第二百六十三話 生体動力の暴走爆発
鉄で出来た通路や手摺、その珍しい光景にレイとサムスは不安そうだった。だが、ボルト達は落ち着いており、俺に対して言う。
「古代遺跡に似たような部屋だな」
「まさにそれだろう」
「それに比べて、光や透明な壁が多いようだが」
「ガラス窓だろうが、意味があるのかもしれん」
ゴンゴン! ボルトがガラスを叩いて言う。
「割れそうにもないぞ」
「強化されているんだ」
通路を進み、上に向かって進む通路が見えてきた。
「倒れているから、通路が上に行ってるんだ」
「上るか」
「俺が上に行って、鉄ひもを括りつけて来る」
「わかった」
《龍翔飛脚》
ボッ! と一気に、その扉の所に向かう。手をかけて、鉄の扉を開けようとするがびくともしない。
《自動ロックです。パネルを操作します。両手を自由にしてください》
俺はアームカバーから、オリハルコンのナイフを取り出した。
《瞬発龍撃》
カツン! とナイフが鉄の壁に刺さる。そこに足をかけて、もう片方の足を壁に押し付け体のバランスをとって固定した。籠手が開いて、俺の手が出て来ると、アイドナがそのパネルを操作し始める。
《クリア》
プシュ。瞬間的に鉄の扉が開く。体を押し上げて、扉のめり込んだ隙間に足を入れ上を見上げる。
あった。あそこに結び付けよう。
でっぱりのような物があり、そこまで数メートルほどジャンプをする。そこに手をかけて、鉄のひもをひっかけて垂らしてやる。
《そこに扉があります。手動のようです》
ガパンと開くと、そこに上につながるハシゴが見えた。そこに体を入れて、俺は皆に言う。
「登ってこい」
「「は!」」
レイを先頭にして登って来たので、手を掴んでハシゴのある通路へと引っ張り上げた。窮屈だが、五人は、ハシゴを右手に見ながら歩いてすすむ。大気圏突入ポッドが転がっているので、全てが横になってしまっているのだ。
《この壁の向こうに、生体動力炉があるようです》
そうか。なら先に進もう。
《では》
ガイドマーカーに従っていくと、さらに太いレバーのような物があった。
先はどうなっている。
《エックス線透過。サーモグラフィ表示》
ぼやんと、先が映り込み、次の部屋のその先の部屋に何か動く者がいる。
《生体確認》
そこで俺は皆に告げる。
「敵がいる」
「どこだ」
「二つ先の部屋。そこに二体」
そこでレイが聞いて来た。
「どうします?」
「情報を得る為には、生かして捕えたいが、ここからだと何者かが分からない。あの未知の敵に匹敵する者なら、生きたままの捕縛は無理だろう。言葉が通じる者ならば、話をしよう」
「わかりました」
レバーを引いて開くと、その部屋では、人が着るようななにかがガラスケースに入っていた。
《宇宙服です》
という事は、酸素を必要とする生き物だな。
《その可能性が大きい》
足元にガラスのケースがならび、そこにひとつひとつ宇宙服が入っている。俺達はそれをまたぎながら、先に進んでいく。そしてまた自動ドアの前に出た。
《開けますか?》
そして俺は、全員に低い声で言った。
「戦闘態勢をとれ」
四人が頷く。アイドナが、パネルを操作し始めた。
《クリア》
プシュ。とドアが開くと、突然中から銃撃された。
カカカカン! オリハルコンの強化鎧がそれを弾く。強度が勝っているために、誰も死ぬことはない。
「皆は待て。俺が行く」
「お館様! 我が」
だが俺はレイを制して言った。
「未知の敵なら危険だ」
「……分かりました」
《身体強化。時間知覚拡張。無意識回避。超感覚予測》
準備が出来た。
《空間歪曲加速》
ボッ!
次の瞬間俺は、物陰に隠れていた二つの陰の更に奥にいた。スキルによる俺の移動には気づいてないようで、俺達がいた先を見つめている。サイバネティック・ヒューマンならこれはあり得なかった。
《サイバネティック・ヒューマンではないようです》
俺は一人に接近し、ガンッ! と障害物に押し付ける。
「ぐお!」
「えっ? どこから」
もう一人が銃を構えるが、俺は目の前の奴を盾にする。すると盾にしたやつが叫んだ。
「う、撃つな!」
にらみ合いをしながら、俺は今の言葉を耳に入れる。どうやら、こいつらはマージが使った古代語を使っているように思える。
《解析しました。会話が可能です》
「お前達は何者だ」
「!」
「!」
驚いた顔をしている。よく見れば人間とは少し違っており、身長が高くて体が細いように見えた。色白で、鼻と耳が尖った形をしている。しかしながら、それ以外はほとんど人間のそれと同じ形をしていた。
「お前達は何者だと聞いている」
「な、なぜ。お前はこんなことができる」
逆に質問をされた。仕方がない。
ボキン!
