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第二百五十話 サイバネティック・ヒューマノイド

 アヴァリを研究した結果、切り離した肉は直ぐに風化してしまう。だが血を与えてしばらく経つと、本体のほうは再生するようだった。やはりアイドナが言う通り、脳が生きてる限り多少破損しても時間をかければ戻るようだ。


《基本、弱点は人間と同じです》


 脳と心臓か。


《はい。ですが血を源として身体の再生するのは、人間ではありえない事です。そして心臓と脳を切り離さなければ、何度でも再生は可能だと言う事。恐らくは血液細胞を変換し、自分の体組織にしています》


 蘇生魔法とやらがあるらしいが、それとは違うのか。


《あれとは違いますね。これは科学的に、増殖し続けているのです》


 増殖する?


《はい。人の細胞とは明らかに違っています》


 なるほど、血を糧に細胞分裂をするみたいな事か……。人間の赤ん坊のような物か?


《それとも似ていますが、全く違います》


 何だと思う?


《アヴァリの切った肉を食べればわかります》


 嫌だ。


《では推測します》


 そうしてくれ。


《恐らくこれは人造。増殖細胞により生成されたものです》


 人造? クローン技術か?


《そこは、前世で言う所のAIヒューマンと同じです。ですが、クローン技術とは違うと推察されます。そして明らかに、ノントリートメントとも違います》


 機器で作られたという事か?


《機器かどうかは分かりません。ですが作られたものです》


 こいつらの強さの理由は何だ?


《推定ですが、これは生体ナノによるものです》


 生体ナノ?


《細胞レベルで作られる、生体ナノマシンの集合体の可能性が高い》


 なぜそう判断した?


《切り離して粉になったものが、無機物だからです》


 そういうことか。


《結合して、より身体能力を高める作用があり、状況によっては身体変化もするようです》


 尻尾がそれか?


《はい。それとガラバダの変身、アヴァリの羽、トリスの全身棘もそうですね》


 器官を作り出していると?


《そうなります。生体ナノであれば変化は自在かと》


 それで、あのような変化をおこすという事か。


《はい。これも推測ですが、王都に出現した魔獣達も似た構造かと思われます》


 なるほど。あとで残骸が消えていたしな。


《高い確率で関係があるでしょう》


 アイドナの調査のおかげで、敵がこの世界の人類とは違うものであるという事が分かった。俺の脳内での会話なので、アーンもワイアンヌも状況を察してはいないが、一応、彼女らにも伝えておこうと思う。


「コイツについて分かった事がある」


 するとマージが言った。


「なんとなく察しはつくがねえ」


「えっ! 知りたいっぺ!」

「わ、私も!」


「これは作られたものだ」


「やはり、そうかい」


「えっ!」

「うそ!」


 違う答えが来る。マージはある程度推測をしていたようだが、二人は目の前の生き物が作りものだとは理解できないようだった。


 ワイアンヌが言う。


「あ、あの。ゴーレムみたいなものですか? そこにいるアイアンゴーレムみたいな」


「違う。擬似的な生き物だな。サイバネティック・ヒューマノイドだ」


「さい、さいばね? だっぺか」

「発音が難しいようです。その言葉を、聞いた事ありません」


「作り出された生命体という表現が近い」


 だがマージが言う。


「古代の本でそのようなものを読んだことがあるさね。全ては解析できなかったが、作られた生物という者はいたそうだよ」


 二人がうんうんと頷いている。どうやら、マージの方が説得力があるらしい。


「そして、弱点は頭と心臓。そこを切断する以外は、再生する可能性が高い」


「コハクが王都で胴体を斬ったようだが、復活していたのはその為かい」


「そうだ。縦でも横でもいいから弱点を斬り裂いてしまえば死ぬ」


「だが、物凄い強さだ。そう簡単には無理さね」


「その通りだ。人間は胴体を切られれば死ぬしな、この龍並みの強さを持つ個体を殺すのは、相当の人数がいないと無理だろう」


「ふう……やっぱり厄介だね」


「厄介だ。さらに強力な武器を持っている。龍並みの力を持っている上に、技術力も高く、武器を効果的に行使して来る。普通の人間に、対処は不可能に近い」


「だろうねえ……」


 俺達は目をつぶって動かないアヴァリをみながら、コイツのような奴がどれほどいるのか、そしてイラが言っていた仲間達を目覚めさせるという言葉の脅威を感じていた。


《ですが、この生体の調査をした事で対策はうてます》


 どうすべきか。


《やはり装備の強化で対抗するほかはありません。幸いにもオリハルコンという素材があります。そしてすぐそこに、具体的な強化策があります》


 アイドナが指しているのは、重機ロボットの事だった。


 重機ロボット? どういうことだ?


