第二百四十五話 不審人物の確保
男らを逃すわけにはいかないので、俺は少女の手をぎゅっと握って入り口の奴を押し切り、前の三人について行く。中に入ると椅子に座っている奴らが、入って来た三人から目をそらすように座っていた。
「おう、じゃまするぜ」
そこに、ここを仕切っている風の男がニコニコ笑いながら来る。
「あ、これはこれは」
「青の奴らには見つからなかったか?」
「そうっすね、それで……そっちの人は?」
どうやら、俺の事を言っているらしかった。三人がハッと振り向いて俺を見る。
「なんだてめえ」
そして一人の男が、少女に目をやって言う。
「確かこいつ仕事場の子供だぜ」
真ん中の男が俺に言って来る。
「ん? なんだぁ……てめえアイツらにたれ込むつもりか?」
《騎士団に密告するのではと言っています。あなたが領主と気づいていないのでしょう》
「いや。そのつもりはない、ここは何をやっているところだ?」
すると、それには誰も答えずに仕切っている男が言う。
「あんた。悪いことは言わねえ、帰ぇんな! 子供連れじゃねえか」
だが、屈強な男はボロのマントの下から、腕を抜いて仕切り役を制する。
「いやいや。まて、よく見りゃ顔立ちの整った子供だな」
そこにいる奴らが水を打ったように静かになる。そして外に立っていた、見張りの男が入って来た。
「あ、ああ。すまねえ、俺がちゃんと止めなかったからな。あんた、子供連れて帰んな!」
「てめえも引っ込んでろ!」
そう言われ見張りの男が黙る。少女が俺の手をぎゅっと握りしめ震えはじめていた。そこで俺が言う。
「この子の事はお前には関係ない」
「はあ? こんな所に連れて来てか? 売りに来たんじゃねえのか?」
何を言っているのだろう?
《子供を売りに来たと思っているのです》
「この子は奴隷じゃない。俺は売られた経験があるが、この子は村の子だ」
「なんだ、てめえ。奴隷か?」
「まあ、そうだった」
すると三人が顔を見合わせて、ニヤリと笑って言う。
「みかじめ料ももらうが、この子供ももらっていく」
「だ、旦那……。なんで」
「青のやつらが居ねえときにここに来たのが悪い。売りに来たと言ってもおかしくねえだろ?」
「そ、それは」
ドガッ! いきなり仕切り役が蹴り飛ばされた。近くのテーブルに転がり、上に乗っている物をまき散らす。そして入り口の見張り役の男が言った。
「いや、確かにコイツが悪い。だけど、今日のところは見逃してやってくんねえかな」
「貴様。誰にものを言っているのか分かってるのか?」
「いや……それは……」
だが俺は見張り役に手を挙げて言う。
「ほっといてくれ。俺はこの三人と話がしたいんだ」
「お前……何言って……」
すると目の前の三人は下卑た笑いを浮かべて、俺の顔を見て言う。
「なんだ、やっぱり売りに来たんじゃねえか」
「売りものじゃない。この子は俺をここに案内してくれただけだ」
「うるせえ!」
そう言ってそいつの体が、動き出すシグナルを出した。俺はゆっくりガイドマーカーに沿って体を動かし、女の子に影響が出ないようにする。そいつの拳は俺の顔に当たらず、空を切った。
《素人ではありません》
そのようだ。
すると入り口の見張りが俺に言う。
「あんた、逃げろ! その子を連れて!」
「何故、俺が逃げる必要がある?」
「はあ? あんた状況が見えてねえのか? 殺されるぜ」
「そんな訳がない」
目の前の奴らのステータスは、レイたちよりも下回っている。
《あなたに危害を加えられる確率はゼロパーセントです》
だが俺のその言葉に、座っていた連中が慌てて部屋の角に逃げていく。すると三人は、ボロのマントの下の剣に手をかけた。
「子供をおいていけ。そうしたら命は助けてやる」
「おいていったらどうするつもりだ?」
「決まってるだろ」
「わからん」
「仲間達が可愛がってやろうってんだ。ここは、青の奴らが目を光らせているからな。女も売ってねえようなこの土地じゃ、俺達も息が詰まるってもんだ」
「なら、この土地を出て行けばいいだろう」
「はあ? てめえに関係ねえだろ」
そして俺は言う。
「その長物をこんな狭いところで振るうつもりか?」
そいつが剣を抜こうとしたので、ガイドに従い俺は男に密接するように立つ。
「なっ!」
そのまま胸のあたりに手を当てて、膝の後ろに足をかけて押す。ぐらりと体制を崩した男がそのまま後ろにひっくり返る。
「てめえ!」
横の奴が剣を抜こうとしたので、足をガイドマーカーに沿って出す。すると柄の部分を足で抑えられて剣が抜けなくなった。反対側の男も剣を抜こうとしていたが、その握る拳に思いっきり拳を振り下ろす。
「痛て!」
そのまま子供の手を引っ張りつつ、その男の背後にするりと回り込んだ。すると俺が足で剣を押さえていた奴が、ようやく剣を抜いて構える。俺はそのまま目の前の男を、思いっきり前に押した。
ズド!
