第二百四十七話 新兵器試験フェイズ
ぞろぞろと集まって来る賊ではあるが、明らかにその動きが洗練されていることが分かる。レイが教えてくれたように、隊列を組むようにこちらに向かい、足の速い奴が囲むように外側に回り込んで行った。
《逃がさないように回り込み、何処に逃げても攻撃が届くようにしているようです》
で、殺すのはどいつからだ?
《指揮官、魔法使い、後は近づいたものを片っ端から》
了解だ。
すると相手の指揮官が叫ぶ。
「コイツは王覧武闘会の優勝者だ! 一対一ではかなわない! まとめてかかれ!」
「「「「「は!」」」」」
次の瞬間、視界の中で電子の線が浮かび上がり、アラートが光った。
《敵後方に熱源》
その前に俺が動いた。炎の塊が飛び俺がいた場所を焼く。どうやら火魔法で俺をけん制するつもりだったのだろう。しかし敵はそれを読んでいたかのように、俺の逃げた先に人垣を作った。
《魔法で誘導し、逃げたところに攻撃を仕掛ける予定のようです》
「仕留めろ!」
指揮官の声が飛び、騎士達は俺に向けて剣を振るってきた。
《右上三十二度、左水平九十度、正面突き地上百三十センチ》
全てのガイドマーカーの惹かれた場所に、ぬらりとヒカルレーザー剣を潜らせた。タイミングは全てアイドナが調整したため、敵の剣が振るわれる前に全ての手首が落ちる。
《直ぐに痛みはきません》
レーザーで焼かれたからな。
そいつらは剣を落としながらも、そのまま腕を振り切った。もちろん剣が俺に何かが当たる事は無く、俺はその間をすり抜けて先に進む。
《瞬発龍撃発動》
一瞬だった。仕留めろと叫んだ男の視界は、まだ先の剣を振っている奴らを見ている。目の前にいる俺には、体が反応していなかった。
胴体をレーザー剣で水平に薙ぎ払う。
ジュンと剣が通り過ぎても、まだ男は倒れずに先を見続けていた。そこを通り過ぎて、更に奥にいる、二人の魔法使いの背後まで走りきりクルクルと剣を回して、二人の首を斬り落とした。
ようやく前方から声が聞こえる。
「消えたぞ!」
「うぎゃあああ」
「手が! 手が!」
「な、なあああ!」
手首の先を無くした騎士達が、ようやく手を消失したことに気が付いたらしい。
ドサ!
指揮官が胴体から真っ二つになって、足だけが仁王立ちしていた。
「団長!」
「あ、あいつは! どこだ!」
ドサ! ドサ!
二人の魔法使いが倒れて、ようやく全員がこちらに目を向ける。
「あそこだ!」
「いつのまに!」
隊列は一気に乱れて、騎士達が狼狽え始める。だが一人の男が叫んだ。
「隊列を崩すな!」
《もう一人指揮官がいるようです》
アランのような副官か。
《そのようです》
どうするか?
《では、光鞭試験フェイズに入りましょう》
わかった。
そう、俺は何故、仲間達と来なかったのか。それは新兵器を試験する為だったのだ。これから使う兵器は下手をすると味方を巻き込む恐れがあった。そのため、レイの申し出を断り一人で来たのである。
シュン! とレーザー剣の光を納めて懐にしまう。次に取り出したのは、イラが使っていた光鞭の柄の部分だ。
《発動》
シュオン! するとその柄から光の鞭が飛び出して来てうねる。
《操作が難しいため、指示通りに動かしてください》
わかった。
ガイドマーカーが引かれて、俺は無造作に歩き始める。するとアラートが鳴り響いた。
シュパン! どこかから弓矢が飛んで来たが、それを空中で光鞭が叩き落とす。シュパン! シュパン! シュパン!と次々に弓矢を落とし、一番近い騎士の前を光鞭が通り過ぎる。
カカカカカ! と、剣がぐにゃりとまがり、赤く熱せられていた。
「あち!」
「剣が!」
「怯むな!」
《三人一組を基本にしているようです》
そうか。
そしてぶるん!と俺が腕を振るうと、光鞭が一気に三人に巻き付いた。
ジュゥゥゥゥゥウ!
