表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

250/307

第二百四十九話 始動する敵対組織対策

 黒曜のヴェリタスを飲ませた四人に馬を与え、一人をラングバイ辺境伯領へ、一人をセグルス・ハイデン伯爵領へ、そしてあとの二人を王都へと送り出してやった。それと入れ替わりで、シュトローマン伯爵へ送り出していたジロンが戻って来る。


 一旦、屋敷に戻りジロンの報告を聞く事にした。


「シュトローマンは、どうだった?」


「丁度、身支度を整えて、こちらに向かうところでございました」


「状況を伝えて、なにを?」


「慌てふためいておりました。ですが、王宮に直ぐに書簡を出すと言い出しました」


「止めたか?」


「はい。敵に奪取されて、届かぬ恐れがあると。ですが話し合いの末に、配下を商人に潜らせていくという話になっております。しかも書簡をしたためれば、敵にバレる可能性もあるとおっしゃって、特殊な方法で伝えるという事を話していました」


「特殊な方法?」


「詳細は分かりかねます。シュトローマン家と王家での間で伝わる方法だそうです」


「そうか」


《まがりなりにも伯爵です。何か特別な方法があるのでしょう》


 丁度いい。こちらが送った騎士との話に整合性が付く。


《そのようですね》


 今日の俺とメルナとマージは、オリハルコンの採掘をしていた。既にリンデンブルグで使用する為の、ウィルリッヒ、フロスト、ヴァイゼルの鎧の部品を完成させている。さらに、ドワーフたちのミスリル鉱採掘も順調で、アーンが作る強化鎧はミスリル鋼で作られるらしい。アーン曰く、ミスリルは魔法伝達がすこぶる良く魔法陣が馴染むのだそうだ。

 

 俺に報告を終えたジロンに、もう一つお願いをすることにした。


「ジロンは疲れているか?」


「いえ。馬は好きなので楽しいです」


「もう一走り、お願いしたいのだが?」


「なんなりと」


「今日半日休んで、明日の朝になったらすぐにパルダーシュに出発してほしい。到着次第、フィリウスに伝えてほしいんだ。そして出来れば、信用出来る魔法使いを二人、送ってほしいと依頼したい。シュトローマンを真似て、こちらも商人に紛れ込んで出てもらう予定だ」


「商人に? なら……もちろん私でもいいのですが、そう言う事でしたらサムスが適役かと思われます」


「そうなのか?」


「昔、奴は旅をしていたらしく、あちこちの訛りを話せます。騎士団では諜報の役割もしてましたので、密偵でしたら奴が適任かと」


「わかった。サムスには夜にここに来るように言ってくれ。ジロンは休むといい」


「休んでなどおられませんよ。直ぐにレイ団長のところに行きます」


「自由にしてほしいのだが」


「は! それでは、自由にさせていただきます!」


 そう言ってジロンは下がって行った。そして端で聞いていた、マージが言う。


「だんだんと領主っぽくなってきたねえ」


「そうか?」


「コハクのやり方ならば、部下達はやりやすいと思うさね」


「そうなのか?」


「そうさ。なんたって、好き嫌いもしがらみも何もない男だからね。部下のいう事もよく聞くし」


「当たり前じゃないのか?」


「それがなかなか出来ないのが貴族ってもんさね」


《適材適所。有効に使うならそうあるべきです》


 当然だ。


「じゃあ、そろそろやろうかねえ」


「ああ、そうしよう」


 そして俺とマージは、いよいよ本題に入る事にする。本当は帰ってすぐに取り掛かるところだったのだが、いろいろあり対処の方が先になってしまったのである。ようやくやるべき事に取り掛かる事にした。


 屋敷を出て、重機ロボットを一台引っ張り出す。俺達が歩きだすと、ゴウンゴウンと音を立てて付いて来る。指示さえ出せば、裏切る事は無くその通りに動くのだ。それも全て、アイドナがプログラムを書き換えた事で可能になっている。さらに、指示を出すプログラムをバージョンアップしたらしく、能力が格段に上がっていた。


