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第二百五十一話 危機に備える部隊と四人の装備

 アイドナが推測した通り、最初に連絡があったのはパルダーシュのフィリウスだった。北方領の周辺警護の強化が始まり、下位の貴族達に一斉に通達を出したらしい。


「流石はフィリウスだな」


 俺が言うと、ヴェルティカが深く頷く。


「お兄様は、コハクに全幅の信頼をおいてるから。直ぐに動いたんだと思う」


「だが、王宮は動かんか」


 それにはレイが答えた。


「恐れ入りますが、やはり王宮が動くとなると、調査を経てからという事になるでしょう」


「時が勝負なのだがな」


「残念ながら、それが国というものです」


 アイドナが脳内で言った。


《男爵や伯爵の進言を、大臣達がすんなり通す事はないのでしょう》


 なぜだ?


《そう言う決まりだからです。分かってはいても、直ぐに変えられないものです》


 とろいな。


《ですが、大丈夫です。じきにこちらの仕込みが入ります》


 あいつらか。


《はい》


 黒曜のヴェリタスを飲ませた騎士達には、犠牲になってもらう予定だ。


 既にこのリンセコート領のあちこちに、アーンとワイアンヌの指示のもと、ドワーフたちが増幅魔法陣を埋め込んでいる。大型の魔石を地中に埋め込んだ鉄の箱に仕込み、魔力を周囲に放出する仕掛けだ。アーンが言うには、近くに強化鎧が来ない限りは魔力は放出しないらしい。


 そして俺はと言えば、重機ロボットと強化鎧の改修を行っていた。重機ロボットは自動で各地に埋めた魔石を周り、増幅装置から魔力をワイヤレスで放出し、それを各魔石へと伝達補充させるようにした。


 レイが言う。


「お館様は、これからどうなるとお考えですか?」


「今すぐ未知の敵が本格侵略して来たら、国は存続が難しい」


「えっ……」


「パルダーシュや王都を襲った魔物、そしてあの未知の生命体に対抗できる手段がない」


「それはその通りです。ですが、その為にこうして準備をしているわけで」


「こちらの動きを敵が知らず、じっと待っててくれるのならいいのだがな」


「すみません。お館様、どういう事か教えていただけますか?」


「この一連の流れが、人類を使った陽動だとしたら?」


「人類を使った陽動? 待ってください……それはどういう」


 レイが青ざめていた。屋敷の部屋に沈黙が流れ、ヴェルティカがテーブルの茶碗にお茶を注ぐ。冷静な口調で、ヴェルティカがレイに言った。


「お茶でも」


「ありがとうございます」


 そしてヴェルティカが、次のお湯をポットに注ぎながら言った。


「これまでの流れから考えても、コハクのいうとおりだわ。敵は恐らく、人間を使って何かをしているだけじゃない。そうする事によって、動きを見えづらくしている」


「お嬢様……」


「最初に、パルダーシュ領へ侵攻しようとしたゴルドス国。そして、リンデンブルグでも人を使って結界石を壊そうとしていた。さらには、このエクバドル王国を二分させるような動き。人同士を戦わせて弱体化を図り、何かをしようとしているとしか思えない。それはもちろん、私達が元々想定していた事でもあるわ。だけど、ゴルドス国や反乱分子に何か利が無いと、そんなことやらないでしょう?」


「……はい。では、その利とは一体なんでしょう?」


 そこで俺が話を変わる。


「推測だが、交換条件に国を与えられるか、もしくはその後の生存自体を約束されているかだ」


「滅ぼさない代わりに、協力を強要されている。という事でしょうか?」


「あの力を見てしまえば、それもあり得るだろう」


「未知の敵に……屈した?」


「その可能性が高いという事だ」


 そこでようやくレイがピンと来たようだった。


「お館様から、ことごとく邪魔をされれば……本丸が出ざるを得ないと?」


「という可能性だな」


「そうか……誰が先回りして、邪魔しているのかを嗅ぎつけられれば……」


 ヴェルティカがため息をついた。


「そう。その元凶を摘みにくるわね」


「そう言う事ですか……」


 俺はそこで、テーブルに手を付いてレイに言った。


「いつか、敵はここに来る」


「そうか……その為の準備なのですね」


「そうだ」


 そしてヴェルティカがまたお茶を注いだ。


「でね。いま、いろんな人が出入りしてるでしょ? だから、あまりこの事を公に出来ないと考えているの。青の騎士の人選はもちろん、きちんとやったけど、敵が我が領に入り込んでいた事実を考えても、出来るだけ秘密裏に行わなければならないわ」


