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第二百五十五話 覚醒する戦火:変貌する世界

 オーバースたちが王都に帰還してから少しの間、俺達は粛々と戦争の準備を進めてきた。だがある朝にその静寂が破られる事になる。今度はパルダーシュ領からの書簡を、早馬の騎士が運んで来たのだ。俺達は迎賓館に集まり、書簡を広げパルダーシュの騎士から話を聞いていたところだった。


 俺が連絡官に質問をする。


「それで、ゴルドス国の状況は?」


「国境付近に集結しているようです」


 ゴルドスから奇襲攻撃のとき、俺は敵魔導士部隊を壊滅させ、ゴルドス国軍を追い払った。だが、あれからしばらく期間を置いているので、敵国も準備を進めてきたのだろう。


「パルダーシュの状況は?」


「今は多くの騎士が集まり、ギルドにも冒険者が多く在籍しています。魔法薬やリンセコートからの物資により、非常に財政状況が良く、人が集まっているためです」


「強化鎧は騎士に行き渡っているか?」


「全部ではありませんが、支給は進んでいる状況です」


「純度の高い魔法薬と回復薬、そして新型強化鎧の普及を急がせる必要があるか……」


「あれば、かなり助かるかと思われます」


 そして俺達は、今後の対策について話を始める。アイドナが推測したことをそのまま伝えた。


「恐らく、ゴルドス国からは間者が入り込んでいるだろう。敵対している国内の貴族らと、足並みをそろえて進軍して来る可能性が高い。よって間者のあぶり出し及び粛清をしようと考えているんだが、それをパルダーシュでも行ってほしい」


「伝えます」


 どう考えても、国内の情報が外に漏れているのは間違いないだろう。その為にも、敵国との情報伝達を遮断する必要があった。密偵を見つけるのは難しいかもしれないが、その情報を各地に伝達する必要がある。


 ここでの話し合いは、ヴェルティカが書記を務めて書き記していた。最終的には、同じ内容のものを用意して、王都にも送り出す必要があるからだ。


「今回は、こちらの輸送部隊を使って、新型兵器をパルダーシュに送り届ける予定だ」


「かしこまりました!」


 その為ドワーフ達には、ミスリル製の強化鎧を急ピッチで増産してもらっていた。今回はパルダーシュに向けて出来上がったもの全てと、数は限られるが新型兵器を送る予定だった。さらに魔法薬と回復薬も送り届け、戦況を有利に進められるようにしなければならない。


 ゴルドス国に奇襲をかけられた時とは状況が違うが、今回は内乱という混乱に乗じてやってきた。パルダーシュとしても王都からの援軍が期待できずに、周辺の貴族と足並みをそろえて迎撃せねばならない状況だ。戦争で使える物資は、あればあるだけ助かるはず。


 俺達は国内の状況を鑑みて、それぞれが各自対応せねばならないと念を押す。それを全てまとめ上げて、王都とパルダーシュへ連絡する手筈を整えた。ジロンの青騎馬隊を王都に差し向け、パルダーシュからの連絡官と共に輸送部隊を送り出す必要があった。


「ではよろしく頼むぞ」


「「「「「は!」」」」」


 踵を返すようにして、パルダーシュの連絡官の部隊と、青備えの二個小隊が出て行った。また、ジロンが鍛え上げた青騎馬部隊の馬の鎧には、魔石を組み込んだ強化魔法陣を刻み込んであり、王都へは一日で到着するだろう。


 そしてレイが俺に言う。


「間に合えばいいのですが」


「王軍がどう動くのかでもかなり違って来る。下手にこちらから西にうって出れば、敵の思うつぼになるだろうな」


「そうですね……」


《全面戦争は不可避かと思われます。ですが、あなたの軍をこれ以上は割けない》


 ここにも来る可能性があるか。


《可能性です。他の兵団は分かりませんが、こちらは実戦の経験が無い者ばかりです》


 それが問題になるか?


《ノントリートメントはノントリートメントを殺す事に、若干の抵抗を感じるようです》


 なるほどな。魔獣と戦うようには、考えられないという事か。


《はい》


 人と人が殺し合う事は、無意味だ。戦力を集めて、未知の敵に向かった方が理想的なのに、なぜか人同士が戦う羽目になってしまった。これらはすべて、未知の敵が仕組んだ事であり、俺がこの世界に来た時には事は進んでいたのだろう。


これがこのエクバドルとゴルドス国だけの話であれば良いのだが、アイドナは恐らくは他の国も巻き込まれるだろうと想定していた。既に動いているとはいえ、リンデンブルグとて例外ではないだろう。


 正直なところ、現状では不備だらけだと言わざるを得ない。その為に今、俺達は新兵器の開発を考えていた。それが稼働すれば、このリンセコート領においては有利に戦いを進められると思われた。


「では、全員持ち場に戻れ」


「「「「「は!」」」」」


 まだまだ、リンセコート領内での準備も理想の六割に及んで無い。そこでマージが俺に言う。


「急がねばならないさね」


「分かっている。続きに取り掛かろう」


「そうだね」


「メルナも魔力は大丈夫か?」


「うん!」


 そして俺は、マージとメルナ、アーン、ワイアンヌを連れて秘密研究所に行く。そこには、五体のうちの一体の重機ロボットが置いてあった。他の四機は、酒の醸造所と似せた別工場で稼働中だ。人が作業しては、危険な物質を量産させているのである。


 そして流石と言わなければならないのは、天工鍛冶師アーンのアイデアである。俺達は知恵を集め、重機ロボットを兵器として運用する為に動いているのだ。さらに、ワイアンヌが各地で集めてきた、いろんな情報がそれを加速させた。


 マージが言う。


「なるべく秘密裏に実用試験をしたいものさね」


「人目に付かぬように、山頂に連れて行こう」


 そしてアイドナが重機ロボパネルを操作し、様々な改良を施した重機ロボットを稼働させる。ゴウンゴウンと音をたてながら、ゆっくりと倉庫を出て自分で山を登っていく。


 そして重機ロボットに引かせたソリに皆が乗り込み、歩くことなく山を登る事が出来るようになった。これならば、全員の歩調を合わせる必要が無く、スムーズに山を登る事が出来るのだ。


 ただ、なぜか重機ロボットを連れていると、エーテル・ドラコニアと遭遇する事は無くなった。どうやら、重機ロボットの事を警戒していて、マージが言うには生体動力に原因がありそうだとの事だ。


 森林地帯を越えて、俺達は試験場所に向け登っていくのだった。

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