 ドワーフの里の側にある、アヴァリ専用の牢獄へと足を運ぶと、既にドワーフたちが突貫工事で完成させており、アーンとマージが一緒に魔法陣を至る所に刻んでいる。この牢獄自体が結界牢獄というらしく、アーン達のおかげでかなり精密に組まれているのだそうだ。


「王都のよりも堅牢というのは本当か?」


「天工鍛冶師が彫ったんだよ。そりゃ凄い効果さね」


「なるほど」


 まずアーンをむかえに行くと、その後ろにワイアンヌもついてきた。どうやら作業全部を見ているらしく、金魚の糞のように常に一緒にいるらしい。


「お師匠様! いよいよだっぺか!」


「ああ。フィラミウスはいるか?」


「部屋の前にいるっぺ。それと青の騎士が三人ほど見張ってるっぺよ」


 そして俺達が、岩の牢獄の扉を開けて中に入る。すると大きめの重機ロボットが、コンパクトに折りたたまれて中に入れる大きさになった。直ぐに地下に続く階段が伸びており、俺達は地下へと潜って行く。あちこち魔法陣が光っているのは、何処から攻撃されても破れないようになっているらしい。俺達の後ろを、箱の車のようになった重機ロボが下りて来る。


 階段を下りた所のドアを開けると、そこにフィラミウスと三人の騎士がいた。


「お疲れ様」


 俺が言うとフィラミウスが答える。


「いえ。私は殆ど仕事をしていません。補充された魔石が動いており、一日一回魔法を補充するだけですし、後は見張りだけ。むしろ動いてないので、太ってしまうのではないかと、そちらの方が心配ですわ」


「じゃあ、交代だ。フィラミウスは休んでいい」


「ふう。分かりました。ようやく日光が浴びれます」


「そうしてくれ」


 そしてフィラミウスは、部屋を出ていく。メルナとマージが交代で入り、そして俺がドワーフの青の騎士に言う。三人ともドワーフから選出された騎士で、ここはドワーフが管理する事になっていた。俺は部屋の奥にある、両開きの扉をみてドワーフに言う。


「開けてくれ」


「わかったっぺ!」


 ドワーフの二人が、鍵を取り出し扉の両脇にある穴に同時に差し込む。合わせて同時に鍵をひねる。


 ガゴン! ガゴン!


 俺がアーンに聞いた。


「二人でやらないと開かないのか?」


「そうだっぺ! 万が一があるといけねえっぺよ!」


「アーンが考えたのか?」


「いんや。アイデアはワイアンヌだっぺよ」


 俺がワイアンヌを見ると、ぺこぺこと頭を下げて言う。


「南の国で、同じ様な牢獄を見ました。それを見よう見まねで、アーン様にお伝えしたところ出来上がったという訳です」


「なるほど。二つは連動しているのか?」


「そうだっぺ!」


 力持ちのドワーフが、グイっと扉を中に押し込む。かなり分厚い扉で相当の重さがありそうだった。


 そして中に入る。


 それを見て俺が驚く。


「これは……」


「大賢者様とワイアンヌと一緒に、考えてこうなったっぺよ!」


 そこには衝撃の光景が広がっていた。


 なんと柱にアヴァリが固定されており、両腕が壁から出ている鎖につながれている。胴体から足までが完全に柱に打ち付けられており、体中になにか細いパイプのような物が刺さっていた。その上から透明なフードがかけられており、アヴァリはその中で眠るように動かない。


 そしてその足元には、ミスリルの板が置いてあり、そこに魔法陣が掘られてアヴァリを照らしていた。


「構造を聞いてもいいか?」


「鎖と柱、そして柱に打ち込んだくさびには全て魔法陣が刻まれてるっぺ。足元のミスリル版は軽い闇魔法を照射するもので、透明なガラスのフードには結界魔法陣が彫ってあるっぺよ」


