第二百四十六話 潜り込んだ敵騎士団の居場所
暴れた男は、黒曜のヴェリタスを使わずとも、あっさりと白状した。賭けの場にいた奴らも、そのあまりの内容にあっけに取られているらしい。違う領地の騎士団が、陰で暗躍していると知り動揺している。
「す、直ぐに、青の騎士に伝えた方がいい!」
賭け事を仕切っている小男が言う。だが他の奴らが言った。
「いや、勝手に住み着いた奴らの面倒なんてみねえだろ!」
「ちげえねえ。儲かるからって勝手に群がった俺達の事を、守る義理はねえぜ!」
「黙ってた方がいいだろ」
だが入り口の見張りの男が、捕らえた男をみて言う。
「いや。言わなきゃ言わないで、こいつらの仲間が報復にくんだろうよ」
「「「……確かに」」」
そこで俺は男らに言った。
「あんたらは、ここで酒を飲んで賭け事する以外は何してるんだ?」
「荷物運びとか、あとはボロ屋の直しとかいろいろだよ。屋台組みの手伝いとかな」
「そうか。なら必要な事だ。それに対して出て行けと言う事はないだろう」
すると仕切りの小男が言う。
「この領の領主は、あの王覧武闘会の優勝するような猛者らしいし、睨まれたら終わりだ」
「終わる事もないだろう。それより、この死体を青の騎士に片付けてもらった方がいい」
「こればかりは、そうするしかないか……」
「あと、この生きてる奴は俺がもらっていく」
「「「「へっ?」」」」
「隠れ家に案内させる」
皆が一斉に顔を見合わせる。
「あ! や、やめとけ! こいつも言ってたじゃねえか! いっぱい仲間がいるって」
すると、縛られている奴が頭をあげた。
「そうだ! 貴様は終わりだ! こんなことになったら、仲間が黙っておかないぞ」
それを聞いた仕切りの男がマズそうな顔で言う。
「言うとおりかもしれねえ。こんな小せえ男爵領なんか、デカい貴族に簡単につぶされるぜ」
だが俺は、縛った男に行った。
「ならなぜ、こそこそしている? 正面から騎士団を差し向けて来ればいい」
「そ、それは……」
「どうせ知らんのだろう?」
「……見張れと。そしてこの領に潜り込めと言われてるだけだ。いざとなったら、決起して一気に転覆するんだ。そうなれば男爵だろうが青の騎士だろうが、あっというまさ。お前を守ってくれるような奴なんかいねえし、こんな事をしたんだからもうお前は終わりだよ」
「終わり?」
「そこの村もぜーんぶ焼かれるだろうな」
「なるほど。それは困る」
「今更遅い!」
するとにわかに、建物の外が騒がしくなってきた。それを聞き、男達が一気に青ざめていく。
「な、仲間らが来たんじゃねえか!?」
「あんた……殺されるぜ。早く逃げればよかったのに!」
すると縛られている男が高笑いする。
「うひゃひゃひゃ! いい気味だ! まぐれで人を二人も殺しやがって」
まぐれだと思っているのか?
