第二百六十一話 動く鉄の巨大要塞
重機ロボットは感情が無いため、無造作に大気圏突入ポッドに近づいて行く。だがある程度の距離まで近づいた時、突如として大気圏突入ポッドが動き始めた。ブーンと音を立てて、巨大な鉄の本体からアームのような物が出て、ゴロンとその巨体を転がしたのである。
「なんだあ? ありゃ釣り鐘かなんかか?」
ボルトが言い風来燕達が身構え、俺も炎の剣を握りしめた。先行した重機ロボットも警戒のために足を止め、その大気圏ポッドの巨体を前に盾を構える。このあたりの判断も独自で出来るように、アイドナがAIを全てを書き換えているのである。
《重機ロボットを下がらせましょう》
俺は大声で、重機ロボットに叫ぶ。
「下がれ!」
そのまま後方に戻り始めた時、大気圏突入ポッドの巨大アームが重機ロボットに振り下ろされる。
ボゴン! と凄い音を立てて、間接をひしゃげさせ、重機ロボットが地面にめり込んだ。
《ポッドの質量が違いすぎます》
壊れた?
《足の関節部分が破損、盾ごと四十パーセント程度が地面に埋まりました》
どうするか?
《皆を下がらせましょう》
「皆! 退却だ! ひとまず森まで後退する」
「「「「おう」」」」
「「「「は!」」」」
俺はマージに見たものをそのまま伝え、一旦対抗策を練る事にした。だがどうやら、敵の大気圏突入ポッドも待ってはくれないようで、下部が開いて何かが出て来る。それは三方向に出て来て、ポッドの巨体を上に押しあげた。
《キャタピラです。動くようです》
グーングーンと音をさせて、その巨体が重機ロボットにメキメキと乗っかった。その事で重機ロボットは更に地面にめり込み、とうとうキャタピラに隠れて見えなくなってしまう。
「あのデカい釣り鐘、動くのかよ!」
「ボルト振り返るな。走れ!」
皆が一斉に後退して森の方に動いて行くと、釣り鐘状の胴体の一部が開いた。するとそこから、何かが飛び出してくる。
《同じドローンです》
俺達を監視しているドローンと同じものが三機、ポッドから飛び出し真っすぐに俺達に向かってくる。
俺が重機ロボットに指示を出す。
「盾を構えろ!」
ガシュン! 俺達に迫る直前に大盾を出したが、ドローンは盾を迂回して回り込んできた。
《発砲してきます》
だが、こちらの射程距離まで落ちてきた。
《そのようです。瞬発龍撃》
ブンッ! ダッシュしてレーザー剣を振るうと、ドローンが真っ二つになって落ちた。
《龍翔飛脚》
すぐさま反対の方に飛び、後ろから狙っていたドローンを斬った。どうやらこいつらは、連携して攻撃してくるようになってるらしい。
カカカカン!
そこにいた仲間達に銃撃がなされたが、オリハルコン鎧が貫通する事は無いようだった。
スパン!
ガロロが後ろから迫るとドローンが逃げ出そうとするが、ボルトの高周波ソードが二つに斬り裂いた。強化鎧によって風来燕達の機動力もあがっているため、素早いドローンの動きに追いつき簡単に墜とす事が出来た。落ちたドローンを見ると、機械が火花を上げている。
《飛行装置、カメラ、通信装置、銃火器で出来ています》
通信装置? という事は、今の戦いがどこかに見られたという事か?
《もとより、飛んでいたドローンも恐らく戦いを記録していたかと》
その情報はどこに伝わった?
《恐らくは、あの大気圏突入ポッドかと思われます》
あれか。
《このドローンの通信機器から考えても、それほど遠くまでの通信はできません》
なるほど。
ゴウンゴウンと重機ロボットの盾が上がり、釣り鐘が視界に入る。
《あれは要塞です》
そして俺は、そこにいる皆に言った。
「あの釣り鐘は要塞だ」
「なんだって!?」
そしてサムスが俺に言う。
「怖れながらお館様。要塞が動くのですか?」
「そのようだな」
「聞いた事もありません」
だがその時、マージが声を発する。
「聞いた事が無い訳でもないねえ。古代の絵巻物にそんな話は乗っていたさね」
「そうなのか?」
「山のような鉄の城が動いたと言った話さね」
「それはどんな話だ?」
「いつしかその鉄の城は動きを止め、その跡には山が出来たというやつさ」
「山が……」
「なんとなく思いつく話があるだろう?」
「古代遺跡。リバンレイ山」
「それと同じものかは分からないけどねえ、無くはない話さね」
《同じ文明です》
なるほどな。だが敵の機械の機能は、重機ロボットの数倍も性能が良さそうだ。
《進化した可能性があります》
それにしては進化が足りないんじゃないか?
《調べる必要があります》
釣り鐘を見ていると、どうやら動くのをやめたようだった。敵に対して、こちらの情報が伝わっているのは間違いない。
目的はなんだ?
《恐らく捕らえた者達の救出》
いや、本来の目的だ。
《尋問する必要があります。いまは、目の前の釣り鐘をどうにかしなければなりません》
あれの弱点を読めるか。
アイドナが釣り鐘を解析し始める。ガイドマーカーで形状を分析し、弱点を探し始めた。
ゴーンゴーン。
見ているそばから、キャタピラが引っ込み始め元の完全な釣り鐘に戻る。
《あの形状になると、つけ入るスキが無くなります》
防御の型というわけか。
《大気圏突入にも耐えうるようです》
どうにか突破口を探らないと。
《先ほどの形状であれば、キャタピラの付け根が弱点になるかと》
重機ロボットが完全に潰されてしまった。
《あれはもう使えません》
どうするか……。
《敵も考えていると思われます》
にらみ合いが続いている。上空からはドローンが監視を続けており、俺達も身動きが取れない状況になってしまった。
するとマージが言う。
「援軍を呼ぶしかないさね」
《そのとおりです》
「だが、あの飛ぶドローンに監視されている」
するとマージはフィラミウスに言う。
「爆炎魔法は教えたね」
「はい」
「メルナ、フィラミウスに魔法回復薬を」
「うん」
カチャ!とフェイスカバーを開け、フィラミウスが魔法回復薬を飲み干す。魔力が復活したところで、マージはメルナに言う。
「フィラミウスに強化魔法を」
「うん!」
メルナがフィラミウスに強化魔法をかけると、フィラミウスが薄っすらと輝いた。
そして準備が揃う。マージが声をかけた。
「フィラミウス」
「はい」
次の瞬間、重機ロボットの側で爆炎魔法が発動し、大きな爆発を起こして黒煙をあげた。それは天高く舞い上がっていく。そして俺達は、ここで釣り鐘を監視しながら援軍を待つことにするのだった。