「は! 承知しました」


「俺が思うに、ドワーフは心配ない。むしろ、貧民に紛れている可能性があるという事だ。そこでレイには情報統制をお願いしたいと思っている」


「御意。……この地が、決戦の場になる可能性があるという事ですね」


「変に広まれば、人が居なくなるかもしれん」


「そうですね。でも、この領が一番安全な場所になるんですが」


「そうだ。それに、敵勢力がどれだけここに戦力を投入して来るかも不明だ」


「ならば、防衛体制を更に強化せねばなりません」


「そこでアーンが作る、ミスリル強化鎧を誰に着せるかだが」


「わかりました。新兵募集の窓口である私が鍵という訳ですね」


「そう言う事だ。見極める方法がないかと思っている」


「虫を取り入れないようにですか」


「網を張ってあぶりだしたい」


「それを掴んだら、お館様にお知らせすればよろしい訳ですね」


「そうだ」


「畏まりました。秘密裏に進めます」


「そうしてくれ、で、どうする?」


「新兵の中に敵のスパイや協力者が紛れ込まないよう、徹底した身元調査と、適性を見極めるための厳格な審査基準を設ける必要があります。単に腕力だけでなく、忠誠心や精神力、疑わしい過去がないかを深く掘り下げます。その為の組織を作りましょう」


 するとヴェルティカが俺に向かって笑う。


「でしょ? レイはこういう事に長けてるのよ」


「本当だな」


「えっ。もしかして、お嬢様の入れ知恵でございましたか?」


「そうだ」


「では、期待に応えてみせましょう」


「ビスト、サムス、ジロンを呼んでくれ」


 ヴェルティカが三人を呼ぶ。皆が同じテーブルに座り、俺の話を待った。


「我が領に、隠密の諜報部隊を作りたい」


 レイが言う。


「ではサムスが適任かと」


「サムス。どうする?」


「は! 領内だけでなく、周辺地域や敵勢力圏からの情報収集をする為の組織を作ります。敵の動きや目的、兵力などを把握するために、隠密との連携を密にし、質の高い情報を迅速に入手しお館様にお知らせします」


「よろしく頼む」


「お任せを」


 そして俺は次にジロンに告げる。


「ジロンは機動部隊を作ってほしい。迅速に動き、窮地に駆けつけ本陣がつくまでの時間を稼ぐ部隊だ」


 するとジロンが俺に言う。


「ドワーフ兵を使ってもよろしいので?」


「どうしてだ?」


「ドワーフは守りが硬い。本陣が到着するまでの時間稼ぎなら適役かと」


「そうしてくれ。今やるべき事は?」


「ドワーフは馬を使い慣れていません。ですので、ドワーフに徹底して乗馬を教える必要があります」


「直ぐに取り掛かってくれ」


「は!」


 そして最後にビストに言う。


「そしてビスト」


「は!」


「レイが表立っての総大将をやる。部隊の陰で暗躍する役割を任せたい」


「御意」


 するとヴェルティカが言う。


「ごめんねビスト、一番汚れ仕事が多いかもしれないの」


「必要とあらば何でもやりましょう」


「あなたにしかお願いできないわ」


「は! お任せください!」


 組織も大きくなりつつあり、隊長としての役割も重くなる。だがこの組織改編は急務で、直ぐにでも稼働させたいくらいだった。


「メルナ! アーン!」


「「はい」」


 ガチャっとドアを開けて、二人が台車を押して入って来る。そこには幌がかぶせてあり、俺は四人の前にそれを置かせた。


「これは新装備だ」


「「「「は!」」」」


 メルナがバサッと幌を外すと、そこには改良した強化鎧と新型の武器がある。


 そして俺が説明を始める。


「新しい鎧だ。レイとビストの鎧には折り畳みの、小型高周波ソードが仕込んである。そして、お前達が今持っている高周波ソードに加えて、もう一本の新しい武器を用意した」


「これは……」


「火炎ソードだ。振れば、火炎魔法が発動し炎が飛び出す仕掛けになっている」


「なんと……」


「それと、その背中には魔石ではなく、小型の爆裂斧が収納されている」


「わかりました」


 そして今度はサムスに言う。


「サムスの強化鎧は更なる軽量化と、二本の小型高周波ソードが仕込んである。爆裂斧と火炎ソードは無いが、特質すべきはその強化鎧に施した認識阻害の機能だ」


「認識阻害の機能?」


 するとメルナが持っている鞄から、マージが言った。


「幻惑の魔法陣と、透明魔法が施されてるのさね」


「それはどういった?」


「幻惑魔法は、そこに実態を残したまま他に移れるのさ。透明魔法は名前の通り、消える事が出来る。隠密にはこれ以上の機能はないよ」


「素晴らしい……」


 そして俺は最後にジロンに言う。


「ジロンの鎧にも高周波ソードが収納されている。だが主で使う武器を変更する」


「は!」


 そしてジロンに、長い槍と鞭を打ち出す装備を与える。


「馬で機動する時に、槍の方が敵に届く。そして鞭も同じように、距離があっても使えるようになっている。さらに鞭には面白い機能が備わっている」


「どのような?」


 するとまたマージが答えた。


「雷魔法さね。念のため言っておくが、オリハルコン強化鎧を着てないときは使うんじゃないよ。自分にビリビリが来てしまうからね」


「わかりました」


「ジロンは新装備の訓練に入ってくれ」


「は!」


 俺は四人の騎士達を真っ先に強化した。自分が持っている四種の武器の、レプリカを作り特性に応じて与えたのである。


 そしてもちろん、風来燕達には既に新装備を下賜していた。彼らは今ごろ、魔獣狩りに行ってその装備を実戦で試している頃だろう。決戦兵器の開発に向けて、着々と試験的新装備の検証に入るのだった。

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