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第二百五十三話 オーバースと直属を強化する

 俺は他言無用と言い、声の音量を落とした。顔を近づけると、オーバースが聞き耳を立ててくる。もちろんオーバースだけの中に収めておけるような話ではないが、べらべらと話しても良い内容ではない。


《判断はオーバースに任せましょう》


 そうだな。


 そして俺が話し出す。

 

「実は、内密にリンデンブルグの神殿都市に潜って来た」


「隣国に行ったのか?」


「すでにこの問題は、この国だけの問題ではなくなっている」


「リンデンブルグも……という事か?」


「そうではない。むしろ、大陸全土が巻き込まれるだろう」


「大陸全土が……やはりそうなのか?」


「そうだ。そしてリンデンブルグは敵ではない、むしろ未知の敵に対しての警戒レベルがかなり高いな。隣国から依頼を受けて遠征に行き、俺と騎士達が未知の敵に遭遇した」


「どうだった?」


「俺以外は瀕死の状態になり、俺が二体を片付けた」


「二体で? それほどの者か?」


「そうだ」


 オーバースが渋い顔をする。


「どのくらい強い?」


《目安を話すと良いでしょう》


「基本は全部人型だ。一体の力量は、エンシェント級の龍並み。体力はそこまでではないが、ずば抜けた身体能力に恐ろしい技量が備わっている。それにもまして、特殊な武器を使って来る」


「恐ろしすぎるな。王都で暴れた、炎の剣……のようにか」


「そうだ」


 オーバースの顔がさらに険しくなり、握りこぶしを握ってこめかみに血管を浮かべている。


《王都の惨劇を思い出しているようですね》


 なるほど。


「西方の貴族達は全て裏切っているとみていい。全てがハイデン公爵の後ろに付いてしまっている」


「王宮でも同じ見解だ。コハクは、アイツらがなぜ反逆をおこしたと思う?」


「未知の敵に、何らかの条件を突きつけられている」


「それはなんだ?」


「あの敵は、人間の生き血を吸う。恐らく全てが終わった後で、恐らく人間は全て養分になる」


「それを回避するために、西方は国を裏切った?」


「そのように推測するのが一番近いだろう。多分ゴルドス国も」


「家畜になるのを恐れている……か」


「そのとおりだ」


 そこで、オーバースが核心を言う。


「裏切っている人間達は、本当に助かると思っているのだろうか?」


「わからんが、敵に人の心は無い」


 そこで俺が立ち上がり、部屋の片隅の棚からワイアンヌの記した地図を持って来てテーブルに広げた。端に重しを乗せて、丸まらないように固定する。


「随分と精巧な地図だな」


「うちにいる奴がかいた」


「そうかい」


 その地図の上に指を置き、俺は王都の場所を指し示す。


「王都には、古代遺跡がある。あれで王都の防御が可能になるが、操作できるのは残念ながら俺だけだ」


「なるほど」


 そして地図の上を、右にスーッとずらして指をさした。そこにはパルダーシュ領がある。


「ここも容易に動けない。動けば、ゴルドス国が再び攻めて来るだろう。フィリウスはここを死守する必要がある」


「あいつも大変だな」


「だが、やってもらわねばならない」


「そうか」


「リンデンブルグの皇子が、ゴルドス国の裏でも、何か動いている事をキャッチしている」


「リンデンブルグの皇子とも知り合いなのか。おまえは」


「オーバースが招いてくれた、王覧武闘会のおかげだ」


「そうか……それで?」


 オーバースは多くを聞かなかった。俺はそのまま話を続ける。


「リンデンブルグを警戒する必要はない。あちらは、未知の敵に対しての対応策を練ってるところだ」


「ふむ」


「なので、一番最初に標的になるのは……」


「この、エクバドル王都か」


「そうだ。敵がどう動くのかが分らんが、最初の戦場になる可能性が高い」


「そうなるだろうな」


 だがそこで、俺のいるリンセコートの領地を指さす。


「だが。ここに直接雪崩れ込んでくる可能性もある」


「ん? 敵はそれほど無能では無いと思うぞ。そんな事をすれば、コハクの軍と俺達王都軍に挟まれて逃げ場がなくなる」


「それは、敵が人間だけだった場合の話だ」


「未知の敵が攻めて来る可能性があると?」


「そうだ。その為に、敵は人間の間者を使って、あちこちで情報を集めている可能性がある」


「それなのにコハクは、ラングバイの騎士を処刑せずに解き放ったのか?」


 黒曜のヴェリタスの事は、マージにも口止めされているので言わなかった。だから違う事を言う。


「敵の騎士団を二つも壊滅させたことが、敵の耳にも入る。本当の標的がここにいる事を知るだろう」


「コハク……まさか、ワザとやったのか? おびき寄せるために?」


「まあ、それもあるが、いろいろと考えているんだ」


「ふふっ。奴隷から使用人になったと思ったら、いつの間にか領主様になっているようだな」


「効率よく考えた結果だ」


「まったく。コハクは得体がしれねえなあ」


 オーバースは顎に手を当てて、少し困ったような顔で言った。


「だがよ、それを聞いて殊更、困ったことがあってな。王宮と大臣達は西で謀反があるのならば、早急にハイデン公爵とラングバイ辺境伯をめし捕らえるべきだというんだよ。軍を差し向けて捕まえろと」