「ギャア!」
掴んでいる奴の腕の骨を折った。そして、俺は反対側にいる奴に言う。
「無駄な抵抗はやめろ。既にお前達の仲間は捕らえている。一人は殺したがな」
「や、野蛮な生き物が……そんな真似ができるとは」
「やめろ。コイツを挑発するな。お前も見ただろ! こいつらはマキナ・ユニットを捕縛したんだ」
《マキナ・ユニット。恐らくはパワードスーツの敬称だと推測されます》
「そうか。あの、鎧は。マキナ・ユニットというのか」
「あ……」
だが、目の前にいる奴が言う。
「ふん。お前達のような下等生物が、理解できない代物だ」
「おまえ、やめろ! 刺激するな」
《どうやら興奮状態にあるようです。怒りの感情が制御できないのでしょう》
ということは、俺のように、素粒子AIは組み込まれていない?
《そのようです。むしろ、ノントリートメントに近いかと》
「お前達は、前に戦った奴らより弱いようだな」
俺が挑発してみる。
「前に戦った?……まさか」
「サイバネティック・ヒューマンのことだ」
「なんだそれは?」
しらばっくれているのか?
《言葉が違うようです。サイバネティック・ヒューマンとは言わないのでしょう》
だが突然対面にいる奴が笑い出す。
「……くくく。あははは。くそが!」
「なんだと?」
するとそいつは、俺が掴んでいる奴に向かって言った。
「やはり、失敗したんだよ。キメラ・マキナ達は」
「まさか……」
《キメラ・マキナ。それがサイバネティック・ヒューマンの正式名称のようです》
なるほど。
「数体潰した。もうお前達は降参するしかない。投降しろ」
しかし、対面にいる奴が言う。
「下等生物に連れていかれるくらいなら!」
「やめろ!」
そいつは手首に巻き付けてある何かを、操作し始めた。
「くっくっくっくっ。道連れだ! お前達もろとも消しとばす」
するとアイドナがアラートを流した。
《生体動力の異常温度を感知。数十秒で崩壊します》
それを聞いて、俺は大声で叫ぶ。
「みんな! 来た道を戻れ! この釣り鐘は吹き飛ぶ!」
そして俺は、手を掴んでいる奴を対面の奴に突き飛ばしてたたきつけた。瞬発龍撃を使っているので、体がひしゃげ二人とも気を失う。俺が進むと、皆も大急ぎで走っていた。来た道を、ただひたすら戻り、壊れた亀裂から外に出た。
「ブーストを使え!」
釣り鐘の先に向けて、全員が強化鎧のブーストを噴射して飛ぶ。少し距離が出来たところで、突然後方が白い光に包まれた。俺達はその爆風に弾かれて、物凄い高さまで吹き飛び、一気に森に向かって落下し始める。
爆風で、木々が折れ、俺はオリハルコンの強化鎧のおかげで内部への破壊は無かった。後ろを振り向けば、大きなキノコ雲が上がっており、釣り鐘は跡形もなく消え去っていた。
《大型生体炉を暴走させたようです》
重機ロボットがもう二機もやられた。
《はい》
五機あった、重機ロボットが三機も壊れてしまう。オリハルコンの部分だけは残るかもしれないが、現在残った二機の予備パーツとしか使えないだろう。
仲間を避難させておいて良かった。
《そのようです》
燃え盛る森に立ち上がり、爆発に巻き込まれた仲間達を救出する事にした。オリハルコンの鎧により、大きな損傷はないだろうが、強烈な打撃が加わった可能性がある。
そして地面から突き出ている足を見つけた。それを掴んで引っこ抜くと、レイだった。
「大丈夫か」
「う、うぐ……な、なんとか。ご、ごほごほ!」
「直ぐに回復薬を服用しろ」
「は!」
そしてその先に行くと、今度はガロロが燃え盛る木の下に埋まっていた。俺はすぐさま木々を蹴り飛ばして、ガロロを抱き起す。
「生きてるか」
「ご、ごほごほ! な、なんとか……くらくらしますわい」
「やはり、ガロロは頑丈だな」
「まあ、ドワーフとのハーフですからな」
「ボルトと、サムスを探そう」
「分かったのじゃ」
それからしばらく探して、ボルトが自力で炎のがれきから這い出て来た。
「ひでえ目にあった」
「大丈夫か?」
「回復薬を飲むさ」
そして火の海を探していると、ようやく突き出たサムスの腕を見つけ俺が引き上げる。彼はどうやら、気を失っているらしく。俺は自分の回復薬を取り出して、フェイスカバーを開けて振りかけてやる。
「……ぐ、ぐ」
「目覚めたか?」
「……ごぼ! ごぼ!」
するとアイドナが言う。
《もう一本、回復薬を飲ませてください。あばらが肺に刺さっています》
俺はサムスのアームカバーを開けて、回復薬をとりだす。
「苦しくても飲め」
サムスは黙ってうなずいて飲んだ。すると、真っ青だった顔色が、少しずつ戻って来る。
「……はあはあ、すみませんお館様」
「いや。生きててよかった」
俺達は立ち上がって、釣り鐘があった方を振り向く。大きなキノコ雲が上がっており、相当な距離を飛ばされてきたことが分かった。平野には、とてつもなく大きなクレーターが出来上がっていたのだった。