《力量が違いすぎるので分からないのです》
なるほど。
そして俺は、このボロ屋の中にいる男達を見渡して言う。床に倒れている男を指さす。
「俺が逃げたら、あんたらが殺されるだろう?」
小男が言った。
「そうだな。とにかく状況を説明するしかねえ」
すると入り口の男が言った。
「あんた、残念だが殺される。俺達はさすがに守ってやれねえ」
「もちろんだ。全て俺がやったと正直に話をするさ」
だが子供が俺の手をぎゅっと引っ張った。
「死んじゃうの?」
「さあてな。どうなるか」
そうして男達は死体と、縛られた男を担いでボロ屋の入り口から外に出る。そのまま路地裏から、表通りの方に抜けて行った。村人が何事かと表に出てきているが、俺達はその中を歩いて行く。
すると見張りの男が言った。
「あ、あんたついてるぜ! 青の騎士だ!」
一気に形成が逆転し、縛られている男がガチガチと震えはじめる。そして俺が、青の騎士の前に姿を見せた時だった。
ザッ! と一斉に、青の騎士が跪いた。
「青の騎士参上しました! お館様!」
レイが言うと、男達はあっけに取られて俺の顔を見る。俺がフードを脱ぎ二体の死体を指さして言う。
「これの始末を頼む」
「「「「「は!」」」」」
小男が目を丸く見開いて言う。
「りょ、領主様あぁぁ???? あんたが!?」
「ああ、言ってなかったか?」
すると男達も一斉にひれ伏した。そして俺がしゃがみ込み、縛っている男に言う。
「さて、案内してもらおうか」
男は小便を垂れ流し、真っ青な顔でガチガチと歯を鳴らしている。それを見たレイが俺に聞いて来た。
「して、お館様。状況はどのように?」
「隠れ家に三十から四十の仲間がいるらしい」
「では、討伐に向かいますか?」
「いや。コイツの話が全てとは限らん。俺一人で行く」
「しかし……」
「皆は、村と領地の警護に周れ。何かがあっては、村人が殺されてしまう。命令だ」
「「「「「「「は!」」」」」」」」
そして俺はその縛っている男の、足の鉄ひもを斬る。腕を持ってグイっと立たせた。
「俺を連れていけ。一人で行ってやろう」
「男爵様が……おひとりで?」
「嘘は言わん」
「……はい……」
青の騎士と村人の間を、フラフラしながらも歩きだす。俺が腕を持っているので逃げる事は出来ないが、それでも何とか前に進んでいた。するとあちこちから、ヤジが飛び始める。
「とっとと出てけ!」
「疫病神!」
「迷惑してんだよ!」
「随分と人気が無いな」
「……」
俺は村を出て、街道を南側の森に向かって歩いて行くのだった。しばらく歩いていると森が近づいて来て、男がその森の奥にいると言った。
《嘘をついています》
俺はナイフを取り出して、ドスっと腕にさした。
「うぎゃあ!」
「ちゃんといるところに連れていけ」
「うぐぐぐ」
「次は殺す」
結局、男は観念して、別な方向に進み始めた。するとアイドナが言う。
《草が踏まれている場所があります。人の足跡だと確定》
よし。
「今度はちゃんと連れてきたようだな?」
「男爵様は本当に一人で行くのか?」
「そうだ」
「馬鹿なのか? 三十人以上いるんだぞ? 青の騎士を連れて行かないのか?」
「彼らには彼らの仕事がある」
俺は男の腕をつかみ、草の踏まれた跡を入っていく。少し進んでいくと、ピィィィと微かに笛の音が聞こえた。
《見張りがいるようです》
どうすべきだ?
《正面からどうぞ》
俺はそのままアイドナの指示通りに、森の中を進んで行った。するとその奥に、天幕が並んでいる場所が現れたのだった。
こんな所に侵入されているとはな。
《リンデンブルグに遠征している間に、入り込まれたのでしょう》
そして俺は男の、手を縛っている鉄のひもを斬る。
「行け」
「は?」
「行って知らせて来い。領主が来たと」
「……バカか?」
そう言って男は、天幕で出来た村の奥へと走って行ってしまった。すると数ある天幕の中から、ぞろぞろと騎士達が出て来る。
逃がした奴が、何かを伝えている。
《指揮官が判明》
あれがそうか。
《優先対象となります》
わかった。
騎士達が剣を抜き始め、どうやら後方には魔法使いらしきものもいるようだ。俺は懐からレーザー剣をりだし、アイドナが表示するサーモグラフィとエックス線の表示で、全ての騎士の位置を確認し終える。
シュゥゥゥゥン! とレーザー剣の光をだし、俺は敵騎士団と相対するのだった。