「ぎゃあああああ!」
「うがあああああ!」
「おげえええええ!」
肉の焦げる匂いがたちこめ、騎士達の胴体部分から煙が上がり始める。
シュン! と光鞭を消す。
ドサ! ドサ! ドサ!
体の中央部分を焦がしながら、のたうち回る騎士達。
《なるほど、使い方が分かりました》
原理は?
《細いワイヤ―が、高熱を発しているのです。いわゆるヒートロッドです》
そういうことか。
《この兵器も非常に有用です》
すると敵の副官が言う。
「なんだ! コイツは魔法を使うのか!」
「いえ! そのような話は聞いておりません!」
「王覧武術会の優勝者で、剣聖に勝ったやつなのだろう!!」
「わかりません!」
《魔法に見えるようですね》
そして敵は、俺から距離を置き始めた。
《けん制にも使えるようです》
「盾を前に!」
ザン!
敵の前面に大きな盾が並んだ。
《光鞭の防御としては間違ってはいないでしょう》
どうするか。
《では炎剣の試験フェイズに移ります》
俺は光鞭を腰のベルトの皮の入れ物にしまう。そしてそのまま、背中のマントの下から剣を抜いた。
「いよいよ! 剣を抜いた! 皆! 気を付けろ! 三人から六人に!」
三人一組から、三、三の隊列を組み始める。
《どうやら敵の方から来てくれるようです》
そうか。
アイドナが言った通りだった。次の瞬間に号令がかかる。
「突撃ぃぃぃぃいぃ!」
「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」
《では炎剣の試験を》
俺はそのまま、剣を横凪に振ってみた。
ボォォォォォォ! と一気に炎が噴き出し、突撃して来た騎士達が業火に包まれる。
「うあああああ!」
「あついぃぃぃぃ!」
「まほうだあぁ!」
燃えて倒れた、だがその騎士達を乗り越えて次々に騎士が走って来る。
《では最大火力にシフトしてみます》
ああ。
もう一度、俺は反対から剣を振りぬいた。
ドゴボォォォォォォォ!!!
まるで龍が吐いた炎のように、一気に全部の騎士に向かって火がでる。天幕も焼け飛び、騎士達は一気に炎に包まれてしまったのだった。
「あガアアア」
「あづぃぃぃ!」
「しぬぅぅぅ!」
《焼け落ちる前に、どれか一人をピックアップしましょう》
わかった。
俺は最初に連れてきた奴に目をつけて、炎の中からそいつを引っ張り出した。皮膚が焼けてしまっているが、まだ生きているようだった。他は火がまとわりついており、叫びが静かになって来た。
《回復薬を》
バシャとかけると、シュウシュウと傷が治っていき、そいつは俺を見て怯えていた。
「た、助けて……たすけて……」
だが俺はそれには目を向けずに、炎剣のデータを見ている。
《それぞれに有効な使い方があるようです》
そのようだ。
《白兵戦では光剣、突破をするならジェット斧、攪乱や敵の動きを封じるなら光鞭》
そして、炎剣は殲滅攻撃か。
《そのようです》
それぞれの特性は分かった。後は、俺用に調整してくれ。
《了解》
そして俺は、焼け焦げる騎士達の反応を見る。
《辛うじて息をしていますが、Ⅲ度熱傷です。助かりません》
普通の炎ではないのか?
《原子の力を利用しています》
そういうことか。仲間達を連れて来なくて本当に良かった。
《想定通りでした》
森の木々も燃え始めた。
《このままだと山火事になります。レーザー剣で木を切り倒して光鞭で延焼を止めてください》
アイドナの指示どおりに、延焼を止めるために木々を斬っていく。倒れる方向を光鞭で調整しながら、天幕があった場所の周りを丸く更地にしていった。
《これで、じきに炎は消えるでしょう》
そして俺は、まだ倒れて震えている男に近づいて言う。
「来てもらおう」
頭をガクガクと振り、男は震えながら立ち上がった。そして俺は男を連れて、元来た森の道を戻って行くのだった。