「体中に刺さっている物はなんだ?」


「これはワイアンヌと大賢者様が共同で考えた、栄養と毒を注入できる管だっぺ。暴れれば毒が、生体を維持する為には、魔獣や人から取った血を混ぜて時おり入れてるっぺ」


 周りの壁を見ると、一面に魔法陣が何個も彫られている。


「部屋の周りの魔法陣は、魔法の強化の為に使われているっぺ。いわば増幅装置で、少量の魔石の魔法を何倍にもする仕掛けだっぺ」


《凄いものです》

 

 だな。


 するとマージが言う。


「全てはアーン様の設計さね。流石は天工鍛冶師様と言ったところかねえ」


 それを聞いた、ワイアンヌも言う。


「その通りでございます。これは並の天才では作れません。それだけ計算され尽くしてます」


「そうか。ありがとうアーン」


「そ、そんな事無いっぺ。後は、可能であればお師匠様に手直しをお願いしたかったっぺよ」


「ああ。それで呼ばれてきた」


「全ての設計の狂いを、完全に無くすことは出来るっぺか?」


「分かった」


 ピッ! ピピピピピピ! とアイドナが全ての魔法陣をマーカーでチェックし、その角度や作りを確認して行った。


《人が作ったにしては、完全に近いですが、やはり狂いは出ているようです》


 直せるか?


《はい。鑿と重機ロボットを使って修正します》


 俺がアーンに言う。


「完全ではない。俺が精密に調整する」


「わかったっぺ!」


 アーンは目をキラキラさせて嬉しそうに言った。どうやら、俺の作業を見たいらしい。


 そして俺は鑿を持ち、重機ロボットをアイドナが操作する。すると、ゴウンゴウンと音を立てて、重機ロボットが俺を持ち上げた。まずは天井の魔法陣に微調整を加えていくためだ。それからしばらくは、天井の魔法陣を書き直し、そして次に壁一面の魔法陣を書き直す。徐々にアヴァリに近づいていき、アヴァリの鎖や周辺の魔法陣に微調整を加えた。


 一時間以上やっていたが、皆が飽きずに俺の作業を見守っていた。


「やっぱり……まだまだだっぺな」


 アーンが言うと、ワイアンヌが目を丸くして答えた。


「天工鍛冶師様が掘ったものの、調整が出来るのですか? お館様は?」


「そうだっぺ」


「素晴らしい!」


 そして俺が掘り終えると、アイドナが重機ロボにプログラムし、岩の角度などを微調整していく。


 ブン!!! 明らかに、空間の質が変わった。とても硬質な空気に変わり、よりいっそう魔力の流れが効率化されるようになる。


《これで、魔法を注ぐのは三日に一日ですみそうです》


 それをアーンに告げる。


「効率化がなされた。これで、魔法増幅は更に三倍に上がる」


「素晴らしい……っぺ……」


 アーンは呆けていた。ドワーフたちが力を合わせたものの、やはり細かいところは機械にはかなわないという事だ。全てが終わり、アヴァリを包む光がより一層質感を増す。


 ワイアンヌが言う。


「まるで光が手に取れそうです」


「これがお師匠様の力だっぺ」


 だが、ここから先が俺とマージの気になるところだった。完全な牢獄を作ったうえで、次にやる事。それはアヴァリの、身体研究である。


 そこで俺がメルナに言う。


「ここからは少し具合悪くなるかもしれんぞ。外に出てるか?」


「大丈夫!」


 するとマージも言う。


「みんなもいいかい?」


「見たいっぺ!」

「わたしもです」


「んじゃ、始めるさね」


 そして俺は重機ロボットのアームに、オリハルコンで作ったメスとピンセットを取り付けた。アイドナがパネルに入力すると、ゴウンゴウンと動き出し、アヴァリに向かってメスを振るい始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