交戦している。
闇魔法が切れたか?
《わかりません》
駆け寄る俺達を見つけて、マキナ・ユニットが戦闘をやめて逃げ始める。
「どうした!」
するとジロンが言う。
「爆発で吹き飛ばされて、鉄ひもが緩み一体が動き出しました」
「闇魔法は効いてないのか!」
するとマージが答える。
「いいや、闇魔法は効いているさね」
《AI制御で、マキナ・ユニットだけが動いているようです》
中の奴は眠っているか。
《はい》
「一方的に押されてます」
「俺が押さえる」
《先の戦闘でパワードスーツの動き、及び装甲の薄い部分を確認してます》
いくぞ。
《龍翔飛脚》
ボッ! と俺は、戦闘している青備えの騎士達の後ろから前に飛びでる。
《青備えの騎士達が抑え込まれてます》
パワーが違うようだ。
《強化鎧を使いこなせていません》
ガイドマーカーが表示され、俺は真っすぐそこに向かってレーザー剣を振った。だがそれを感知したのか、パワードスーツは一気に後方に飛んで下がる。
《攻撃が感知されたようです》
たしかに、今は視線外からの攻撃のはずだった。しかし、死角から攻撃したにも関わらず、瞬間的に感知されて避けられた。
《センサーの可能性》
予測されたか?
《演算開始。敵の動きを解析しました。予測攻撃に移ります。超感覚予測を発動》
俺は地面に落ちていた、騎士の高周波ソードを拾い上げ腰のあたりを薙ぎ払った。すると、こちらの攻撃を予測したようで、高周波ソードの攻撃が当たる前に飛ぼうとする。
だが更にアイドナが予測していた空間にレーザー剣を差し込むと、敵の方から飛び込んで来た。
ブシュゥゥゥ!
どうなった?
《動力の伝達を斬りました》
そのせいで、パワードスーツの手がぶらりと垂れ下がった。すぐ数か所にガイドが記されたので、一瞬でレーザー剣を振るう。すると手足の動力が切れて、そのままガシャンと倒れた。動こうとしているようだが、どうやら動力を切ると持ち上げる事も難しいらしい。
《重量のおかげです》
オリハルコンの鎧とは違うようだ。
《メカニカルな構造になっているため、部品が多く重いのです》
だから、自動で動くのか。
《ロボットと同様です》
ロボットを着ているという事だな。
《はい》
既に動きを止めたものの、周りにはオリハルコンの鎧が倒れている。全員生きているようだが、意識を失って倒れている者や、打撲で身動きが取れなくなっているようだ。
一機でこれほどまでの力があるか。
《高周波ブレードでもピンポイントで当てねばなりません》
ノントリートメントには、素粒子AIのガイドなどないからな。
《達人の領域ならば》
フロストか……。
《フロスト・スラーベルもしくはオーバース将軍ならば》
それ以外は?
《対応は難しいかと、闇魔法で意識を狩りとっても、ボディは動きます》
人型のロボットを着ているということか……。
《はい》
敵のスペックが、大きく分かってきた。このパワードスーツ(マキナ・ユニット)は着ているだけで、サイバネティック・ヒューマン並の力を得ることができる。奴らはキメラ・マキナと言っていたが、それの能力を得るために着ているようだ。
「お館様!」
全員を救出して、ドワーフの里に戻ろう。
「は!」
そこにビスト達も合流して、皆で倒れた騎士を起こし、治癒薬を処方していった。動けるようになったので、全員が固まってドワーフの里に向かう。
ジロンが言う。
「お役に立てずに申し訳ございませんでした」
「いや。かなりのデータが採れた。それに、この鎧を解析する事で、また俺達は有利になる」
「は!」
「アーン! 一緒に手伝ってくれ」
「もちろんだっぺ! これはゴーレムじゃないんだっぺ?」
「そうだ。自動で戦う事が出来る強化鎧のようなものだ」
「厄介だっぺなあ」
「これが、あの釣り鐘と共に、各地に落ちたと思っていいだろう」
それを聞いてレイが言う。
「かなり深刻な状況ですね」
「ああ」
それから俺達は、ドワーフの里に戻り、動力ラインを切断したパワードスーツを地下倉庫へと運び込んだ。そこにヴェルティカがやってくる。
「コハク!」
「戻った」
「凄い音がしたわ。ビリビリと建物が揺れた」
「爆発が起きた。大地に大穴が開いた」
「敵の仕業?」
「自爆したんだ」
「自爆……」
「かなりマズい状況だ。直ぐに話し合いをしよう」
「わかったわ」
「その前にこれをどうにかする。とにかく、ドワーフの技術者をよこしてくれ」
「ええ」
そしてヴェルティカが出て行く。
《スーツのパージをしてみましょう》
わかった。
俺の手先の籠手が外れ、マキナ・ユニットのあちこちを探っていく。すると、腕のところのカバーがあり、それを外すとコントロールパネルが出て来たのだった。
《解析します》
ピッピピピピピピピ!
《解析終了。パージします》
プシュッ! と、マキナ・ユニットから空気の漏れるような音が聞こえ、ゆっくりと背中側が、ブロックのような形状で左右に割れていくのだった。
すると中から、さっきとおなじ耳と鼻のとんがった、細長い人間が現れる。
《やはり同じ種族のようです。変わった銀色のスーツを着ています》
それは全身が銀色のスーツで囲まれていた。体にフィットしており、細い体がより強調されている。
それを見て、ベントゥラが不思議そうに言った。
「みたことねえな。人間……だよな?」
すると、マージが俺に聞いて来る。
「どんな感じだい?」
「耳と鼻がとんがっていて、色白の細身の人間が入っている」
「髪の色は?」
「白に近い」
「顔は整っているかい?」
「ああ」
すると少し間を開けて、マージが言う。
「それは……伝説の種族。エルフかもしれないねえ」
「エルフ……」
どうやらまた違う種族が出てきたようだ。するとアイドナが、俺に通知して来る。
《前世でもおとぎ話に出て来る、妖精のような種族です》
おとぎ話?
《長寿で、自然と調和し、人間よりも身体能力が高い》
そしてマージが続けた。
「高い知性を持っている、伝説の種族。もしかすると、それかもしれないねえ」
マージも断定はしてないが、目の前の色白の奴らを見て、サイバネティック・ヒューマンとはまた違うなにかを感じ取っていたのだった。