《このアーンとマージが作った、結界牢を見て可能性がでました》


 この牢獄?


《全て一つの魔法陣で、魔導鎧を強化する必要などなかったのです》


 というと?


《メルナやフィラミウスが使った、巨大魔石のバックパックカーですが、動力源をパイプでつないでおりました。その結果、機動力はゼロに等しく、およそ実戦的ではなかったのです》


 だが、魔力の……そうか。この結界牢のように……ワイヤレスか……。


《はい、ワイヤレスです。恐らく都市を囲む結界石が、その技術に近いものがあるようです。この増幅魔法陣があるのなら、それが可能になります。そうする事で従来の強化鎧の性能は格段に上がり、この敵に対する戦闘力もあがります》


 それを聞いて俺もピンと来ていた。


 そうか……。


 俺達が回収してきた五台の、重機ロボット。これを使わない手はないという事だ。


 そして俺はアーンを見る。


「やはりアーンは凄いな」


「な、なななな! なんだっぺ! お師匠様から、そんな事を言われっとこそばいっぺ!」


「この結界牢獄の構成と、増幅魔法陣。これは本当に有効だ」


「いや、もちろん大賢者様の知恵を、お借りしたっぺよ」


 だがそれにマージが言う。


「いんや。天工鍛冶師が居なければ無理だったさね。本当にドワーフには頭が下がるよ」


 それを聞いてワイアンヌもうんうんと頭を振っていた。アーンは恥ずかしそうに頭を掻いて言う。


「精度と発想に関して、ウチはお師匠様の足元にも及ばないっぺ」


 そこで俺が言う。


「その技術力を使いたいものがあるんだ。強化鎧を掘っているアーンなら、多分理解できるだろう」


「なんだっぺか?」


「いままでは魔導鎧に魔石を埋め込み、特性の背負子に大きい魔石を入れていたが、それだと機動力はかなり悪くなるんだ。それも魔法使いのメルナ達が使うような、大容量の魔石を使う事は出来ない」


「なるほどだっぺ」


「だから、超巨大魔石をアイアンゴーレムに運ばせ、増幅魔法陣で巨大魔石の魔力を遠隔で、強化鎧に飛ばしてやるんだ。そのフィールドでは、青の騎士は無限に動けることになる」


「……凄いアイデアだっぺ……。増幅装置から魔力を飛ばすって事だっぺな。それを領内の各地に埋め込み、さらにはアイアンゴーレムにも移動式の魔石を持たせるって事だっぺ?」


「そういうことだ。そうすれば機動力もあがるし、新しい機能を鎧に持たせることができそうだ。さらには、新兵器も魔石の換装が必要なくなるかもしれん」


「分かったっぺ!」


「まずは領地から始める事にしよう」


 するとワイアンヌが手を挙げる。


「あ、あの! 測量であれば、得意です!」


 それを聞いてマージが口を添える。


「世界を旅したんだものねえ。ここにいる人間で、それは可能だろうね」


「俺と風来燕は、死ぬほど魔石を集めて来るとしよう。設計をしたら、俺が最終的に調整をするから、アーンとマージとメルナでそれを作ってくれ」


「わかったっぺ!」

「面白くなってきたねえ」

「私も頑張る!」


「ああ、メルナ。メルナの魔力が無いと話にならんからな」


「うん!」


「そして、ワイアンヌ。この領地が戦場になった場合、何処にそれがあればいいのかを判断する材料がいる。その為に測量をして来てくれるか? 地図におこしてもらえると嬉しい」


「わかりました」


 アヴァリの、身体調査のおかげでいろいろと見えて来たものがある。そしてこいつらが、何故二体一組で動くのかも分かってきた。一体が無事で、もう一体の脳と心臓が繋がっていれば復活できるからだ。今までは二体同時に破壊してきたが、それは偶然。もしかすると、その対にも秘密が隠されていそうだ。


 メルナが結界牢獄の魔石に魔力を注ぎ、アヴァリの部屋に鍵をかけて、牢獄を後にするのだった。

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