《危険です》


「それは……良くない」


「はあ……だよなあ。俺は断固として反対したんだがな」


「まさか、動くのか?」


「その、まさかだよ。だから、その前に急いでコハクの話を聞いておく必要があったんだ」


《まだ迎撃準備が整っていません》


「準備が出来ていない」


 オーバースが今度は顔に手を当てて、大きくため息をついた。


「面目ない。俺が止める事が出来ればよかったんだが、こちらから攻め入って制圧してしまおうという流れになっている」


 確かに、早急にここに来る必要がある案件だった。オーバースはどっしり構えているが、実のところ相当焦ってここに来たらしい。


「本来は……」


「お、なんだ? 何か策があるのか?」


「第一に王都の民を避難させ、敵を王都に迎え入れて古代遺跡の力で大量殲滅する」


「うむ」


「第二に、さらに敵が来た場合は王都を放棄して、このリンセコート領に敵を引き付ける」


「まて、ここに引き付けてどうするつもりだ」


「俺の軍で殲滅する」


「歯が立たなかったのだろう?」


「そのための準備をしている。今まで六体の未知の敵に遭遇し、全てのをデーターを解析して、何をすべきかを算出してあるんだ」


 オーバースが唖然としている。だがしばらくして、横に首を振った。


「ダメだ。王都は捨てられんだろう。そんな選択ができる貴族はわが国にはいない、お前くらいだ」


 そこで、ようやくマージが口を開く。


「ほらね。ダメだと言っただろ?」


「そのようだ」


「国全体を戦場にし、王都からここにかけてをオトリにするなんざ、誰も了承するわけがない。やはりそうなると、こちらから攻め出るという話に落ち着いてしまうだろう」


《ノントリートメントは効率より、面子を保つようです》


 そのようだ。


「オーバース将軍」


「ん?」


「あんたは、生き延びてほしい。フィリウスやヴェルティカが悲しむからな。とにかく、あの未知の敵が多数攻めてきたら、国は壊滅する」


「だろうなあ……」


 そこで俺は、更に身を乗り出して言う。


「今回、連れて来たのはどんな奴らだ?」


「俺が育ててきた直属の隊長達だよ。全員が俺の軍の隊長だ」


「丁度いい。今日はここに滞在してくれないか?」


「どうしてだ? 俺は急ぐのだがな」


「オーバースとオーバースの隊長たちに、青備えを用意したいんだ。採寸をさせて欲しい」


「ん? あの青い鎧はなにか違うのか? 青くしただけじゃないのか?」


「俺が特別に作った鎧だ」


「……何か凄そうだな」


「もちろんだ」


「わかった。本来はトンボ返りする予定だったが、こんなうまい酒もあるんだ。帰るのは明日にしよう」


「王都はどうなる?」


「俺が帰るまでは動かないと約束してある」


 俺がヴェルティカと騎士達に部屋に入るように言うと、彼らが入ってきてオーバースがにんまり笑って言う。


「貴様ら、喜べ! 今日の夜は、コハク男爵があの酒をたらふく飲ませてくれるそうだ」


「「「「ええ! 本当ですか!」」」」


「だよなあ?」


「死ぬほど飲んでくれ。明日に残らないようにな」


「がははははは! そんなヤワなやつは、ここには居ねえよ!」


「俺は準備があるから、あんたらは好きにやってくれ、とにかく採寸をさせて欲しい」


「よっしゃ! お嬢! ちと出てってくれ! おまえら素っ裸になれ!」


「「「「は!」」」」


 ヴェルティカとメルナが慌てて出ていくと、男達は豪快に鎧を脱ぎ捨てて腰巻まで取り去り一列に並ぶのだった。どいつも物凄い筋肉が付いており、鉄の強化鎧でも充分動けるだろう。


 そのなかでも、ひときわ凄いのがオーバースだった。体中が傷だらけで、めちゃくちゃ筋肉の量が多い。コイツの鎧だけは特注品になるだろう。俺がそいつらの前にたって、じっと見つめるとアイドナが正確なサイズを算出していった。


「図りは使わねえのか?」


「必要ない」


 そして俺が採寸を終え、早速、秘密研究所に行くためにドアを開ける。


「きゃあ!」


 廊下の前にヴェルティカとメルナがいた。男達が全裸なのを考えずに開けてしまった。


 すると奥からオーバースが言う。


「すまない嬢ちゃん! 汚ねえ物をみせちまった!」


「いえ」


「「「「もうしわけありません!!」」」」


「い、いえ」


 そして俺がレイに言った。


「俺は彼らの鎧を作る。レイは、彼らと話をして戦術を練っておけ」


「は!」


「ヴェルティカ、彼らに上級酒をたらふく飲ませてやってくれ」


「わかったわ」


 そうして俺とメルナはすぐに秘密研究所に向かい、採寸したオーバースと王都騎士達の、オリハルコン用鎧のスクロールを書き始めるのだった。


《本当に話の分かる相手で良かったです》


 オーバースは、王都で唯一そう言う存在だからな。


《彼らは日の出前に発つでしょうから、急ぐ必要があります》


「メルナも悪いな。彼らは明日には帰らねばならん。今日は眠れないだろう」


「うん! やるよ!」


 俺は百枚からなる製図を完成させて、カルデラ湖に向かって出発するのだった。

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