「は?」
「えっ? おま……」
その剣は、俺が突き飛ばした男の腹に刺さっている。
「な、なにやってんだ」
「ゴフ!」
その男は口から血を吐いて言う。
「さ、刺しやがったな……」
「ワザとじゃ……」
ひっくり返っていた男が半身を起こしたので、俺がそのまま足の裏で頭を蹴り飛ばす。男はまた床に転げて伏せる。
一瞬の出来事に、中の男達も何が起きたか分からないようだった。
そこでもう一度、見張りの男が言う。
「あ、あんた。とんでもねえことを。殺されるぞ」
「誰が誰を殺すと」
「こいつらには仲間達がいるんだ」
《証言が取れそうですね》
「何か知ってるのか?」
「い、いや……」
男を刺してしまった男が、慌てて剣を引きぬくと大量に血が出てきた。
《抜かなければよいものを》
止血しないと死ぬな。
《もう一人くらいやっておきましょう》
わかった。
剣を抜いた奴は、剣を振る事が出来ずに突き入れて来る。しかし俺はその突きを躱し、剣を持った拳をそのままつかんで背負うようにして回りこみ、グイっと剣を後ろに突き出させた。
「あが!」
転がっていた奴が起き上がろうとしていたところで、剣が首元にするりと入る。
「えっ!」
そこで俺は腕を握りながら言った。
「おまえ。何人も仲間を殺して良いのか?」
「い、いや……これはお前が」
俺はそのまま、そいつの顎に拳を振りぬいた。ガイドマーカーが導く角度で入った拳は、脳を震わせてそいつの意識を狩る。素粒子AIの演算は殴り合いでも正確に働いた。
ドサリ。
「とんでもねえことを! こんなことをしたら俺達がやられる!」
「いや。大丈夫だ」
「青の騎士はいつもはいねえんだ。こいつらの仲間が報復しに来る」
「その場所は分かるか?」
「たぶん、村の外だ。森か……どこかにアジトがある」
そこで俺はもう一度聞く。
「方角は?」
「わからない。コイツらは殺しも厭わないんだ。この村で好き勝手やって、青の騎士が来るといなくなる。子供らも連れていかれて、だれも逆らおうとはしてないんだ」
「わかった」
そして俺は意識を狩った奴の手と足に、ドワーフたちが作った細い金属のひもをかけた。そして胸から小瓶を取り出して、そいつの鼻元へとつける。
「う、うう……」
「起きろ」
「うっ。な……これは?」
「仲間二人は間もなく死ぬだろう。お前も後を追いたく無ければ洗いざらい話せ」
「貴様! こんなことして!」
俺がナイフを取り出して首元に突き付けると男は黙った。俺は、また尋問をすることになるのだった。ここ最近は、なぜか尋問ばかりしている気がする。
《ですが、敵はまだしっかり入り込んでいるわけではなさそうです》
危ないところだがな。
《一網打尽にする為の網は万全です》
そうだな。
そして俺は男にナイフを突き付けながら、話を始めるのだった。