第二百六十二話 大気圏突入ポッドへの侵入
煙を確認し、もう一機の重機ロボットを連れたレイの部隊がやってきた。そして捕らえたアーマーと、釣り鐘の大気圏突入ポッドを見て目を見開いている。
「これと、あれはなんです」
「これは鎧を着た敵、あれは動く要塞のようだ」
「鎧、動く要塞……」
「敵だ」
「あれが、空から落ちて来たのですか?」
「そうだ。アイアンゴーレムが一体やられた」
「なんと……アイアンゴーレムが……」
敵も一向に動く様子はなく、俺達はにらみ合いを続けていたのだった。
そしてボルトが言う。
「で、どうする?」
「まもなく打開策がやって来る」
「そうなのか?」
「ああ」
するとそこに声がかけられた。
「お師匠様! 連れてきたっぺ!」
アーンが最後の重機ロボットを連れてきた。重機ロボットは荷台を引っ張ってきており、そこに俺が用意していた物が積みこんであった。
「よし」
そして重機ロボットから荷台を外し、幌を外すと中に皮袋の玉が並んでいた。それらは黒と白に色分けされていて、俺はすぐに指示を出す。
「黒の袋の玉を、あの釣り鐘に向けて投げつけろ!」
重機ロボットが次々に、黒い皮袋を釣り鐘に投げつけていく。放物線を描いて的確に、釣り鐘に当たり破裂して中の液体をばら撒いていった。
「な、何も起こらないようだが」
「ベントゥラ! 火弓をあの釣り鐘に射掛けろ!」
「わかった!」
弓矢の先に布が撒かれ、そこにフィラミウスが火魔法で火をつけた。
ビュン!
その弓が釣り鐘に届いた瞬間、ボゥッ! と大きな炎が巻き上がる。
「油かい!」
「可燃物を作り、そこに増粘剤が融合されている。あの炎は可燃物が無くなるまで燃え続ける」
「そうなのか」
「袋を投げろ!」
レイが連れてきた重機ロボットも一緒に、ビュンビュンと皮の袋を投げる。放物線を描いて破裂し、さらに火は激しく強く燃え上がった。
そして俺は次の指示を出す。
「ベントゥラ! 次は白い球を投げる。あれの上に飛ぶから、矢で射貫いてくれ」
「わかった」
ビュンビュンと白い球が投げられ、それが放物線を描いて釣り鐘の上に到達したときに、ベントゥラが弓矢で射貫く。するとキラキラした破片が、燃える釣り鐘に降り注いでいった。
パッパパパパパパパパ! と釣り鐘の周りが、フラッシュを焚いたように光り輝き、光で見えなくなるほどになった。すると俺達の上を飛んでいたドローンが、急に釣り鐘の方へと飛んで行く。そしてそのドローンが、次々に白い粉を吹きだし始めた。
《消化しようとしているようです》
思うつぼだ。
次の白い球が投げられ、それにベントゥラの矢が届くと、再びキラキラした破片があたりに飛び散った。それに巻き込まれて、全部のドローンが地面に落下していく。あのキラキラした粉末には、電波を阻害する効果があるのだ。
「よし! ボルト、ガロロ、レイ、サムス、釣り鐘にとりつくぞ! ジロンはビストの到着と共に皆を連れて森に下がれ!」
「「おう!」」
「「「は!」」」
「全員、空気のスクロールを鎧に入れろ! 完全密閉せよ!」
俺を先頭に、釣り鐘に強化鎧の能力を使って突進した。燃え盛る炎を前に止まり、ようやく至近距離に来て釣り鐘を見る事が出来た。
「やはり視界は塞げているようだ。容易に近づく事が出来ている」
「だけど、堅そうだぜ」
「殴ってみるさ」
そして俺はジェット斧を背中から外し、腰を落としてどっしりと構える。
《剛龍降臨。閃光一閃》
俺は炎の中に突っ込み、まるで軽い棒を振るかのように、ジェット斧を釣り鐘に叩きつけた。
ゴガン!
《数ミリのへこみを確認》
この力でその程度か。
《あなた以外の攻撃は通らないかと》
連続で同じところに振り下ろすぞ。
《わかりました》
ガイドマーカーが、攻撃跡に線をひく。
ブン! ゴガン!!
《さらに数ミリ》
すると次の瞬間だった。ゴーンゴーンと音を立てて、下部が開いていく。そこから再度キャタピラーがせり出してきた。
「よし! 一カ所を全員で狙え!」
「「おう!」」
「「は!」」
皆で炎に突っ込み、キャタピラ部分に強化鎧パワーを使って、全員で武器を振り下ろしていく。ガンガンと叩いているうちに、キャタピラーの付け根のところから火花を散らし始めた。
「叩け! 叩け! 叩け!」
ガン! ジャキ! ゴン! ドン!
