第二百五十八話 理解しない住民と始まる戦闘
大量に空から落ちてきた流星を見た領民たちは、まるで縁起のいいものを見たかのように、はしゃいでいるとの報告が入った。俺は急いで騎士を集め、住民に対し家の中に入って出ないように、触れ回るよう依頼する。
「なぜそんな事になるんだ。マージ」
「人は見た事の無い神秘的な物を、神様のお告げなどと考えるのさね」
「神秘的? 危険なものだ」
「残念ながら火山の噴火でも「神の怒りに触れた」なんて言われるくらいだ。あの、古代遺跡の引き起こすことなんざ、民からすれば全て神がかってることだよ」
《リバンレイ山の爆発の時に、神殺しなどと言われたのはそのためです》
神じゃない。生体動力の融合爆発だ。
《未知のものは、神のやった事と考えるのがノントリートメントなのです》
そう言えば、俺の作った鎧すらも神器と言っていたか……。
《想像の上をいっているからです》
無知とは時に危険なものだ。
《はい》
大気圏突入ポッドは何処から来たんだ?
《進入角度、ポッドの形状、大きさと数、長時間の宇宙飛行は出来ないと推測》
なら……。
《スペースコロニーです》
やはりそうか。
あれはスペースコロニーから、落下して来たらしい。それを流星と勘違いし、住民は騒いでいるのだ。
そこに青の騎士の一人がやって来る。
「お館様にご報告です」
「なんだ」
「ドワーフの里、及び貧民街は静まり返りました。ですが……勝手に集まった、新造の町がお祭り騒ぎで手が付けられません。目下、レイ団長以下の騎士団で、騒ぎを納めています」
「もういいだろう。そこから先は自己責任だ。レイの騎士団には、防護体制を取り敵の侵入を防ぐための布陣に全て切り替えさせろ」
「は!」
騎士が走って新しい街の方に行く。
俺はドワーフの里に本部を設けており、大きな天幕の下にメルナとマージがいた。皆がそれぞれの仕事をこなしており、青の騎士達は全て領内に散らばっている。
貧民街から集めた戦えそうな男達には、王都に出荷用のミスリルの強化鎧をつけさせ、ドワーフの里の警護に回るように言っていた。
《そろそろ、風来燕かジロンの部隊が、大気圏突入ポッドの落下地点に到着するころです》
そうか。
もちろん、こちらからの戦闘行為は避けるように言っていた。万が一的に遭遇したら、内部までおびき寄せて俺が迎撃する作戦となっている。そのため、重機ロボットたちは、各地点に隠れるように指示を出しており、何が来てもすぐには中心に侵入されないようになっている。
だが、その時、新しい街の方から歌が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「めでたいことと勘違いして、祝いの歌を歌っているのさね」
それは大合唱となっており、遠くの音を聞くのが阻害される可能性がある。そこに慌ててヴェルティカがやってきた。
「私が行って止めて来るわ」
「そういう時は、いくら領主の嫁とは言え危険さね。パルダーシュならいざ知らず、新しく出来上がったばかりの町の治安は悪いだろうからねえ」
「俺が行く」
「それしかないねえ」
そして俺はすぐさま、新しくできた街に走った。町では皆が酒盛りをしているようで、楽しそうに歌などを歌いながら、料理などを食べているところだった。
俺は背中のジェット斧を外して、それを思いっきり地面にたたきつける。
ドゴン!
その瞬間、町民たちが静かになり慌てて転ぶ奴や、ここから逃げていく奴がいた。
《トークスクリプトを展開します》
ああ。
「我は! リンセコート男爵領の領主! コハク・リンセコートである! このお祭り騒ぎはなにごとであろうか!」
すると女が寄ってきて、空を指さして俺に言う。
「神の祝福がおありになりました」
「あれが祝福に見えたのか?」
「そのように皆は言っています」
そこで静まり返る民衆に対して、俺は声を張り上げて言う。
「あれは敵の襲来である! 神などではない! 人間を食い物にする、魔獣が襲来してきているのである! 祭り騒ぎをやめ、家に隠れる必要がある! 死にたく無ければ、速やかに騒ぎをやめ家に帰れ!」
「魔獣……」
「魔獣だってよ」
「空から降ってきたのに?」
「そうだ。あれは空を飛ぶ魔獣なんだ! あっという間にここに来るぞ! 逃げろ!」
「わ、わかりました!」
ようやく聞き分けてくれたようだ。慌てて町民たちが家に戻って行き、あたりが一気に静かになる。既に青の騎士は各方面に出向いているため、ここは完全に放置状態になっていたのだ。
ピュゥゥゥゥゥン!
その時だった。先行部隊からの、作戦開始の合図が耳に入る。
手間を食ってしまった。
《馬を取りにいかねばなりません》
だがそこに、馬の蹄の音が鳴り響き、装甲を付けた馬を駆ってメルナが走り込んできた。
「コハク!」
「いいところに来た!」
俺はそのまま、メルナが乗っていた馬に飛び乗り、合図のなった方へと急いで走り出す。
《よかったです。もたついていたら、現場の被害が大きくなるところでした》
そうだな。
そしてマージが言う。
「どっちだい?」
「良かったよ。連絡をして来たのは風来燕だ」
「運がいいねえ」
そして俺達の馬は、新しい街を抜け荒れた道を駆け抜けていく。村人は既に家に避難していて、この先にはもう人の気配はない。音が鳴り響いた方向から、ドン!と爆発するような音が聞こえて来る。
《いまのは重機ロボットの攻撃音です》
かかったようだな。
《急ぎましょう》
マージも聞いて来る。
「今の音は何かね?」
「アイアンゴーレムの攻撃音だ」
「罠が機能したって訳かい」
「そういうことだ」
森の間の道を抜けると、荒野の先で煙が上がっているのが見える。目的地を確認し、俺が馬の強化鎧のレバーを引いた。魔石から身体強化魔法の魔力が更に放出され、馬はどんどん速度をあげて行く。
そして俺はメルナに言う。
「馬から降りるな! 攻撃は馬上からだ!」
「うん」
「急停止!」
そう言って手綱を引くと、強化された馬が筋力を使って止まる。俺はその反動でそのまま、ジャンプし戦っている重機ロボットの方に向けて射出されるように飛ぶのだった。