そして、俺のジェット斧が振り下ろされた時だった。
ゴキン! とキャタピラーの付けねが切れた。すると支えているキャタピラの他の支柱が曲がり、釣り鐘がこちらに傾いてくる。
「退避!」
俺達は炎から出て、釣り鐘から距離をとる。ぐらりと傾いて、他の二つのキャタピラーが動くと、バランスを崩しながらも壊したキャタピラー部分を支点にして回り始める。
「火を消そうとしてるのか?」
「空から落ちて来たという事は、熱に対しての耐性はある。恐らく、俺達がとりついたのを振り払おうとしてるんだろう」
「という事は、とりつかれるのは良くないと思ってるって事か?」
「だな。だが、助かった。みんなのおかげで突破口が出来たからな。あとは、俺がやる」
「どうするんだ?」
「待っていろ」
《龍翔飛脚》
俺は回転に合わせて走りつつ、壊れたキャタピラのところに突っ込んでいく。そして光鞭を取り出し、壊れたキャタピラに巻き付けた。光鞭は炎で焼ける事はなく、俺はそれを手繰り寄せるようにして、壊れたキャタピラ部分にとりつく。
折れた鉄棒の付け根部分に隙間が空いていた。打撃で壊れ、柱が曲がって隙間が空いたのだ。
「よし」
俺は、レーザー剣を取り出し、その隙間にレーザーを入れてグルグルかき混ぜた。
すると、回っていた鉄の棒がボロッと外れて穴が開く。
《いまです》
アームカバーからごろりと出てきた、爆裂魔法のスクロールを仕込んだ魔石を穴に投げこんで、俺はすぐさまそこを離脱する。
ボン! ボゴン!
壊れたキャタピラ部分から、煙を噴き出しながらもまだグルグルと回り続けていた。
《他の動力とは切り離されているのかもしれません》
だが、内部は弱いようだな。
《そのようです》
「どうなったんです?」
レイが聞いて来る。
「中に爆裂魔法陣を放り込んでみた」
「なるほど。それでも動きを止めませんか」
回転しつつ、踏みつけていた重機ロボットからズレて行き、俺達の場所から遠ざかり始める。
「よし! みんなで盾を掘り起こすぞ!」
「「おう」」
「「は!」」
そして、地面にめり込んだオリハルコンの大盾を、全員でほじくり返した。大きな盾を五人でもって、俺が掛け声を発する。
「あの壊れた足の部分にこれを差し込む!」
俺達はタイミングを見計らい、一気にその大盾を壊れたキャタピラ部分に差し込んだ。
ガン!
するとそれが回転の邪魔となり、一気に釣り鐘は体制を崩してこちら側に倒れ込んできた。
「退避!」
ズッズゥン!! 釣り鐘が倒れ、その動きを止める。燃焼していた増粘発火剤の火も消えつつあり、全容が見て取れた。
「壊れた足を狙うぞ!」
また一気に突撃し、壊れた足の部分に向かって、全員で武器を振り下ろし続けた。少しずつ、装甲に開いた穴が広がっていく。
そして俺はレーザー剣を出し、ブシュゥと穴を溶かして広げた。人が入れるほどの大きさになったので、そこから覗いてみると、歯車のような機械が見える。
「よし! ワイアンヌの鉄ヒモを括りつけよう」
皆でワイアンヌが作った、鉄のワイヤーを機械に括りつけて結んでいく。
そして俺は、外に待っていた重機ロボットに叫んだ。
「来い!」
ゴウンゴウンと音を立てて、二機の重機ロボットが俺のところに来た。俺達はその鉄のワイヤーを重機ロボットに括り付けて、俺がまた指示を出す。
「引っ張れ!」
グーンとワイヤーが伸びて、重機ロボットが中の機械を引っ張り始めたので、俺はその内部のワイヤーにつながれた周りを、レーザー剣で焼き切っていった。
ボゴン! と大きな塊が出て来て、さらに奥まで見通せるようになる。
「侵入してみる。合図をしたらついてこい」
俺が先に、開いた穴に入ってみる。
《これは動力を伝える機械部分です。危険なものは見当たりません》
「来い!」
皆が入って来る。
「なんだ。鉄の部屋か?」
アイドナがエックス線で透過する。
《外の装甲よりは薄いようです》
俺はすぐさまレーザー剣を、その壁に差し込んで穴をあけていく。するとその鉄の壁の向こうに空間が見えてきた。
「警戒しろ」
「「おう」」
「「は!」」
次の部屋に入ると、そこには機械が並んでいた。
《整備室のようです》
見れば、倒れた天井が横で、真上にこの部屋に入る扉があるようだった。
「あそこに扉がある。俺が先に行く!」
そして俺が天井に飛びついて、その扉を開くと、その先は通路だった。鉄のワイヤーを扉に括りつけて垂らし、みんなに言う。
「登ってこい」
一人一人登ってきて通路に並んだ。俺達が立っているのは通路ではなく、通路の壁になるようだった。
《管制室か動力部どちらへ》
エックス線で透過出来るようになったらしく、透けた先が見えていた。
どちらがいい?
《危険が少ないのは管制室かと》
じゃあ管制室に行こう。
アイドナがガイドマーカーを映し出し、俺達は大気圏突入ポッドの奥へ侵入していくのだった。